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第三話 不審人物達の会談

野上王国の首都から遠く離れた、都会とは程遠く、とはいえ田舎町というほど田畑が豊富なわけではない。そんな程よく住みやすい場所に、野上晴司の別宅がある。


高速を降り、今後通う事になるであろう学校を横目に、そこから車で約5分のその場所が、今日から佑が寝泊まりするであろう家である。


「すまないね佑。あいにく学校周辺の寮は満室なので、私の別宅を提供させてもらうよ」


そういって案内された場所は、おそらく寮以上の部屋数を有するお屋敷だった。


「それと安心するがいい佑。君が卒業するまでの間は、私もミアも極力この家で寝泊まりしよう。私達がいれば刺客も安易に手出しできんだろう」


「私は佑様の護衛として、こんな不審人物だらけの家に佑様を一人預けることなんてできません!私もこの家に住まわせていただきます!」


「お前それ『不審人物が一名追加』されてるだけだぞ九番……ちなみに私は寝れる場所があれば何でもいいから適当に決めてくれ」


などといった会話が行われ、佑の意見はまったく聞いてもらう事なく、不審人物達の同居生活が開始された。


とても目まぐるしい一日だったため早々に眠りに落ちたい佑であったが、寝る前に現状把握と今後の行動方針を決めなくてはならず、無駄に広いリビングにて、これまた無駄にでかいテーブルを不審人物達が囲んでいる現状となっている。


「さて、佑のために色々と説明してあげたいところではあるのだが、何から話すべきか?」


やはりというか、真っ先に口を開いたのは晴司であった。


「順を追って説明すると、佑の出生からになるのだが、その辺は少し飛ばして、佑が命を狙われている云々の個所から説明しよう」


誰も、特に異議があるわけでもないため、黙って話に耳を傾ける。


「まず佑の命を狙っているのは、氷室王国の重鎮である『前国王派閥』の連中だ。先日佑の父親が新国王に就任したとはいえ、先王からの信頼も厚かったため、実績もまだほとんどない現国王より影響力は大きい」


また、話す事はしなかったが、晴司が佑奪還に動いたのは、佑を確保しているのが、アヤ討伐に動いていた『前国王派』と睨んでの行動でもあった。


結果としては、佑の父親である現国王が手をまわして、事前に自らを信頼してくれている部下の厳選を済ませ、前国王派を出し抜き、佑奪還及び国外逃亡に成功し、計画に若干のズレはあったものの無事、晴司との合流を果たせたのである。


「そして、前国王は伝統や格式を特に重んじる人物だった。……さて佑、君はメイドの身分がどの程度の位置かは知っているかな?」


もちろん佑は知っていた。母親から嫌というほど聞かされ、嫌というほど納得できない事だったからだ。


メイドになるための強化剤を使用した時点で、人間とは別の生物になった事となり、戸籍や住民票等、人としての全ての記録が削除される。

唯一記録として残っていくのは、彼女等の主人となる者が、そのメイドの主となる事を証明した書類が国に提出・登録されるだけである。つまるところペットと同程度の身分となるのだ。


メイドが個人識別のための名称しか名乗らないのも、元々の名字が抹消されているため、名乗れないのである。


「ふむ、その表情は知っている顔だね。と、すれば命を狙われる理由も何となくわかるだろう?まぁ私には理解はできんがね。では何故そんな連中が、当時第一王位継承者だった現国王と氷室女史との婚約を認めたかだが」


「そりゃ宗馬(そうま)はアヤにべた惚れしてたからな、周りが何言おうが自分で決めたらテコでも動かないようなやつだからな、アイツは」


晴司の話にリオが笑いながら参加する。


「ちょっとアナタ!佑様のみならず国王様まで呼び捨てなうえに『アイツ』呼ばわりとは何事ですか!ナンバー1だからって言っていい事と悪い事がありますよ!」


リオとユカナのケンカ、というよりユカナによる一人相撲を眺めつつ、佑は自分の父親の名前を今初めて知った事については口には出さずにそっと飲み込んだ。


「まぁ概ねリオ君の言う通りだ。現国王は周りからの『もっと身分の高い者を正室に』という声を一切聞こうとはしなかった」


話の腰を折るユカナのクレームに苦笑しつつ晴司は話を続ける。


「その結果、さすがに重鎮達も折れて、貴族から側室をとる事を条件に、形だけの正室として氷室女史が王家に迎え入れられたというわけさ」


「その程度の条件で結婚認められたの?」


思わず佑がツッコミを入れる。


「そりゃそうだろ、王国にとって大事なのは世継ぎができるかどうかだ、正室にアヤをあてがっておけば宗馬は満足する、高貴な世継ぎは側室からできあがる、お互いウィンウィンな条件ってやつだ」


おどけた口調でリオが口をはさむ。


「え?でも先に正室から第一子が生まれる可能性があるんじゃないの?現に……」


そこまで言ったところで、皆の視線に佑は気が付く。


「佑様……メイドになった時点で、子供を産むための器官は機能しなくなるんです」


ユカナが申し訳なさそうに、佑に助言する。


本来は、子供の時に親から教えられる程度の一般常識ともいうべき事ではあったものの、佑は今までその事実に触れる事はなかったのだ。


「おそらく氷室女史は言えなかったのだろうな。佑にそれを伝えるという事は、佑の存在自体が有り得ない事と言うようなモノだからね。幼い頃に佑がそれを伝えられたら、母親から否定されたと考えてしまう可能性だってあったわけだ……だからこそ氷室女史はためらったのだろう」


確かに、幼い頃にそれを聞いたとして、普通に生活できたかどうかは佑にはわからなかった。

ただ、母親であるアヤが、そんな気遣いができる性格だったという事に若干驚いていた。


「まぁともかく、それが佑が狙われている理由さ。本来は生まれないと思っていた嫡男が生まれてしまった。そしてそれを気に入らないと思う連中がいる、という事だね」


「何か、それを聞いていると、私氷室王家のメイドですけど、自分の国が嫌いになりそうです」


絵に描いたように頬を膨らませて不満を表しているユカナ。

本来だったら、怒るべきである佑に代わり怒っているようにも見える。

当人である佑は、物心ついた時には氷室王国にはいなかったため、特別な感情は特にはわかなかった。

ただ、自分を守るためだけに、共に国を逃げ出してくれた母親に、ただただ感謝の気持ちが沸き上がるだけだった。


「さて、命を狙われている理由がわかったところで、次は今後の対策についてなのだが」


晴司はいったんそこで止め、もったいぶるように続きを発言する。


「特に何もない」


佑とユカナは脱力する。

予想通りの行動だったのだろう。晴司はクククッと笑い言葉を繋げる。


「野上王国に入り、私と合流した時点で、もうむやみやたらに手を出せない状態になっているのさ。偶然国境をすり抜けられた刺客がいて、偶然佑が一人でいて、偶然屋外で昼寝している。そんな状況にでもならない限りは大丈夫だろう」


偶然がそこまで続けば、それはすでに必然である。

誰かがそこまでお膳立てしなければ、そうはならないだろう。

そして、それをお膳立てできるのは、今ここにいる人間だけである。

つまりは、この中に裏切り者がいない限りは佑が命を落とす確率は極端に低くなる。


「それよりも問題なのは、佑が今後通う学校の生徒にあるかもしれないな」


晴司は眉間を押さえながら、ばつが悪いような表情になる。


「私の学園は、超が付くほどのお坊ちゃま・お嬢様校でね。各国の貴族・王族が通っているせいか、家の身分がそのまま反映されているかのようなカースト制度が出来上がってしまっているんだよ」


「えっと……その一番下に入って行くって事?」


佑が恐る恐る確認をする。


「逆だよ佑。メイドも教室の傍らに待機させてもいい校則があるので、どれだけのメイドを持っているかがステータスになるような状況で、氷室王家専属部隊のナンバーズを……しかもナンバー1を引き連れて行ってみたまえ。速攻でピラミッドの頂点に君臨できてしまうよ」


「いい事ではないですか!実際に佑様はそれだけの身分の人間なのですから」


何故かユカナが誇らしげに胸をはる。


「そうだな、佑が王族であり氷室王家の王位継承権一位という身分は事実だ。それは変わらない。だがどうだろうか?今までカースト制度の頂点にいた連中から見て佑はどういう存在に見えるかな?」


つまるところ、ポッと涌いて出て来た転校生が、いきなり頂点に君臨しだす、という、確定したカースト制度でうまくやっていた生徒達の輪を思いっきり乱す行為を、その生徒達が……特に上位にいた生徒達が良しとするかどうか?


「まぁ簡単な話、従属するか排除しようとするかの二択だわな。プライドの高い坊ちゃん嬢ちゃんが簡単に従属を選ぶかどうかは知らんけどね」


笑いながらリオが補足説明する。


「間違いなく排除される事になりそうだね……」


佑が、こればっかりは自信がありそうな感じで答える。


「そこで提案なのだが、佑には身分を偽って学校に通ってもらおうかと思う。とりあえずは私の遠縁程度の立場で……これなら頂点ではないが、上の方の立場でいられるので、そこまで波風は立たないだろう」


それでも何か問題は起きそうな気がするが……と小声で付け足しつつ晴司が話を続ける。


「念のため、変に目立たないために護衛にメイドは付けずにおく事にする。ユカナ君は佑と共に転校生としてクラスに溶け込んでくれたまえ」


ユカナは若干不服そうではあったが、佑と同じ教室にいられれば、こっそり護衛する事もできるという事で納得する。


「ちなみにリオ君。佑に危険が迫ってると連絡があった場合、この家から学校までどれくらいで行けるかな?」


「本気を出せば5分以内で、学校に飛んで行って、さらに学校を地図上から抹消するくらいの事はできると思うぞ」


余計な作業が追加されてはいるが、そこは皆聞かない事にした。


「とりあえずは明日からの行動は決まったね。佑とユカナ君の制服は明朝までには用意しておこう。それでは各自好きな部屋で休んでくれたまえ」


晴司のその一言で、話し合いはお開きとなる。

佑も、今日一日の疲れをやっと癒せると、部屋へと向かう。


……しかしこの後、佑の部屋とユカナの部屋及びリオの部屋をどこにするかで、ユカナがごねまくった結果、佑が休めたのはそれから1時間後だった。


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