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第四話 初登校

暦上では春とはいえ、時期的に朝は冷えるものである。


晴司の別宅から学校までの距離はおよそ3㎞。

「車で送る」と言ってきたリオの申し出を丁重に断り、まだ肌寒い学校への道を歩いている佑とユカナ。


佑はもちろん、ユカナも制服姿である。

護衛の立場なので、メイド服で登校したいという、ちゃんと昨日の話を理解しているのか?と言いたくなるユカナのわがままで多少はゴタゴタしたものの、遅刻する事もなく、学校に到着できる時刻である。


「そういえばユカナって何歳なの?」


通学中の何気ない会話として佑が口を開く。

いちおう晴司が考えた設定上では、佑とユカナは双子の兄妹という事になっている。

晴司の遠縁、という事で、名字も『氷室』ではなく『野上』として学校の名簿に登録されていた。


「17です。佑様とは一応同学年です」


「ああ、年齢に関しての設定は正しかったんだ……せっちゃんの事だから強引な年齢設定したのかと思ってたよ」


口には出さなかったが、佑はずっと、ユカナを年下だと思っていた。

実際、ユカナの見た目は、17歳と言われても、ちょっと信じられない程度には幼かった。


「佑様。私の事もっと年下だと思ってました?」


「あ……う……」


図星を突かれ言葉に詰まる佑。


「まぁ仕方ないと思いますよ。メイドになると身体の成長は極端に遅くなりますから……私がメイドになったのは2年前の15歳の時ですから、その頃から容姿はほとんど変化ありません」


失礼な態度をとってしまったと、少し焦っていた佑だったが、ユカナの言葉を聞いてすこし安心する。


「容姿がほとんど変わらない……って事はリオちゃんの実年齢って……?」


「あんな見た目ですけど、実年齢は私達よりかなり上な可能性もありますよ。ナンバーズの1番なんて、才能だけでなれるような物でもないでしょうから、結構な年数努力を重ねてきてるかもしれませんよ」


佑は昨晩の事を振り返る。

たしかにリオは、晴司すら年下扱いするような口調で喋っていた事を思い出す。

先程までは、リオは元々そういう性格の幼女なのだと勝手に考えて納得していたが、メイドの肉体成長速度の事をきいた後では、色々とわけがわからなくなった。


「まぁ実年齢がどんなに上だとしても、佑様に失礼な口をきいていい事にはなりませんけど!」


よほどリオの事が気に入らないのか、怒ってる事が見てわかるような表情で愚痴りだす。

佑はただ苦笑いをするだけだった。



そんなこんなで学校へと到着した佑は、車で来なかった事を激しく後悔した。


学校の正門前は、異様に大きなロータリーとなっており、ずらりと並んだ高級車から、生徒と思われる人物達が降りては校内へと入って行く風景が広がっていた。


徒歩でやって来る生徒は一人もいなかった。

自転車やバイク置き場などが設置はされているものの、もちろんそこはもぬけの殻だった。


「悪趣味な光景ですね……」


佑が思っていた事と同じ意見をユカナがぼやく。


「できるだけ目立たないように普通の行動をしようと思ったんだけどなぁ……まさか学校へ徒歩で来る事が逆に目立つ行為だとは思わなかったよ」


車から降りてくる生徒達から、一様に不審な目で見られながら、それでもできるだけ目立たないように、そそくさと校内へと急ぐ二人だった。


そこからは特に当たり障りなく職員室へと向かい、転校の挨拶をし、担任教諭を紹介され、共に教室へと向かう流れとなった。


「あの……理事長が私にだけ、極秘の内容だと言って教えられたんですけど……佑……様は()()氷室王家の第一王位継承者……というのは……」


教室へと向かう途中、教師が小声で話しかけてくる。


晴司も、ただ無計画に身分を隠しての学校生活を送らせる事はしなかった。


全校生徒に周知すれば、佑を守る上では楽だろう。

ただそれでは、氷室国王から出された条件である『佑の普通の学校生活』とは無縁のものになってしまう。

しかし、佑の正体を誰にも知らせなければ、学園カースト上位組からの何かしらのちょっかいは発生する。何か少しでも歯車が狂えば、大問題にまで発展する事もありえる。そうなれば国際問題だ。

ただ晴司にとっては、国際問題になる以前に、自らの信用問題だ。プライドの高い晴司からしたら、それは絶対に許される事ではない。


そこで晴司は、担任教師・学園長・現生徒会長にだけ真実を話してある。もちろん話の枕詞に「極秘事項で他言無用だ。何かあったら取り返しがつかないので、お前にだけは伝えておく」という一文を加えてある。


「事実です。佑様に対して何か粗相があった場合、アナタの一族郎党全て粛正対象なるので言葉遣いはじめ色々と気を付けてください」


佑に投げられた質問を、何故かユカナがドヤ顔で返答する。


「ああ…………」


教師はその場で立ち止まり、頭を抱えてうずくまる。


「あ……あの……大丈夫です。そんな事しないですから安心してください。あと『様』はやめてください」


今にも胃に穴があきそうな……いや、既にあいてるんじゃないかというほど青い顔をしている教師に、佑はフォローをいれる。


その後は動けずにいた教師を、ユカナが抱え上げて教室へと到着する。


教室の扉前で、何とか回復した教師と共に室内へと入っていく。

黒板に佑とユカナの名前を書いて、二人の紹介をする。


『野上 佑   野上 由加奈』


黒板に書かれる名前を見つつ、違和感しか感じない二人だった。

この名前で卒業まで大丈夫か疑問を持ちつつ、自己紹介をするように言われる。


「えっと……の、がみ、佑です。双子の兄の方って覚えてください。とりあえずよろしくお願いします」


まず佑が自己紹介をする。


「のが、み、ユカナです。私はともかく佑様に何か失礼をしたら殺しますからよろしくお願いします」


ユカナの発言でクラス全体が絶句する。

もちろん隣で聞いていた佑も同じである。

『父さん……護衛としてはいいかもしれないけど、人格的には絶対に人選ミスだよ……』と内心思いつつ、すぐにフォローを入れる。


「ほ……ほらユカナ。やっぱりウケなかったろ?だから自己紹介はウケを狙わないで普通が一番だって言っただろ」


佑のフォローのおかげか、クラスの空気が若干穏やかになる。


佑は密かにため息をつき、ユカナと共に過ごす今後の学校生活に一抹の不安を覚えるのだった。


しかし佑は気付いていなかった。

ユカナの発言が冗談だとわかった後のクラス全員が『何で二人して名前噛んでんだよ!?』というツッコミを心の中で入れていた事を……

自分は普通に自己紹介できていたから大丈夫、と思っていた佑だが、既に疑惑の視線を向かれていた事を……


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