冒険者ギルド-2
エリナの説明を、リーフはふんふんうなずきながら真剣に聞いた。ちらっと横のオトの首もとを見ると、光沢を放つ銅の欠片が提げられていた。
オトは銅級らしい。まだ若いのにすごいなぁ。
「それでは、どのギルドに所属するか適性を測らせていただきたいので、まずはレベルと所持スキルを教えていただけますか?」
手元に書類と羽ペンを用意したエリナに言われて、リーフは口を開けたまま固まった。レベル……は以前アルテに聞いたことがあるが、《スキル》とはなんだ?
困り果てたリーフに間髪入れず、オトが「レベルは1、スキルは【自己再生】だって言ってたよ」と口を挟んだ。
「まぁ、珍しいスキルを持ってるんですね」
「ねー。まるで魔族みたいだよな」
「こらオト君、失礼だよ」
「あ、あはは……」
リーフは下手な愛想笑いでどうにか話を合わせた。どうやらスキルというのは、人間固有の能力らしい。オトは魔族の特徴である自己再生能力をスキル扱いで報告することでこの場をやり過ごし、万が一、リーフが人前で自己再生してしまったときの予防線まで張ってくれたようである。見かけによらず、とても機転が利くようだ。
「スキルは壁職向きですね。でも体格は支援職向きかしら。リーフさん、何かお持ちの魔法はありますか?」
反射でバカ正直に答えかけて、またリーフは固まった。【破壊魔法】なんて言ったらどんな凶暴なギルドに入れられるか分かったものではない。かといって、魔法が一つだけだと怪しまれる。魔法は必ず2つ。常識だ。
「えっと……【回復魔法】と、【創造魔法】です」
悩んだ末に、リーフは我ながら上手い逃げ道を思いついたと思った。ところが、これが大失敗だった。
「え……?」
「は!?」
エリナさえ営業スマイルを崩し、オトも、周りの冒険者たちまでギョッとリーフに視線を集めた。あんなに騒がしかったのが嘘のように、場が静まり返る。
「あの……【創造魔法】、でお間違いありませんか?」
「そうですけど……?」
そのとき、どっ、と冒険者たちが腹を抱えて笑い出した。顔を真っ赤にしたオトが隣からリーフの頭をしばく。
「しょーもねえウソつくな、バカやろう!! 【創造魔法】っつったら《超律魔法》! 魔法学的に存在が否定された空想上の魔法! おとぎ話だろうが!」
「え、そうなの……?」
目が点になったリーフに冒険者たちの笑い声がさらにボリュームアップする。その声にまぎれさせて、リーフは小声でオトに尋ねた。
「えっと、ちなみに【破壊魔法】は?」
「それも《超律魔法》だろ! わかりきったこと聞くな、おちょくってんのか!」
なんてことだ。
アルテはそんなこと教えてくれなかった。それとも知らなかったのか。アルテは学校にも行っていなかったみたいだから、ありえる話だ。
「お、オト君どうしよう!? 魔法が二つないと怪しまれるよ!」
「はぁ? お前、それは魔族の話だろうが! 人間は魔法を後天的に習得するんだよ! ゼロのやつもいれば百種以上使えるやつもいる!」
「えっ、そうなの!? あ、あのっ! すみません、間違えました。僕、【回復魔法】しか使えないんです!」
慌てて訂正したリーフに、いよいよ冒険者たちの爆笑が膨れ上がる。「なんだよ!」「見栄張っちゃったのねー、かわいい!」と散々に馬鹿にされたが、あれ以上目立ちまくって正体がバレてしまうほうがおおごとだ。
「そうでしたか、かしこまりました。では、ご紹介できるギルドは《治癒師ギルド》ぐらいになりそうなのですが……」
申し訳なさそうにエリナが言うが、願ってもない。
「そこでお願いします!」
エリナは手早く手続きをしてくれた。リーフ以上に恥をかいたような顔で、オトは顔を真っ赤にして「ありがとエリナさん! おい、いくぞ!」とリーフの手首を引き、カウンターから抜け出そうとする。
そのとき。
「冒険者登録おめでとう、新人。祝いに一杯おごるぜ」
冒険者の人だかりを押しのけて、声をかけてきたのはスキンヘッドの冒険者だった。巨大な戦斧を背負った屈強な男は、いかつい顔ににこやかな笑みをはりつけてリーフに近づいてくる。
「うわぁ、出たよ《新人狩り》のザック」
「あいつの酒に口つけちまったら最後、難癖つけられて今後一生しぼりとられることになるぜ」
何やら冒険者たちがヒソヒソ話し始める。エリナが営業スマイルのまま、ザックとリーフの間に割って入った。
「ザックさん、彼はまだこれから配属先のギルドに行かないといけませんから」
「そんなの別に急ぎでもないだろぉ? 俺は好意で言ってるんだぜ」
「される方からすればハラスメントですわ、ザックさん」
笑顔を崩さずエリナが毒を吐くが、ザックも強情な男だった。構わずずいっとリーフににじり寄る。
「なぁ、飲むだろ? 二階の酒場に上等なワインをキープしてるんだ」
「やめろよ」と、今度はオトが進み出てリーフを背に隠した。
「こいつはまだこの街に来たばかりなんだ。勘弁してやってくれよ」
オトの顔を見た瞬間、ザックのうさんくさい笑顔がすっと消えて、侮蔑的な目で彼を見下ろした。
「なんだ、臭えと思ったら《ゴミ箱街》のガキがいたのか。のこのこ出歩いてんじゃねえよ、臭いが移るだろうが」
鼻をつまんだザックに、くすくす、と、何人かがつられて笑った。
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