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第二十話 放課後の打合せ

「佑様、よろしければワタクシ達と下校致しませんか?美味しいスイーツのお店があるんです。もちろんお帰りの時は車でお送りいたしますわ」


「あ?佑は私等と一緒に帰る事になってるんだけど?何勝手に横取りしようとしてるわけ?」


 いつものように、佑と親しくなろうと画策する生徒達からの誘いを、真弓の眼力と王族とは思えないドスの効いた声で追い払う。


「毎回毎回あきねぇなアイツ等……」


「あれは放っとくと、強硬手段で既成事実作るために、パンツ脱いで迫ってくるんじゃねえッスか?楽に次期氷室王国王妃の座が狙えて将来安泰になるんスからね」


「そんな痴女集団が現れたなら、私が全力で蹴散らします!」


 そして、飽きる事なくいつもの面子が佑の周りに集まって来る。

 真実を当人に確認しようと、リオ捜索を開始して数日。放課後に、報告と今後の方針等を話し合う流れになっていた。

 佑以外は真実がわかったところで、別にこれといって何か影響があるわけではないのだが、そこはただの好奇心。気になったら知りたいと思う、ゴシップ大好きな人間の性である。


「あ、とりあえず報告しますね。ナンバーズ駐留所に問い合わせたのですが、リオ様は帰ってきていないそうです」


 佑の姉生存説が、確率的に現在の最有力候補となってからというもの、ユカナはリオを呼称する時『様』付けで呼んでいた。


「まぁそうじゃないかとは思ったけどね。とは言っても、№1が行きそうな場所なんて限られてるだろうけど……」


 ユカナの報告に真弓が答える。


 シノが推理した事が真実だった場合、リオに所縁のある場所は少ないと予想されていた。

 国の上層部によって隠されて生活してきたのなら、今まで王宮から出る事はなかったので、居そうな場所候補としては上がったのだが、監禁されていた場所に自ら戻る、というのは考えにくかった事から没案となった。

 次に、初めて外界に出たであろう「氷室アヤ討伐作戦」。所縁のある場所ではあるが、自分が殺害した母親が住んでいた場所に滞在する、というのは常識的に考えてないだろうと、これも没となった。

 そして、一番確率の高い『ナンバーズの詰め所に帰った』案が上がった。

 結果は、先程のユカナの報告通りであった。


「あの……私の予想なんですが、晴司さんが何か知っていて隠しているような気がするんです!」


 突然ユカナがドヤ顔で発言する。


「え?あ、うん。そう……かもね」


 一同絶句して言葉が出ない中、何とか佑だけが微妙な反応をする。


「アホか補欠9番!んな事は皆わかっとるわ!ちゅうか、そんな晴司兄が信用ならんから、ここで話あっとるんやろが!!」


 ユカナの空気読めない発言に、思わず標準語を喋る事を忘れるシノ。そして、その事に対するツッコミを忘れる真弓。

 シノに怒鳴られたユカナは、顔を真っ赤にして無言のまま教室の隅に移動すると、そのままうずくまる。恥ずかしさのあまり目にはうっすらと涙をためていた。


「空気読めねぇわりには打たれ弱いよなアイツ……いや、全員がわかりきってる事を発言してドヤ顔できるんだから、ある意味強ぇのか?」


 壬生のつぶやきを受けて、教室の隅からすすり泣く声が聞こえてくる。


「えっと……皆もうちょっとフォロー入れてあげても……」


 さすがに可哀想だと思って佑が助け舟を出す。


「いや、私はアイツ嫌いッスから」

「俺もそんなに好きじゃねぇな。人の話聞かねぇし」

「私、そういう心のケアとか面倒臭い事苦手なのよ。それにフォロー入れるほど親しくもないし」


 そんな佑の助け舟は、ただただユカナの精神をさらにえぐるだけ、という結果になるのだった。


「それはそうと、第一候補は潰れたわね。他にあの子が行きそうな場所思いつく?」


 ユカナのすすり泣く声は無視して真弓が話を進める。


「やっぱり氷室アヤの隠れ家ッスよ!あのガキは精神イカレてるんスから、自分の母親を殺した殺害現場なんて屁とも思ってねぇッスよ!」


 第二候補だった『氷室アヤが住んでいた場所』案を推すシノ。

 しかし、その場所を調べに行くにあたり、一つだけ問題があった。


「佑。この中じゃアンタしかその場所を知らないわ。母親が死んだその場所に足を運ぶ覚悟はある?」


 佑の意思を確認するかのように、真弓は問いかける。

 一同の視線が佑へとそそがれる。


「うん……大丈夫だよ。ただ、ここからだと、たぶん電車で片道2時間くらいはかかると思うから、今から行くのは難しいと思うよ」


 何の動揺もなく佑は返答する。

 佑にとって『氷室アヤの死』というのは、あまり実感のないものだった。

 目の前で殺害現場を見たわけでもなければ、死体を見せられたわけでもない。ただ他人から「死んだ」と聞かされただけで、それを実感する、というのは難しい話だった。

 なので、佑にとって今回の話は、むしろ願ってもない事だった。

 母親の死を自ら実感するため、新たな覚悟で今後生活していくには、避けては通れない道だと思っていた。


「そう……じゃあ行くのは次の休日……って明日か。とりあえず明日行くって事でいい?」


 佑が多少は動揺すると思って覚悟していたが、何事もなく反応をしたため、何とも拍子抜けしたような表情で予定を確認する真弓。


「車を出させたりしたら、家の連中に不審がられるから電車で行くわよ。いい?」


 反論が無い事はわかりつつも、一応同意は求める。


「なぁ?ふと思ったんだけど……」


 今まで特に口を挿む事がなかった壬生が、ふいに挙手しつつ口を開く。


「そこに本当に№1がいて、事の真相を確認した結果『真実を知った者を生かしておくわけにはいかん!』みたいな感じで襲い掛かってきたりしねぇよな?」


 何を馬鹿な事を?みたいな表情になる一同。


「今まで佑の近くにいたのに、一切何も喋ってなかったんだろ?それでいて氷室アヤを殺したのがバレた瞬間に姿をくらませたって事は、真実を知られたくなかったから……とかじゃねぇ?」


 沈黙する一同。


「壬生。戦力になるかどうかわからないけど、アンタんとこのメイドも一応連れてきなさい。あと佑は、アレの心のケアをちゃんとしときなさいよ」


 真弓が指をさしたそこには、いまだに教室の隅ですすり泣きを続けているユカナの姿があった。


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