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第二十二話 作戦会議

 真弓は極度の寒がりだった。

 学校で衣替え時期になっても、冬服から変わる事はないし、下手したら梅雨時期までセーターを着こみ、厚手のタイツを脱ぐ事がなかった。

 そして、それは私生活でも同じであった。


「見てるコッチがあちぃんだよ!状況に合わせて少しは脱げよ!」


「はぁ!?そんなの私の勝手でしょ!?セクハラで訴えるわよ!」


 目的地である、氷室アヤの隠れ家である小屋を目視できるようになり、元気を取り戻した壬生と真弓が互いに罵り合う。


 王族の超ボンボンである真弓は、今まで熱くなるほど体を動かす事がなかったため、厚着であったのかもしれない。

 寒がり度合いも、常人よりかは少しは寒がり、という程度だったのだろうが、動いて温まる、という行為をしてこなかったための現状だったのだろう。

 それを、今回歩き回る事で自覚した真弓だったが、今更それを認めるのは、よくわからないプライドが許さなかった。

 それでいて、それを壬生に突っ込まれてもなおさら反発するだけである。

 ただ、来週からはセーターは脱いで登校しようという気持ちにはなっていた。


「元気になったのは良い事ッスけど、少し静かにしてほしいッス」


 普段非常識なシノに怒られて、若干不満そうな顔になるが、今常識的なのはシノの意見の方なので、黙って従う。


「室内に人が一人いる気配があるッス……この場所が正解だったのかもしれないッスね」


 獣化の能力のせいか、ユカナやナナでもわからない気配を察知したシノがつぶやく。


「これ以上進むと気付かれる可能性があるッスね……奇襲をかけるなら、私と補欠9番で……」


「ちょ……ちょっと待って!事実を知るために話を聞くだけじゃないの?何で戦う事前提になってるの!?」


 シノの発言を食い気味に佑が待ったをかける。


「話を聞くなら、何か反応される前に奇襲かけて、まずふん縛っちまうのが一番安全ッス。少しでも暴れられる可能性があるヤツの所にマユミちゃんを近づけるわけにはいかねぇッス」


 まともにやりあっても、まず勝てない事がわかっているため、シノはこの方法を譲る気はないようだった。


「でも、戦わなくて済んだのに藪蛇になった、とかじゃ本末転倒になるんじゃ……?」


「う……それは……」


 事情をよく知らないナナの客観的な意見に口ごもるシノ。


「あ~~もう!いつまでこんな場所で話し込んでるんですか!私はリオ様を襲ったりしたくありません!話を聞くだけです!」


 見かねたユカナが口をはさむ。


「小屋に向かうのは私と佑様と獣の三人で行きます。壬生さんと妹さんはここで待機。ナナさんは何かあった時の二人の護衛として同じくここで待機。本当は佑様もこの場に残っていてほしいところですが、一番の当事者なので私が死んでも守る、という事で妥協します」


 このままでは話が進まないと思ったのか、誰もユカナの発言を遮る事はなかった。


「リオ様から話が聞ければそれで万事OK。もし敵対行動をとられた場合は、戦わずに逃げ一択で行動してください。もちろん佑様の安全を第一に考えてください!」


 メイド各人にそれぞれ守るべき対象がいるにも関わらず、誰も口を挟まないのをいいことに、さりげなく佑の安全を確保するように促す。

 もちろんシノもナナもそんな事を守るつもりは毛頭なかった。


「逃げる事になった時は一丸となって逃げる必要はありません。むしろ少しでも生存率を上げるために散開して各人全力で逃げてください。というか、そのまま帰宅してもらってけっこうです」


 ユカナの作戦説明が終わり、少しの沈黙が訪れる。


「ちょっと聞いてもいい?」


 数秒の沈黙を破って真弓が控えめに手を上げながら口を開く。


「逃げたところで、私等全員№1に素性どころか住所まで特定されてるわよね?逃げきれなくない?」


 もっともな疑問だった。


「その時は晴司兄に泣きつくしかないかもしれねぇッスね……私と補欠9番にミア嬢と晴司兄のメイド部隊が加われば何とかなるかもしれねぇッスからね……というか、助力してくれてる晴司兄にまで襲い掛かるような事すれば、あっという間に国際指名手配されるッスからたぶん大丈夫ッス。そんな事もわからないほどの馬鹿じゃないハズっすから」


 真弓の疑問にシノが返答する。

 そして、それ以外に質問で手が上がる事はなかった。


 それからは皆、特に無駄口をたたく事なく行動に移る。

 そうする必要はまったくないものの、極力音をたてないようにゆっくりと小屋へと近づく三人。そしてそれを息をのんで見守る三人。事情が分からに第三者が見ても緊張した空気がわかるような状態になっていた。


 小屋の入り口に到着すると、三人を代表するかのように、佑がドアをノックする。

 返事はなかった。


「入るよ?」


 確認するように、無言の室内へと声をかけ、佑がゆっくりとドアを開ける。


「……え?」

「どういう……事です?」

「何で……ここにいるんスか?」


 各人がそれぞれ疑問の声を漏らす。

 三人ともそこにいるのはリオだと思い込んでいた。

 しかしその場にいた予想外の人物に混乱し、次に口に出す言葉を失っていた。


「……氷室アヤは……どこ?」


 殺気のこもったつぶやきを漏らすミアを前にして、三人は完全に固まっていた。


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