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第二十六話 開戦

「……氷室アヤは……どこ?」


 壊れたラジオのように、同じ言葉をつぶやき続けるミア。


「ミアさん、母さんはもう……いないよ」


 普段と違う異常なミアを見て、固まっていた三人だったが、何とか佑が、その一言を絞り出した。


「………………」


 佑のその一言を聞いて、無言のまま佑を凝視するミア。


 一見おかしくなった様に見えるミアだが、別に狂っているわけではなかった。

 普段から無口で、晴司が一緒にいないと、他人とまともに喋れない極度のコミュ障なだけで、先程の発言も、ただ単に佑達に氷室アヤの居場所を聞いただけであった。

 同じ言葉を二回言ったのは、最初の発言が聞こえていなかったのか?と思っての発言であった。


 そして、だからこそ、先程の佑の発言を聞いて、佑達がいまだにリオの正体に気付いていないという事を察する事ができた。

 その時点で、ミアの頭の中に二つの案が浮かぶ。


 1.リオの正体を佑達に話して、リオと戦うためのお膳立てをお願いする。

 2.リオの正体を隠したまま、強硬手段で佑を人質にとり、リオと戦うための交渉材料に使う。


 ……迷う事なく2番だった。

 馬鹿正直に話して「リオと戦いたい」とお願いしたところで反対される事は火を見るよりも明らかなうえに、リオがアヤだと知った時、混乱するであろう三人を落ち着かせたうえで説得するなど、人付き合いが超苦手なミアには荷が重すぎる事だった。


 それに、とっくにリオの正体に気付いているであろう晴司が、何も語ろうとはしない時点で、晴司のメイドとしての行動は決まっていた。


「マスター……あなたの友人を傷つける事をお許し下さい……」


 静かにつぶやくミア。

 そして、そのつぶやきを耳にして、ミアが取ろうとしている行動を察したユカナとシノが動く。


「獣!佑様を外で待機している皆さんの所まで退避させてください!私が時間を稼ぎます!」


「アホかっ!お前一人でどうこうできる相手やないわ!とりあえず佑坊ちゃんは逃がしたるけど、私もすぐ戻るから、それまで無傷で耐えとれよ!!」


 一瞬のやりとりが二人のメイドの間で行われると、よくわからないうちに佑はシノに抱えられて外へと飛び出す。


 獣化の能力を発動しているため、一瞬で皆が待機している場所まで着く事はできたが、運ばれてる間、凄まじい速度だったため、呼吸できずにいた佑は、地面におろされた瞬間むせる。


「何?何なの姉さん!?何があったのよ!?」

「逃げんのか!?全力で逃げる感じでいいのか!!?」


 混乱したボンボン二人組がシノへと問い詰めるように近づく。


「ちょい想定外の事態になったんで、ここで迎撃するわ。私等二人がヤバなったら、そっちのメイドの判断で逃げぇや!」


 ナナを指差しながら、言いたい事だけを言って、すぐさま飛び出してきた小屋へと向きを変える。


 そして次の瞬間、小屋の入り口から吹っ飛ばされるようにしてユカナが転がり出てくる。


「あの補欠9番……10秒も持たんのかい!!?」


 愚痴りながらもユカナの方へと弾丸のようなスピードで飛んでいく。


「ちょっと佑!?大丈夫?ってかいったい何がどうなってんのよ!?」


 シノに逃げられたため、代わりに佑のもとへとやってくる真弓。


「いや……実は……」


 絶え絶えになっている息を整えながら、ゆっくりと状況を説明しようと口を開く佑。


「なあ……あれって晴司様の専属メイドだろ?……何でこんな所にいるんだよ?」


 佑が説明するよりも一足早く壬生が状況を実況する。


「それが……状況はさっぱりわからないんだ。ただ、ミアさんちょっと精神的におかしな感じになってるみたいだったんで、あの二人で何とか取り押さえようとしてる……って感じかな?」


 佑もいまいち状況を理解していないため、説明の最後にクエスチョンが付いた。


「氷室王国精鋭部隊『ナンバーズ』の末番&飛駒王国精鋭部隊『凶悪な獣(ブルータルビースト)』並の実力者VS野上王国王弟晴司様専属メイドで片腕が無くなっても『野上最強』って噂があるメイド……離れてる距離この程度で足りてるか?俺達に被害出ないよな!?」


「もうちょっと……離れるわよ……」


「いや、ちょっと待ってよ。これ以上離れたら戦況が目視できなくなるよ」


 心配性な壬生が状況を説明し、ビビりの真弓が逃げようとして、それを佑が止める。

 佑の言っている事がもっともなせいか、黙ってそれに従い戦いを見守る事になったボンボン二人と、野生児並のお坊ちゃん一人と、オマケ程度のメイド一人……


 戦場となっている山小屋近辺では、轟音とともにいくつもの木がなぎ倒されていく様を見学しながら、本当にこの判断はただしかったのか自問自答を繰り返す四人だった。

 願わくば自分達の所にまで被害が拡大しませんように、とひたすら祈るだけだった。


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