第二十八話 ミア攻略作戦
ユカナとシノは、ミアを攻撃するために同時に地を蹴る。
今までは身体能力の都合上、シノが先に攻撃していたが、今回はユカナが先に攻撃を仕掛ける。
特に策を弄するわけではなく、愚直なまでに真正面から殴りかかる。もちろん血の盾で攻撃を防がれ、逆に反撃を受け蹴り飛ばされる。
そして、その隙をつくかのように、その脇をすり抜けミアの背後にまわりこんだシノが殴りかかる。
ミアは咄嗟に体をひねる事ができずに、手だけを後ろに向け、親指の傷口を人差し指で弾き、血を飛ばす。
「ハッハッハァーー！そうくるのはわかっとったでぇ！」
叫びながら、向上している反応速度を利用し、ストレートで殴りかかっていた手を後ろへとグルリと回し、攻撃方法をアッパーへと切り替える。
目の前に血の盾を出されても、ソレを回避するようにして殴れるようにするためであるが……
「あいでっ！！？」
ミアによって弾き飛ばされた血は盾になる事なく、そのまま弾丸として直進し、シノの額に直撃した。
「あなた達が攻撃方法を変えるように……私もずっと同じ行動をするとは限らない……」
弾丸に弾き飛ばされて、仰向けに倒れているシノにむかってつぶやくと、ミアは足を振り上げシノを踏みつけるために、凄まじい勢いで振り下ろす。
「あぶなっ！？」
すぐに反応し、地面を転がって回避し、そのまま跳ね起きバックステップでユカナがいる位置まで距離をとる。
「ミア嬢、私等殺す気満々やん！？アレ避けんかったら顔面ぐちゃぐちゃに潰されとったで！」
シノの言う通り、ミアが踏み込んだ足の周辺に数センチ程度だが軽いクレーターができていた。
「完全に頭のネジが飛んじゃってる感じですね……まぁ最初からそんな気はしましたけど、コチラも気を引き締めなおした方がいいかもしれませんね」
ユカナは最初から気を張っていたが、考え無しに突っ込んでいくシノを戒めるために、改めて口に出して注意を促す。
「ちゅうてもどうするん？コッチの攻撃一発も当たっとらんやん」
「そうですね……しかもミアさんの攻撃は、キッチリ防御しないと致命傷になりそうなくらい重いですからね。このままではジリ貧です」
状況を確認するようにユカナがつぶやく。
「アナタと連携を取るための作戦を考えたところで無駄なのはわかっているので、もっと単純な作戦にしましょう」
ユカナの言葉に文句をつけたかったが、さすがにそんな暇が無い事はわかっていたため、あえて何も言わずにユカナの言葉に耳を傾けるシノ。
「ミアさんは片腕が無い、という点を突きましょう。作戦は単純です……手数を増やしましょう。反撃を受けて吹っ飛ばされても、立ち止まらずに攻撃を続けてください。片腕分処理できずに捌ききれなくなるのを狙いましょう」
それは連携無視の、でたらめな攻撃方法。
しかし、即席タッグの二人にしてみれば、下手に連携を意識するよりも、確実に勝機を見いだせる方法だった。
さらに言えば……
「補欠にしては良い判断や……そのやり方の方が私としてはやりやすい」
それこそがシノがもっとも得意なやり方だった。
シノに、変に連携を意識させるよりも、何も考えずにひたすらに個人プレイをさせる。最もシノを活かす方法なのだった。
「いいですか獣！せめて一発はミアさんの顔面にぶちこんでくださいよ！」
「そのセリフ、そっくりそのまま返したるわ！」
言い終わると同時に突っ込んでいくシノ。
一足遅れてユカナは、両手の指をパチンっと鳴らして、両手に炎を纏うと、横に飛びシノとは違う角度からミアにせまりつつ、纏った炎をミアへと投げつける。
ミアは向かってきたシノの攻撃を、異能を使わずに回避し、そのまま横っ面を蹴り飛ばすと、異能を発動し、飛んで来る火球を消化する。
しかし、飛んで来る火球の数はとんでもなく多かった。
「……っち！」
ミアは密かに舌打ちをする。
ユカナの攻撃は非常に厄介だった。
異能を発動させ続けるのは非常に体力を消費する。
ユカナは戦いが長期化すれば確実に負ける方法を取り出したのだ。
避ける方向をふさぐように、ミアの左右にも放たれている火球。後ろからはシノが迫って来る。
とれる行動は、異能を使ってユカナの火球を消化しつつシノを捌くという、ユカナに合わせて、一緒になって異能使用で体力を消耗する方法だった。
そうこうしている内にシノの攻撃が迫って来る。
異能を使ってシノの攻撃を防げば火球をくらう。異能で火球だけを処理しているとシノの攻撃をくらう。シノの攻撃を避ければ、その行為はユカナが放った火球に自ら突っ込む事と同義。
一瞬判断に迷ったミアは、咄嗟に回し蹴りをし、迫って来ていたシノを蹴り飛ばす。
しかし、そのわずかにズレたバランスの均衡が崩れ、縛ってあった左腕の袖部分が火球に触れ燃え上がる。
放っておくと服が燃えるだけでなく、皮膚が焼ける。
しかし消化したくても、右手は火球の処理で、文字通り手一杯だった。
「……クソっ」
悪態をつきながらもミアは唇を噛み血をにじませると、その血を使って異能を発動し、燃えている左袖を消化する。
そして……
その隙を見逃すような二人ではなかった。
別に連携を取っていたわけではない。ただ単に、相手の隙をみつけて同じ行動をとっただけだった。
すでにミアの間近まで迫っていた二人は、同時に右足で蹴りを放つ。
そう、ミアの前後から同時に。
左右同時から迫る蹴り。
ミアは咄嗟に、両手を使って蹴りを防ごうとして、ふと失念していた片腕が無い事を思い出す。
片腕を失ってから、ここまで激しい戦いを行っていなかった。
アヤにあしらわれていたいた時は、そんな事を気にする間もなくねじ伏せられていたし、アヤ以外の人物と対峙した時は、そんな事を気にする事なく勝利する事ができた。
現に、ユカナもシノもミアと一対一で戦っていたら、片腕が無い事を気にする必要なく勝負は決まっていただろう。
「……あ…………」
振り上げたつもりでいた、もう存在していない左腕を視界に入れ、呆けたような声を上げるミア。
そして、ほんの一瞬だけ早く右腕にシノが放った蹴りの衝撃が伝わった後、左頬に凄まじい衝撃がはしる。
「どやぁ！！」
自分の蹴りが決定打になったわけでもないのに、勝ち誇ったようなシノの声を聞きながら地面に倒れこむミア。
その左頬には、ユカナの異能によるヤケドの痕がしっかりと付随していた。
