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第十六話 リオの異能

しばらく休んでいましたが、本日より再開致します。


更新頻度は2・3日に一話ペースくらいだと思います。

 見た目には何も変化はなかった。

 しかし、何と言葉で表現していいのかわからないような、そんな気持ち悪さはあった。


 空気を読むことが苦手……というよりも、普段から空気を読もうともしないシノだが、対峙している当人だけあって、リオの何とも言えぬ不気味な雰囲気に、息と言葉を飲む。


「どうした?遠距離攻撃を持たない身体強化系能力の(ワンちゃん)だろ?かかって来ないのか?」


 不敵な笑みを浮かべて、リオはシノを挑発する。


「犬にできる戦い方なんて、馬鹿みたいに吠えるか、馬鹿みたいに突っ込んでくる事くらいなんだから早くしろよ。来ないなら帰るぞ私は」


 明らかに『かかって来てくれ』と言わんばかりの挑発。

 かなり不自然だった。


 付き合いは短いが、リオがどういった人間かを知る、佑とユカナは、リオの挑発行為にかなりの違和感があった。

 本当にかかって来て欲しかったのなら、リオだったらもっと上手く、その様に誘導するだろう。

 そもそも、何も発言しなくても、猪突猛進しか頭にないシノだったら、勝手に突進してきただろう。

 何故、わざわざ警戒されるような事を口にするのか。

 リオの能力が何なのかがまったくわからない佑とユカナは、疑問しか出てこなかった。


 しかし、これはリオにとっては挑発行為などでは決してなかった。

 それはただの注意喚起。


 自分から攻めた場合は、確実にシノを殺してしまう。

 逆に受けた場合でも、考え無しに突っ込んでこられた場合は、やはり殺してしまう。


 自らの能力を披露しつつ、シノのプライドを守りつつも、殺さないようにする。


 どんな能力を持っているかを教えて警戒を促してから「それでは危なくないように実践しましょう」と言って戦闘始めれば、それが一番なのだが、それでは、真剣勝負を望んでいるシノが納得しないだろう。


 そのために『何か企んでるから、しっかり警戒して攻めて来いよ』という事がわかるように、明らかに不自然な行動をとっていた。

 そして、リオの思惑通り、普段は何も考えずに突っ込んでいくシノは、珍しく思考を巡らせていた。


 待ちに徹しているという事は、カウンターで真価を発揮する能力なのか?

 それは一体どういう能力なのか?


 色々と考えてはいたが、出した結論は至って単純だった。


(相手は待ち一択。どんな能力を持ってたとしても、コチラから攻めな何も始まらん。せやったら行くしかない。大丈夫!身体強化で反応速度も上がっとる。どんなカウンター技が来ても避けてしまえば問題あらへん)


 行動を決めてしまえば、その後の反応はとてつもなく早かった。

 相手の呼吸タイミングをはかる、などという面倒臭い事はしない、強化した脚力を活かした突進。

 強化した身体能力による単純な暴力へと至る、最初の一手。

 目にもとまらぬ速度で、一瞬にしてリオとの距離を縮める。


 そして、ふと気付く。

 いつの間にかリオは右手を前に出して、シノの方へと手のひらを向けていた。


(何やアレ!?……ヤバイ!何かわからんけどアレはあかん!!?)


 本能的に命の危険を感じているのか、凄まじい速度で突進しているにもかかわらず、周りの風景が流れていくスピードが遅く見える。


(あかん!!止まらな死ぬ!?……ダメや!?このスピードじゃ止まりきれん!?)


 凄まじい速さで思考を巡らせるシノ。

 それだけ助かるために必死だった。


 結果、シノは、リオの眼前で地面を蹴って跳躍し、リオを飛び越えた後、着地に失敗し、そのまま地面を転がる。無茶な体制で飛び跳ねたせいだ。


 傍から見たら、リオへと向かって突進していったシノが、何故かリオを避けるように飛び跳ねて、そのままズッコケる、という意味不明な行動だった。

 実際、佑とユカナの目には、そういった光景が映っていたため、意味が分からずに首をひねるだけだった。

 対峙していたシノ以外で、あの一瞬で死を直感し、走馬灯を見ていたなど、誰が理解するだろうか。


 転がっていたシノだったが、身体的なダメージはなかったようで、すぐに起き上がる。


「……随分とえげつない異能持ちッスね」


 その言葉を聞いて、佑とユカナは、初めて異変に気付く。


 シノが履いている靴の爪先部分と、フリルとパニエだらけのスカートの端が無くなっていた。


 それはリオを飛び越えた際、避けきれずに、ほんの少しだけリオの右手に触れてしまった部分だった。

 破けたとか、破損したとか、そういった感じではなく、その部分だけがキレイに消えていた。


「触れた部分を消滅させる能力……ですか?」


 ユカナのつぶやきに合わせるように、リオが右手を下ろし笑みを浮かべる。


「どうだ?すげぇだろ?まぁ危険だから多用はしないけどな」


 この時佑は、リミッター解除前にリオが言っていた「私の異能はちょっと特殊だから」の意味を理解した。

 確かに、こんな能力が簡単に発動でき、ユカナやシノが能力を発動する頻度で多用できてしまっては危険すぎる。


「さすがはアノ氷室アヤを殺しただけの事はあるッスね……いや、この能力だったらむしろ納得できるッスね」


「…………え?」


 突然シノの口から飛び出した言葉に、佑は思わず反応する。


「普通に考えればわかると思うんスけどね。本当に気付いてなかったのか、それとも気付いていたのに自分の中で気付かないフリをしていたのかはわからないッスけどね」


 佑の方を振り向き、佑に語りかけるようにシノは喋りだす。


「氷室アヤ討伐に向かったのはナンバーズ全員で、生き残ったのは№2だけッス。なら、氷室アヤにトドメをさしたのは№2って事になるッス。だったら欠番でなくなった№1に昇格するのは№2のハズっすよね?でも現状№2は№2のままで、№1になったのは、そこの得体のしれない女ッス」


 シノの言葉に全員が、口を挿むことなく黙って耳を傾ける。


「それが意味するところは一つッス。その場にはナンバーズ以外にも異物が居た。そして氷室アヤを倒したのは№2じゃなくて、その異物であるそいつが殺ったって事ッス!」


 シノは、黙ったまま話を聞いているリオを指差し言葉をしめる。


「面白ぇ推理だな。でもまぁ状況証拠だけみれば、たしかにそうだわな」


 リオは特に否定をするような事はなかった。


「オイオイ佑。随分とひでぇ顔してるな……こりゃあ、これ以上私が護衛に付くのは精神衛生上よくないかもな」


 リオの言う通り、佑は何とも言えない表情になっていた。

 むしろ頭が混乱してしまい、どういう顔をしていいのかがわからなくなっているような感じであった。


「まぁ護衛だけだったら、よっぽどの事が無い限り9番だけでも問題はないだろうしな。私は少しの間どっかに行ってるよ」


 そう言って屋上の隅へと移動していく。

 佑は、それを止める言葉が出てくる事なく、黙ってリオの行動を見つめる事しかできなかった。


「ああそうだ……9番。お前、入隊宣言の文言覚えてるか?」


 突然立ち止まり、ユカナへ質問を投げかける。


「え?あ……はい。ちなみに『私は国の盾なり、我が国の平和と独立を守る使命を自覚し~』っていう王宮メイドの入隊宣言ですか?それとも『私は、氷室王家国王に対して、忠誠と勇気とを誓います~』っていうナンバーズの入隊宣言の方ですか?」


 今答えなくてはならないような質問なのか疑問を持ちながらも、全文を暗記できているユカナは、素直に質問に答える。


「前者の方だ。覚えてるならいい。大事な事だからな、絶対に忘れるなよ」


 それだけを言うと、そのまま屋上から飛び降りて、どこかへと消えていった。

 残された三人は、ただ黙ってリオの消えた方を眺めていた。


 また、シノは『リオの嫌がる事を言って困らせてやろう』程度の気持ちで言った言葉が、結果的にリオを追い出すような事になってしまい、何ともバツが悪い表情になっていた。


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