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第七話 傍若無人な№1

 私立野上学園。幼稚園から大学までの一貫校であり、常に最新の学業システムを導入する事を売りとし、『王を傀儡として野上王国を実質支配している』と噂されている、野上王国王弟・野上晴司が出資し、理事長を務めている学園である。

 エリートコースへの高い就職率や、他校に無い『メイド同伴可』といった時代のニーズに合った校風から、開校15年にも関わらず、他国からも多くの王族・貴族の入学者を集める一流のお坊ちゃま・お嬢様校として広く認知されていた。


 幼稚園・小学校からの生徒は慣れてしまっているが、中学・高校からの入学組はメイド同伴授業に慣れるまでかなりの時間を要すると言われている。

 理由は単純に、毎日が授業参観状態だからである。

 教室の後ろ側にメイド待機用スペースが設けられており、常にメイドが主人の安否を監視しているのだ。

 もちろん佑も、例にもれず、物凄いやりにくさを感じているのだった。


 既に授業中だというのに、クラス中のどよめきが収まらないでいる。クラスの担任教師は無言のまま、青い顔でお腹をおさえてうずくまっている。どうやら担任教師の胃は限界に達しているようだ。


「お前等……正体隠す気さらさらねぇだろ?」


 斜め前の席にいる壬生が、佑とユカナに小声で話しかけてくる。


 壬生がそう発言した理由、それは……

 メイド待機スペースにいる、ナンバーズ1番のエンブレムを氷室王国軍のメイド服にしっかりと付けた状態で、偉そうに座り込んでいる見た目が幼女のメイドのせいである。


「ある意味アナタのせいですよ。佑様に手を出した事を猛省してください」


「謝っただろ。ってか意味がわかんねぇよ。極秘事項だったから、お前が身分偽ってコイツの護衛をコッソリやってたんじゃねぇのかよ?」


 確かに昨日まではそうだった。

 しかし、昨日起こった出来事を帰宅後の話したところ、すぐさま晴司によって対策会議が開始された。

 ただ、その会議は長くは続かなかった。リオの放った「私に任せとけ。いい考えがある」というたった一言で会議は終了した。

 晴司はリオの事を信頼しており、何だかんだで佑も、自分の事を第一に考えてくれている、という事がわかる分、信頼はしていた。


 そして、その結果がこのざまである。


「ええと?何だっけか?『野上王国で護衛のメイドが出払ってるから、同盟国である氷室王国に一人メイドを貸してくれっていう要望がきたけど、任務が無くて暇なのが私しかいなかったから私が来た』だっけか?あのガキ頭おかしいんじゃねぇか?誰がそんな話信じるよ?」


「だよねぇ……やっぱそう思うよね?」


「ほんとそうですよ!あれほど『佑様を守るのは私だけでいい』って言ったのに、あの子全然話聞かないんですもん」


「いや……オマエも大概だぞ。少しは人が話す内容は理解してから回答しろよ」


 文句を言う壬生。相槌を打つしかできずにいる佑。話を聞かないユカナ。

 壬生も、元々こういった言いたい事をずけずけと言う性格なのだろう。昨日ユカナによって痛い目見たにも関わらず、ユカナに対して強い口調でツッコミを入れている。


 ただ、佑にとってはそれがありがたかった。

 氷室王国最強の称号を持つ、ナンバーズの一番を引き連れてやってきた佑は、朝から学校全体から怪訝な顔を向けられて避けられてた。

 クラス全体が、触らぬ神に祟りなし状態の中、壬生だけはケンカ腰ではあるが話しかけてきてくれていた。


 そして、そんな傍若無人なロリメイドのせいで、一限目は授業にならずに終わった。


 二限目に入ると通常に授業が行われていたものの、設問がわからずに挙手しなかったユカナに「んな問題もわかんねぇのかよ九番……」という言葉が飛んできたり、教員にさされて答えられないユカナに「あはははは!ば~~か」という暴言が飛んできたりしていた。

 ユカナは顔を真っ赤にして涙目になっていた。

 ユカナも馬鹿ではない。ただ、15歳でメイドになったため、最終学歴は中卒で止まっているのだ。そんななか、いきなり高校3年の授業に参加しろ、といわれても無茶な話なのだ。


「お前んとこのメイドうるさくね?あれ本当にナンバーズの一番なのか?」


 壬生が当然の疑問を佑に投げかける。


「詳しくは知らないけど、たぶん本物だとは思うよ。少なくとも、せっちゃ……晴司ぃ……さんのメイド部隊を一人で軽く半壊させてたから、強いんだとは思うけど……」


 いつものあだ名呼びしそうになりつつ、敬称をどうしようか悩んだせいで、噛みまくりながら返答する佑。


「いや!晴司様のメイド部隊半壊ってソレやばすぎだろ!?……ってかユカナが言われっぱなしで黙ってるって時点で、ユカナ以上にヤバイって事か……ナンバーズの一番怖ぇ~」


 机に突っ伏した状態で、すすり泣きをしているユカナを見ながら壬生が言う。


 そんなこんなで二限目も無事……かどうかはユカナにとってはわからないが、少なくとも佑にとっては無事に終了した。


 そして三限目になり事件は起きた。

 二限目同様の行動していたリオの元に一人のメイドが近づいていく。


「さっきからうるせぇんスよ、このチビ!少しは静かにできねぇんスかぁ?」


 お前もうるせぇよ!とツッコミを入れたくなる音量でリオを怒鳴りつける。


「ははっ!チビって……オマエもだろ?」


 リオを怒鳴りつけたメイドもまた、顔立ちはリオより年上っぽい顔つきをしているが、身長はリオと大差なかった。

 ただ、何よりも目を引くのは、着ているメイド服だった。

 スカートは二層でフリルだらけ、パニエも二重履きしているように見える。いたるところにリボンが付けられており、動きやすさより派手さを優先したような服だった。


「あんまイキってんじゃねぇッスよ。あんまふざけてるとナンバーズでも殺すッスよ」


「おお怖い怖い。でもお前にそんな権限あんのか?メイドならご主人にお伺い立ててから行動しろよ」


 派手メイドの挑発に乗る事なく、飄々とした態度でいるリオ。


「もう了解は得てるッスよ……『勝てんなら自由にしろ』って言われてるッス」


「そうか……じゃあ私には勝てないだろうから諦めろ。ってか私の方は主人の了解とってないから、決闘ってのは受けらんねぇな」


「そこにいるじゃねぇッスか?聞いてみたらいいんじゃねぇッスか」


 佑とユカナを指差しながら、リオを挑発し続ける派手メイド。


「だってよ佑?どうする?」


 いきなり話を振られて混乱するも、佑はとっさに、手でバツを作り答えを返す。


「ッチ……腰抜けな主人ッスね。まぁ殺すのはまた後でもいいッス。とにかくこっから先は黙って授業見てるッス」


「善処するよ」


 リオは適当にあしらう。

 そしてユカナが『腰抜けな主人』に反応して、ゆっくり立ち上がるが、佑によってなだめられる。


「あのメイド、ビースト部隊なんじゃないかって噂のメイドだぞ。戦わせてたら巻添えくらって俺達自体やばかったな……よく止めたな」


 壬生が耳打ちしてくる。


「ビースト部隊?」


「知らねぇのかよ?どこで育った野生児だよ!?ビースト部隊ってのは飛駒(ひこま)王国の精鋭部隊の俗称だよ」


 俗称とかには正直疎い佑であった。


「高校から入学してきた飛駒王国の王族のメイドなんだが、手を出したヤツらのメイドは八つ裂きにされてるからマジでやべぇやつだから気を付けろ」


 そんなヤバイ奴は退学にしろよせっちゃん……と素直な感想が頭をよぎる佑だった。


 

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