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第八話 飛駒王国のメイドと主人

 幼い頃は本当に世間知らずだった。

 自宅であるお屋敷で、たくさんのメイド達にちやほやされて生活するのが当たり前だと思っていた。

 そんなズレた認識のまま、興味本位で領内をフラフラしていたところ、私は誘拐された。

 私に飛駒王国の第六王位継承がある事を知っている、過激派による犯行だという事は後から聞いた。

 私がどんなに泣いても叫んでも解放される事はなく、ただ理不尽に、何度も殴られ蹴られた。この時折れた私の奥歯は今でも、本来あるべき場所に存在していない。

 おそらく私は、このまま殺されるのだろう。そんな思考が頭を埋め尽くした。

 そんな絶望に、涙を流し震えていた私を助けてくれたのは意外な人物で……


「マユミちゃ~ん……フラれちゃったッスよ~」


 不意にかけられた言葉で、飛駒真弓(ひこままゆみ)は現実に引き戻された。

 声をかけたのは、先程授業中にリオにケンカを吹っ掛けた短身の派手衣装メイド。


「知ってるわよ。あんだけデカい声だしてりゃ嫌でも聞こえるわよ。アレを聞き逃してたら今すぐ耳鼻科行って難聴の診断書もらってくるっての!」


「せやかて、メイドやったら主人にきちんと報告せなあかんって……」


「標準語を使う!!」


「はいッス!」


 方言で喋るメイドの言葉を遮り、メイドを怒鳴りつける真弓。

 メイドはメイドで『~ッス』と付けるおかしな喋り方でないと、方言が出てしまうようで、返事にまで『~ッス』を付けて応える。


「ったく……誰があそこまで堂々とやれって言ったのよ?シノが『勝てる!』って言うから『じゃあやってくれば?』とは答えたけど、即行でやらかすなんて思わないってのよ」


「そうは言いはっても、シノはアホの子やから……」


「標準語!!」


「はいッス!!」


 シノと呼ばれたメイドは、どうやら落ち込んでぼやくような喋り方をする時に方言が出てしまうようだった。そのため同じようなやり取りが繰り返された。


「で?アンタのその自信はどっから出てきたもんなの?ナンバーズの1番っていったら、()()氷室アヤの後釜って事でしょ?それだけでも相当ヤバイと思うんだけど?」


「私も、今はマユミちゃんの護衛メイドッスけど、これでもウチのブルータルビーストに在籍できる程度の実力は持ってるんスよ」


 『ブルータルビースト』とは、ビースト部隊の俗称を持つ、飛駒王国の精鋭部隊の正式名称である。


 飛駒王国の強化薬は特殊だった。


 薬を使用したおり、数十人に一人の確率で現れる異能者。

 ただでさえ物理法則を無視した強さのメイドなのに、そこにさらに異能がプラスされる事により、手が付けられない強さを発揮する。

 しかし、発現する能力は十人十色であり、どんな能力が付与されるのかはまったくわからなかった。


 そこに注目した飛駒王国は、発現される能力を限定する事で、能力を発現させる確率を増やせないかを試みたのだ。

 結果としては、確率を増やす事はできなかったものの、発現される能力の固定化には成功した。

 その能力とは『獣化』である。

 『獣化』と言っても、何も姿が変わるわけではない。獣の能力を良いとこ取りで手に入れる事ができる能力だ。

 視覚・嗅覚・聴覚が鋭くなり夜目も利くようになる。さらに、メイドになって強化された肉体を、さらにもう一段階、オマケ程度ではあるが上乗せしたような力が手に入る。

 この単純な暴力というものが、下手な能力より驚異であり、飛駒王国のメイド部隊は他国から恐れられるようになった。


 そして、そんな飛駒王国のメイドの中から選ばれた十数人のエリート達で構成された精鋭部隊。それが『凶悪な獣(ブルータルビースト)』なのだ。


「今のナンバーズなんて烏合の衆ッスよ。聞いた話によれば、氷室アヤ討伐で№2以外は全滅させられたらしいッスから、今のナンバーズは急遽再編成された補欠軍団の集まりなんスよ」


「って事は、あの№1のガキが、アヤ討伐で生き残った元№2って事?だったら、他のナンバーズは烏合の衆でも、あの№1だけはヤバイんじゃないの?アヤ討伐で生き残った猛者でしょ?」


 シノの発言を受け、真弓は至極当然の疑問を口にする。

 しかし、その疑問を聞いたシノは何かに気付いたような驚きの表情をする。


「そうッスよね……№1を倒したのなら、当然実力を考慮すれば、№2が№1に昇格するもんッスよね?」


「何言ってんのアンタ?そりゃあ状況的に一対多数な戦闘だったんだろうけど、最終的に生き残ったのが№2だけって事は、最後に氷室アヤにトドメをさしたのが№2って事でしょ?つまりはあのガキが……」


「ナンバーズの№2には昔会った事があるッス。もっとクールな感じで、効率を重視するような思慮深い感じの印象のある、見た目20代後半くらいの大人の女性だったッス」


 真弓の発言を食い気味に、シノは№2の特徴を口にする。


「どういう事?じゃあ、あの№1のガキは何?どっから湧いて出てきたのよ?」


 シノが気付いた疑問を、真弓が口にする。


「湧いてきた……№1……氷室アヤ討伐での生き残り……」


 シノは何やらブツブツとひとり言を言い始める。


「ねぇ……ちょっと?どうしたの?シノねえ……」


「マユミちゃん……あのガキ、予想以上にヤバイやつやもしれへんで……」


 何か思い当たる事でもあったのか、リオに対しての評価を上方修正したシノ。


「これは、ちょお確かめてみぃへんとあかんかも……」


「標準語!!!」


「はいッス!!!」


 またもや同じ流れの会話が繰り広げられる。

 この流れのせいで、リオの話題はいったんここで終了となった。


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