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追放-1

「ようリーフ、おはよう!」


 笑顔とともに、陽気な右ストレートが飛んできた。


 豚男オークの腕力が鼻骨びこつを粉砕。鼻血をふきだして倒れたリーフを囲んで、通行人たちが爆笑する。


「お、おひゃようございます、ゴッソさん」


 笑顔であいさつを返しながら、リーフはひん曲がった鼻に手をかざし、【回復魔法】で再生させた。紫色の光に包まれて鼻の激痛が引いていき、一秒とかからず元の形に戻る。


「おう、新しいやりを買ったんだ。ちょっと突かせろよ」


 毛むくじゃらの顔面に乗っかった豚の鼻が、フシューッと荒い息を吐く。豚男オークのゴッソは新調したらしい槍を見せつけるように掲げ、その場でブンブン回してから切っ先をリーフの顔に突きつけた。ゴッソの左右で、取り巻きの小鬼ゴブリンたちが下品に笑う。


「え、えっと……今はちょっと急いでて」


 苦笑したリーフの腹を、ゴッソの槍が勢いよく貫いた。




 《魔族》とは、奪い、犯し、殺すことを何よりの愉悦ゆえつとする種族。これは、すべての魔族が唯一王《魔王》の血から生まれるため。魔王の邪悪で残虐な性質を引き継いでしまうためだ。


 ところが、魔族の中でも特別に魔王の血を色濃く受け継いだ上位種――《魔人》でありながら、リーフは突き抜けて心の優しい少年だった。


 争いを嫌い、誰かの力になることが生きがいで、いつ何時なんどきも笑顔でいる。誰一人、リーフが怒る姿を見た者はいない。


 魔族たちにとっては、これが相当に不快で気味の悪い性質だった。幼少期から、リーフは当然のようにいじめられた。


 リーフが魔族に忌み嫌われる理由は、もう一つある。


 すべての魔族は、必ず二種類の魔法の適性を持って生まれる。ところが、リーフはたった一つ、それも最弱と言われる【回復魔法】しか使えない「落ちこぼれ」だったのである。


 傷を癒やす【回復魔法】は一見便利な魔法に思えるが、魔族にはもともと、高い自己再生能力が備わっている。最上位の魔族であれば、片腕の欠損も数秒で治ってしまうほどだ。


 故に、【回復魔法】しか使えないリーフは《無能》とさげすまれた。


 どんなに痛めつけられても決してやり返さない上に、自分の傷を【回復魔法】で即座に治せるリーフは、やがて「無限サンドバッグ」と呼ばれ欲望のはけ口になった。リーフであれば、通りすがりにいきなり殴り飛ばしても斬りつけてもいいという共通認識が生まれた。


「おら、早く立てよォこの無能が!」


 薄暗い路地裏。槍で滅多刺しにされ、血溜まりに転がったリーフの髪を毛むくじゃらの手で掴んで、ゴッソは無理やり引き上げた。


「倒れてるやつを刺してもつまんねえだろうが! さっさと治せグズ!」


 そんなことを言われても、もう魔力が残っていない。ゴッソたちはもう、一時間以上も飽きずになぶり続けているのだ。たくさんの野次馬が集まって、歓声を上げている。誰一人リーフを助けてくれる者はいない。


 どうにか魔力をふりしぼって、全身の傷を再生させたリーフの両手を、二人のゴブリンがそれぞれ掴んで引っ張った。


「いきますよ、兄貴ー! せー――のっ!!」


 一度反動をつけて、投げ飛ばす。吹っ飛んだリーフの首筋に、示し合わせたゴッソのラリアットが炸裂した。


 嫌な音がして、リーフは頭から地面に墜落ついらく。そのまま動かなくなった。


「……あ、あれ? 死んだ?」


「あ、兄貴、それはまずいっすよ! 『同族殺し』だけは絶対に!」


「分かってらぁ! くそ……コイツ最近リアクション薄くてつまんねーぜ。行くぞお前ら!」


 ゴッソたちが逃げるように引き上げ、野次馬も蜘蛛くもの子を散らすように去っていく。生ゴミ臭い路地裏に、冷たい雨が降りだした。大の字で寝転がりながら、雨に紛れて、リーフは泣いた。


 誰も話を聞いてくれない。「暴力をやめてほしい」、ただそれだけのことを、誰にも分かってもらえない。僕が、弱いから。


 自分に強力な魔法があったなら、と考えたこともある。だが、力で言うことを聞かせるのでは、ゴッソたちと同じだ。


 きっといつか分かってくれる。諦めずに立ち上がり続ければ、いつか分かり会える日が来る。そう愚直に信じて、リーフは十年以上もこの生活に耐えてきた。


「……帰ろう」


 リーフはよろりと起き上がり、とぼとぼ寝ぐらへ歩き始めた。



 彼が自分の魔法の正体に気づくまで、あと少し。

お読みいただきありがとうございます。リーフの魔法の謎、リーフの本当の力をぜひ予想しながら読んでください!

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