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第二十四話 約三ヵ月前

 それはまさに地獄だった。

 『氷室アヤ討伐作戦』。氷室アヤの潜伏場所が発覚したため、氷室王国国王が指揮を取り、国王直属の精鋭部隊ナンバーズ全員が参加したその作戦は、凄惨な状態となった……



 討伐部隊が山小屋に到着すると、それを察していたかのように小屋の中から氷室アヤが姿を現した。

 近所に買い物に行くかのように出て来た氷室アヤだったが、無抵抗のままやられるつもりは一切無い、といった雰囲気の空気をまとっていた。

 そんなアヤを全員で取り囲むまでは、特に問題があったようには思えない行動だった。


 アヤが佑と共に姿をくらましてから約16年……実物のアヤを実際に見た事あるのは、国王と最古参の№2だけであったため、その違和感に気が付く者はほとんど存在しなかった。

 ただ、その二人はすぐに違和感に気が付く。


 目の前に現れたアヤの容姿は、16年前と何一つ変わっていなかったのだ。


 メイドの見た目の成長速度は極めて遅い。

 しかし、16年も経っているにも関わらず、何一つ変化が無いというのは有り得ない事だった。


 だが現状、そんな事は些細な事であり、これから死にゆく人物の細かい容姿について気にするだけ時間の無駄というものだった。


 そう、今アヤを取り囲んでいるのは、氷室王国の最高戦力なのだ。ナンバーズの№1とはいえ、たった一人でこれだけの戦力を相手に生き残れる確率など0に等しいはずなのだ。


「久しいなアヤ。随分と長い間逃げていたようだが、そろそろ年貢の納め時だ」


 沈黙を破るようにして、氷室国王が口を開く。


「そうだな……初孫である佑を本気で殺そうとしてるアンタには、できれば一生会いたくなかったんだけどな」


 国王の発言に対して皮肉を込めて言葉を返すアヤ。


「宗馬の姿が見当たらないようだけど……?アイツはこの軍事行動が行われてる事を知ってるのか?」


 あたりを見渡しながら、アヤは言葉を続ける。


「知らんさ。むしろ貴様の発見がここまで遅れたのは、あの愚息の妨害工作が原因でもあるのだからな」


「そうか……アイツはこの軍事行動には反対してる立場なんだな……」


 そう言って静かに目を閉じるアヤ。

 その場に再び静寂が戻る。


 そして、数秒の沈黙をやぶり、ゆっくりと目を開けながらアヤがつぶやく。


「それじゃあ、そろそろ私も行動を起こすか……逃亡生活も今日でお終いだっ!」


 言い終わると同時に地を蹴り、国王へと向かって突進していく。

 それと同時に、ずっと警戒態勢を取っていた、王の両隣にいた№5と№6が動く。

 №5は全身を硬質化する異能を発動させ王の前に立ち盾となる。№6は全身を刃物化させる異能を発動させ、手刀を構えアヤ迎撃の体勢を取る。


 誰の目から見ても、王を狙ったアヤの攻撃は№5によって防がれ、隙を狙った№6によってカウンターを受ける未来しか想像できなかった。

 しかし、その未来が訪れる事はなかった。


 一足で王との距離を詰めていたアヤの突進速度が加速したのだ。

 滞空状態であり、再び地を蹴って再加速したわけでもなく、突然である。


 そしてそのまま、目にもとまらぬ速さで右手を振りぬく。

 それは、攻撃のタイミングをずらされ、反応が遅れた№6の顔と、王の前に立つ№5の顔を巻き込むようにして振りぬかれた。


 次の瞬間には、頭部を失い絶命した二人が、首から大量の血を吹き出しながら地面へと倒れこむ。


「……は?」


 最初からアヤの突進を視認できていなかった国王は、返り血を浴びながらも、何が起きたのかわからずに、変な声を漏らす。

 そして、それが国王がこの世に残した最後の言葉となった。


「さて、見ての通り国王は死んだぞ。そんなわけで、次の国王の宗馬はこの作戦には反対らしいけど、どうするよ?これ以上続けると新国王の意に反するぞ」


 無茶苦茶な事を言い出すアヤ。

 もちろん、そんな言葉に従う精鋭部隊はいないだろう。

 不気味なアヤの能力を警戒しつつも、戦闘態勢を解く事はなかった。


「……まぁ、そうだよな」


 言った当人もわかりきっていたのだろう。肩をすくめて再び戦闘態勢を取る。


 しかし、そこから先は戦闘ではなかった。

 それはただの虐殺だった。

 精鋭部隊であるナンバーズの力を持ってしても、氷室アヤという化物は規格外すぎたのだ。

 アヤへと挑んでいったナンバーズは、ことごとくが返り討ちに合い、ただただ、その場に死体の山を築くだけであった。


 氷室アヤが小屋の中から姿を現してから、たった数分たらずにも関わらず、その場に立っているのはアヤと№2だけとなっていた。


「賢明な判断だなヒカリ」


 そう、ナンバーズの№2・ヒカリだけは、アヤの発言に従い、戦闘態勢を解いた状態で立ち尽くしていたため、生き残っていたのだ。


 アヤが行方をくらました当時は№8だったヒカリだが、それまで何度もアヤと同じ任務に就く事があり、アヤの恐ろしさというものを嫌というほど実感していたため、全員でかかって行ってもアヤには勝てない、という事が最初からわかっていたため、無駄な抵抗をしなかったのだ。


「まぁともかく、お前だけでも残っててくれて助かったわ。ヒカリには色々と動いてもらわねぇとな」


 そう言いながらアヤは、転がっている死体から、ナンバーズの部隊証を剝ぎ取ってはヒカリへと投げ渡し、全員分ヒカリの手に渡ると、右手で死体に触れる。

 手に触れた個所が消滅し、全身を触れる事で、最初からそこには何もなかったかのようにすべてが消えてなくなった。

 『右手で触れたモノを消滅させる能力』。昔アヤに「誰にも言うなよ」という条件の下教えてもらっていたアヤの異能。

 実際に見るのは初めてではあったが、事前情報のおかげでヒカリは特にうろたえずにいられた。


「あとは……ほれっ」


 アヤは自らの胸についていた『N1』表記の部隊証をむしり取ると、それすらもヒカリへと投げ渡す。

 そして、ボロボロになっているメイド服を脱ぐと、それすらも消滅させる。


 意味不明な行動ではあったが、ヒカリは黙ってアヤの行動を見守っていた。


「さて……それじゃあ私は一足先に氷室王国に戻ってるから、ヒカリは佑をどんな方法でもいいから生きたまま氷室王宮まで連れて来てくれ」


 さすがのヒカリも耳を疑った。


「氷室王国に戻る?何を考えているんです!?アナタは国際指名手配されているのをお忘れか!?」


「大丈夫だって。ちゃんと変装するし、偽装工作もするからよ。お前はただ、国に戻ったら『N1』の部隊証提出して『氷室アヤは死んだ』って報告してくれりゃあいいから……んじゃあ私はちょっと着替えてくるからな」


 そう言いながら、上半身下着の下半身ジャージ姿のアヤは小屋の中へと入って行った。


 ヒカリは混乱した状態で、しばらくその場から動く事ができないでいると、少しして着替え終わったアヤが小屋から出て来た。


「――――!!!!?」


 今度こそ完全に言葉を失うヒカリ。


「何だ?まだいたのか?さっさと佑を拉致しに行けよ」


 そこには、ヒラヒラの服を着た10歳児くらいのアヤそっくりの少女がいた。


「ん?この格好似合ってないか?」


 ズレた質問をする少女。

 何も答えられずに口を半開きにして立つヒカリ。


「ったく……何を呆けてんだよ?昔『私の異能は特殊だ』って教えなかったか?」


 確かに聞いた。

 そう言って教えられたのが『右手で触れたモノを消滅させる能力』だった。


「わからないか?特殊なんだよ……私はな、異能を複数持ってんだよ」


 それを聞いて、言葉を失うどころか、完全に思考が停止する。


 普通、異能は一人一つしか持てない。


(もう、この人についてあれこれ考えるだけ時間の無駄だ。というか、やはりそんな化物をどうこうできるわけがないんだ……)


 この後『氷室アヤは死んだ』と報告しなくてはならないヒカリは、どうやってバレないように演技するか頭を抱えるのであった。


サブタイトル修正しました。


第一話で4月頭、現在の本編時期を6月中旬くらいのつもりで書いてるのに、私はサブタイをタイピングしている時何を考えていたのでしょうか?

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