第二十七話 即席タッグ
佑を抱えてシノが小屋から飛び出して行く。
すぐさま反応したミアが、二人を追おうとして動くが、行く手を遮るようにしてユカナが立ちふさがる。
「佑様のもとには行かせません!」
そう言いながら、右手の指をパチンと鳴らす。その音と同時に右手に炎が宿る。
ユカナのその行動を見たミアは、無言のまま自らの右手の親指に歯をたてる。
「……邪魔」
ユカナに聞こえるかどうか微妙な音量で一言つぶやくと、ミアはうっすらと血が滲んだ右手を大きく振るう。
目に見えるかどうかも怪しい程度のミアの血が飛び散る。
その血の一部、ユカナの方へと飛んだ血の体積が突然膨れ上がり、血ではなく水へと変質する。そして、バケツの水をひっくり返したような量の、元・血液な水がユカナの右手にぶつかる。
「ああーーーー!?」
ユカナが叫び声を上げる。せっかく能力によって纏った炎が消火されてしまっていたのだ。
そして次の瞬間、炎が消火されてしまった右手に衝撃が走り、手を後ろへと弾かれてしまう。
わけがわからないまま、右半身を無防備な状態にさせられたユカナへと、ミアは一瞬で接近し右脇腹を蹴り飛ばす。
ユカナもさすがに、その場で立ち往生はできずに、屋外へと吹っ飛ばされる。
ミアの異能は、自らの血液を操る能力。
しかも、ただ操るだけではなく、自らの血を媒体としていれば、何にでも変質させたり、質量を変えられたりもできるというオマケ付きだった。
ミアは、最初にユカナへと飛ばした血を水へと変え、さらに質量を増加させて炎を消化し、ユカナの異能を無効化した。
その後、ユカナへと飛ばした第二陣の血液を弾丸へと変え、右手を弾き飛ばし無防備な状態を作り上げたのだ。
ユカナはメイドであり、さらにはナンバーズに選ばれる程度には強いので、当然攻撃に対する体の耐久力もその辺のメイドよりも高い。ちょっとやそっと銃で撃たれた程度ではビクともしないだろう。
ミアもそれはわかっていたため、弾丸の威力を『至近距離で50口径の自動小銃に撃たれる』程度の威力に調整していた。
もちろんその気になれば、血を変質させて、核弾頭並の威力を出す事も可能なのだが、攻撃力は体力の消耗とほぼイコールとなっているため、そんな事をすれば体力の消耗が激しすぎて、その後動けなくなってしまう危険性がある。
それどころか、下手をすればそのまま衰弱死する危険性もあるため、あまりにも常識はずれな物を精製するわけにはいかなかった。
「……まだ……元気そうね」
屋外へと飛んで行ったユカナを追って、ゆっくりと外へ出たミアだったが、既に起き上がり戦闘態勢に入っているユカナを見てボソっとつぶやく。
「そうですね……ちょっと痛かったですけど骨まではイってなさそうですからね。まだ戦えますよ……そう簡単に佑様のところへ行かせません!」
自分を睨みつけてくるユカナを見て、ミアは5年前の事を思い出す。
アヤの異能攻撃と脇腹への蹴りで戦闘不能となった自分を、ユカナと照らし合わせ、まだアヤ並の強さに至っていない事に対しての若干の憤りを感じ、唇を嚙みしめる。
「まだ生きとるか補欠9番!」
脇腹を押さえて立つユカナの隣へと、シノが叫びながら駆けつけて来る。
「大丈夫です。まだ戦えます……ですけど、ミアさんの異能はちょっとやっかいですね。私の異能とはちょっと相性が悪そうです」
ユカナの言葉を聞きながらもシノは、胸の前で十字を切り祈りのポーズをとる。
「せやったら私がメインでやったるわ!援護せぇよ!」
そう叫ぶと同時にシノはミアへと突進する。
ミアは特に慌てる事なく、血が滲む親指を軽く人差し指で弾き、前面に血液を飛ばす。
その血液は体積を増し、さらに硬質化し盾の様な形になると、殴りかかってきていたシノのコブシを受け止める。
「何やコレ!硬っ!?砕けへんやんか!?」
「だったらどいてください!私がやります!!」
シノの後ろに控えていたユカナが、シノと同じように血の盾を殴りつけ、それと同時に異能を発動する。
血の盾は煙を上げ、熱のこもったコブシがあたっている部分は沸騰するようにして薄くなっていき、強度が低下する。
「盾が破壊されるまで……黙って待ってる敵はいない……」
当然と言わんばかりに、ミアは右手でユカナを殴り飛ばし、シノを左足で蹴り飛ばす。
二人とも咄嗟に防御したものの、勢いを殺しきれずにふっとばされ、お互いに近くにある木に激突し、その大木をへし折る。
「いったぁ~……クソが!晴司兄の専属メイドだからって調子にのっとんやないでコラ!」
激昂して再び突貫していくシノ。
「っち!これだから脳筋の獣は……バラバラに攻撃してたんじゃ意味がないじゃないですか!」
悪態をつきながらも、シノを追って再び攻撃に向かうユカナだったが、先程のシーンを焼き回ししたかのように、再び吹っ飛ばされて二人して再度大木をへし折るハメとなった。
「馬鹿なんですかアナタは!?少しは考えて行動してください!」
「せやったらどないしろ言うねん!?直接攻撃メインの私は近づかな意味ないねんで!?」
「ですけど、あの血の盾をどうにか攻略する方法を考えないと同じ事の繰り返しで、体力消耗し続けるだけですよ!」
もうチームワークはガタガタである。
「例えばそうですね……血の盾を出されたらソレを無視して、別角度からの攻撃に切り替えるとかあるじゃないですか!私の反応速度じゃ難しいかもしれませんが、アナタの獣化の能力で向上した反応速度なら何とかなるんじゃないですか?」
ユカナの言葉を聞いて目を丸くするシノ。
「オマエ天才か!?」
「アナタが馬鹿すぎるだけですよ!!?」
不安しかないタッグであった。