決闘-3
声もなく立ち尽くす観衆と、口を開けて呆然とするザック。リーフの体を包み込む、濃密な赤色の"球体"。
果てしなく凝縮され、いっそ黒く見えるほど濃く閃く赤色の魔力が、半径1メートルほどの球の形に圧縮され、リーフの体を覆っている。オトのような魔導師でなくとも、多少魔法に心得がある者ならば、肌で感じるはずだ。
あの球体に宿る、桁外れの魔力量を。
並の人間が100人、体内のすべての魔力と命を引き換えにしても、あんな馬鹿げたエネルギーはひねり出せない。あいつが、魔人だから――そこまで考えてオトは的はずれな思考を追い出した。魔族の上位種である魔人であったとしても、あんな魔力量は普通じゃない。
魔力回路は、使い続けることでより太く、強くなっていく。あいつは毎日魔力が空っぽになるまで魔法を使っていたというのか? いったいどんな生活をしていたらそんなことが起こり得るのか。
「すっ、【石礫】!!」
防衛的に発動した【石礫】がリーフに襲いかかるが――彼の体を包み込む赤黒い球面に触れた瞬間、ジュワ、と蒸発するようにして消滅してしまう。チリも残らず消えてしまった己の魔法を見て、ザックは腰を抜かした。
「なっ、なんだ、その魔法!? 聞いてねえぞ、お前、【回復魔法】しか使えないんじゃなかったのかよ!?」
「え、なにか問題が? 僕もそちらの魔法を知らなかったんですが」
赤い結界を身にまとったまま、リーフは無遠慮にザックに向かって歩いていく。空気が、結界に触れた端から抉れるような悲鳴を上げる。触れるもの全てを破壊する結界――【破界】。
「へたりこんでないで、はやく続きをしましょう。もう攻撃していいですか?」
純朴な顔で小首をかしげるリーフに、ザックは取り落していた斧を半狂乱で掴み取り、間合いに入っていたリーフの首めがけて奇声を上げて振り抜いた。
「し、シネエエエエエエッ!!!」
しゅわ、と軽い音を立てて、斧は根元付近までさっぱり消滅した。ずいぶん軽くなった斧の勢いにつんのめったザックの鼻先が、【破界】の膜に触れて蒸発する。
「はぎゃああああああああああっ!!!?」
「おっと、危ない」
殺してはまずいと慌ててリーフは【破界】を解除した。猛禽に食い千切られたように抉れた鼻をおさえ、ザックが悶絶する。ボタボタボタ、と彼の指の隙間から大量の血がこぼれた。
「もう休憩はいいんですか? じゃあ試合再開ですね」
痛みに苦しむザックに対して、リーフは血も涙もない爽やかな笑顔で手のひらをかざした。次の瞬間――彼の手から放たれた透明な砲撃が、ザックの巨体をボールのように吹き飛ばした。
「ぶべらぁっ!?」
盛大に転がり、そのまま場外スレスレまで飛んでいったザックが砂地を滑って止まる。エリナは目を見開いた。今のは――ギルドのカウンターで、エリナを灰皿の飛来から救った、"見えない魔法"。
「な……んだぁ、今のはぁ……!?」
「【創造魔法】で"衝撃"を創造しただけですよ。威力の調節が難しいな、これ……加減しすぎた」
ほおをかきながら、もう一度右手をかざして。
「これくらいかな?」
リーフの手から、轟音を上げて不可視の爆撃が放たれた。土煙を巻き上げて唸り、間もなく横殴りの竜巻となった衝撃波の規模は、優に直径10メートル超え。
軟弱な観衆たちが余波で吹き飛び、ドミノ倒しに転倒していく。飛び交う悲鳴と絶叫。顔を真っ青にして固まるザック。リーフ本人も、あまりの威力に目が点になっていた。
「エクストラスキル――【万物切断】!」
爆風を斬り裂いたのは、《剣聖》の一振りだった。ザックの前に躍り出たアルテの剣が、リーフの衝撃波を真っ二つに斬り伏せた。分断した衝撃波はアルテの左右に反れて後方へ駆け抜け、十数メートル地面をえぐってようやく消滅した。
「言ったろ? 危なくなったら止めるって」
得意げな笑顔で、アルテはオトの方を見て笑いかけた。
第三者の乱入という幕引きになったものの、この決闘の勝者がリーフに決まったことに対して、異論を挟める者など一人もいなかった。




