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第三十四話 ユカナの謎

「ん……?アレ?」


 その場の勢いだけで地面に降り立ったリオだったが、改めて周りを見渡して現状把握をする。


「助けに来たつもりだったんだけどなぁ……どっちも満身創痍じゃねぇかよコレ」


 ミアが暴走していた場合、ユカナとシノだけでは対処しきれない事はわかっていたのだが、ユカナと佑がリミッターを解除しているのを確認して、リオは現状を理解する。


「セージの別宅に誰もいなかったから、焦って学校やら飛駒のお姫さん達の寮やらまで探し回った挙句、やっとここで発見したってのに、私来た意味あんま無いじゃん?」


 悪態をつきながら、気が抜けたようにこめかみをおさえるリオ。


「そんな事はない……現状動けるのは私だけ……それに……これこそが私が望んだ展開だ……!」


 リオのひとり言にミアが返答する。

 それとほぼ同時に血の弾丸を放ちリオを攻撃する。


 リオはその攻撃を攻撃として扱う事なく、まるで飛んで来る蚊を叩き落すようにして手の甲ではじく。


「……ッチ!」


 リオのその反応を見て、ミアは軽く舌打ちすると、リオへと突進する。

 腕はまだ使い物にならなかったため、突進した勢いのまま蹴りを放つ。

 リオは、その蹴りを凝視しつつも、まったく避けようとはせずに、ミアの蹴りをその身にまともに受ける。


「……え?」


 何が起こったのかわからないようなつぶやきがミアの口から漏れた。


 確かにリオを蹴った。

 それは目に見えて理解できる。

 しかし、リオを蹴った感触がまったくなかった。

 それどころか、蹴られているリオが、足が地面から少し浮いた状態で、蹴りの動きに合わせてミアの足にくっついてきているようにも見えた。

 そう、まるでペラッペラの紙を蹴ったような、そんな感じだった。


「重量操作の異能だ……力任せに攻撃しても無意味だぞ。空気を蹴ってるのと大差ないからな」


 一歩前に出て、ミアの耳元でつぶやくようにしてリオが口を動かす。


「もちろん軽くするだけじゃなくて、逆に重くする事もできる。例えば……私のこの左手のコブシの重量を何百倍にもしたらどうなると思う?」


「っく!!?」


 リオのつぶやきを理解したミアは、必死に身をよじってリオから距離をとろうとする。

 ……しかし。


「遅ぇよ……」


 逃げる暇すら与えずに、リオの左コブシがミアの頭を直撃する。

 凄まじい衝撃音が響き、脳震とうを起こして気を失ったミアは、その場に倒れこむ。


「え?……何が……?」


 佑やユカナからは、リオがミアの頭を軽く小突いたようにしか見えなかったため、その程度の軽い攻撃でミアが昏倒した事が不思議でしかたなかった。


「さてと……それじゃあコイツをセージのところに運ぶぞ。おい9番!そろそろ動けるだろ?オマエは佑を背負っとけ」


 そう言うとリオは、倒れているシノとナナを引きずって回収してくると、頬を叩いて気付けを行った。


「ッチ!起きねぇなコイツ等……私はミアちゃん運ばねぇとなんねぇしな……さすがに三人持つには手が足らねぇぞ……しゃあない、9番どっちか持て」


 一方的にユカナへと命令するリオ。

 しかし、佑を背負った状態のまま、ユカナは動こうとはしなかった。


「……その前に、リオ様に一つ聞きたい事があります」


 いつになく真剣な眼差しでリオを睨みつけながら話しかかるユカナ。


「……は?『様』ぁ?いきなりどうしたんだ?気持ち悪ぃなオイ」


 いきなり様付けされ、当然の反応をリオは返す。


「え!?いや……だってリオ様が、実は亡くなったと思われていた佑様の双子のお姉さまなんじゃないかって……」


 リオのその反応は予想していなかったのか、極端にうろたえだすユカナ。


「何だソレ?どこ情報だ?佑の姉は死産したって公式で発表されてるだろ?何言ってんだお前?頭大丈夫か?」


 もちろん、今更真実を語るつもりはリオにはなかったため『お前がその当人だよ』という発言が飛び出す事はなかった。


「で……でも、佑様の母親でもある氷室アヤと、容姿も性格もソックリだって、そこの獣が……」


「ふ~ん……ソックリなのか……で?ただ似てるってだけで、何で私が佑の姉って事になるんだ?根拠がそれだけって、ちょっと弱くねぇか?」


「あ……あう……」


 それ以上は何も反論ができずにユカナは黙り込む。


「何か色々と推測して行動してたけど、全然ハズレてたみたいだね」


 ユカナを諭すように、ユカナの背中に背負われた佑がつぶやく。


「……で?私に聞きたい事って何だ?さっき何か言いかけてただろ?」


 話を戻すようにリオが問いかける。


「リオさ……んの言った通り入隊宣言を口にしてみたら、何かよくわからないんですけど、物凄い力が出せたんですけど……何なんですかコレ?何でこんな事になったんですか?何を知ってるんです!?」


 リオの敬称をどうするか一瞬悩んだものの、すぐさま切り替えて疑問を口にする。


「それに合わせて佑様までメイド能力発揮しだすし……もうわけがわかりませんよ!どういう事なんですか!?」


 ミアとの戦闘で起こった事に対する疑問を一気にまくしたてるようにリオに問い詰める。


「知らなねぇよ。私は『初志貫徹でいろ』っていう意味で、あの言葉を言ったんだ。王族の佑を死んでも守れよって意味でな……それで強くなったっていうなら、その言葉に合わせて無意識に体が反応して、火事場の馬鹿力的な何かを発揮したんじゃねぇの?」


 特に動揺する事なく淡々と適当な事を答えるリオ。


「それにお前。入隊宣言口にして強くなったっていうなら、氷室のメイド部隊入る時、既に口にしてるだろ?国王の前で?その時何か変化あったのか?」


「え……あ、はい……そういえばそう……ですね」


 もっともな事を言われて、素直にそう返事するしかないユカナだった。

 しかし、その言葉の意味を理解しているリオは密かに笑みをこぼす。


(国王の前で言った時は何もなくて、佑の前で言った時はリミッターが外れる、か……なるほどね)


 リミッター解除条件に、入隊宣言にプラスされた『心の底から守りたい人を目の前にして』という条件を、どの程度の想いなのかは別にして、ユカナのちょっとした心情の変化を素直に嬉しく思うリオだった。


「佑に関しても何でかなんて知らねぇよ。まぁ佑は人類初の『メイドから生まれた子』だから、それに関しては何も解明されてないんだから何が起こっても不思議じゃないだろ?しかもアノ氷室アヤの子供だぞ?なおさらだろ?」


 リオの説明に、煮え切らないながらも納得したような表情のユカナと、微妙な嘘臭さを感じる佑だった。


「それとあと一つ……リオさん、前に私達に見せたのと違う異能使ってませんでした?」


「気のせいだろ」


 即答だった。

 その事に関してまで、ウダウダと説明を求められても面倒臭いので、リオはその一言で会話を打ち切った。


「……う……アレ?何がどうなって……」


 ユカナとリオが問答しているうちに、シノが目を覚まし、少し遅れてナナも目を覚ました。

 平然と立つリオと、その横で昏睡しているミアを見て、何となく状況は察したようだった。


「良いタイミングだな。持って行く荷物が減って助かった……ところで、お前等の御主人達はどこ行ったんだ?」


「……は?それをさっきまで気絶してた私達に聞くんスか!?むしろこっちが聞きたいんスけど!?マユミちゃんは無事なんスか!?」


 この後、現場から気付かれないように逃げ出す事ができたが、駅までの長い距離を踏破できずに、途中でへばっていた半泣き状態のボンボン二人組は、メイド集団により無事回収されたのだった。


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