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第十四話 メイド社会の仕組み

 晴司の手法は徹底的だった。

 全校生徒への一斉送信メールに始まり、学内掲示板でのお知らせ。朝礼での告知。プリントでの配布。

 聞かされている方からしてみたら、正直うんざりするレベルで、佑とユカナの正体を全校生徒へと周知した。

 そのおかげか、佑が誰かにちょっと話しかけたとしても、一言「ごきげんよう」と挨拶だけされて、そそくさとその場を去られてしまっていた。完全に腫物を扱うようにされていた。

 それはそうだろう。

 親しくしていれば、近い将来王族からの支援を得られる可能性が高くなるが、逆に少しでも機嫌を損ねようものなら、最悪、御家取り潰しされて一族郎党路頭に迷うハメになりかねない。

 この学校が、失う物が特にない庶民しかいない学校だったならともかく、なまじ王族か、身分が高目な貴族しかいない学校なせいで、確定されない、得られるかどうかもわからないリターンに対して、常に可能性のあるリスクの方が大きすぎて、まともな神経の人間なら、まず間違いなく挑戦しないギャンブルとなっているのだ。

 結果『無視すると後々怖いから、とりあえず挨拶だけはするけど、極力関わらないようにしよう』という結論へと落ち着いていったのだった。


「あははははは!超面白れぇ!!『今日の古文の範囲って何ページだっけ?』『ご……ごきげんよう』って全然会話成立してねぇじゃん!何?バカなの?」


 そんななか、佑を笑い飛ばしている、まともな神経をしていない人間の壬生。


「ここまでくるともう、いっそ無視してよ、って思えてくるよ……」


 昼休み。パンを目の前に置いて、学食のテーブルに突っ伏してため息をつく佑。


「転校早々に悪目立ちしすぎなのよ。ナンバーズ引き連れて来たり、学食で大暴れしたりで……私でもここまで酷くはなかったわよ」


 佑が来るまでは、学校内で一人浮いた存在だった真弓だったが、同じ王位継承者レベルの身分を持つ佑を、やっと見つけた同類と認識して、学食で同じテーブルに座って会話に混ざっている。


「大暴れしたのは、むしろキミんとこの姉さんが原因だと思うんだけど?」


「まぁ……シノ姉さんはあんな見た目だけど、昔っから意外と喧嘩っ早かったからね……それに関しては謝るわ。悪かったわね」


 腫物扱いの二人が座るテーブルには一切誰も近づいて来ないせいか、二人とも平気で極秘事項であるハズの『姉さん』という単語を口にする。

 ただ一人、壬生だけは、誰かに聞かれていないかヒヤヒヤしながら周りを伺っていた。


 「妹一人に謝らせてないで、アナタも一緒に謝ったらどうなんですか?今謝れば私は寛大ですから許してあげてもいいですよ、獣さん」


 昨日までの制服姿ではなく、メイド服で佑のそばに居られるのが嬉しいのか、上機嫌にシノを挑発するユカナ。一度争っているからか、シノの事は完全に敵視しているようだった。


「あ?先に手ぇ出したんはソッチやろ?何で私が謝らなあかん……」


「標準語!!」


「はいッス!」


 ユカナの挑発にのって怒ったせいで、思わず方言が出てしまったシノだが、真弓との毎度のやりとりのおかげで、少し冷静になる。


「……そういえば何でメイドってこんなに従順なんだろう?」


 シノと真弓のやり取りを見ながら、唐突に佑が口を開く。


「は?そりゃあ私とシノ姉さんの絆は、私が生まれた時から……」


「あ……違う違う!ごめん、そういう意味で言ったんじゃないんだ」


 若干不機嫌になりつつも、二人の絆について説明しようとする真弓に、謝罪しつつも、先程の発言についての訂正をする佑。


「ほら、メイドの力って、一般人からしたら束になったってどうにもならない程でしょ?だから、圧倒的に劣る人の言う事を素直に聞くメイド、っていう図式が不思議だったんだ」


 メイドである母親とずっと一緒に生活していたものの、そのメイド自体の戦闘能力を目の当たりにしたのが、つい最近だったため、普通なら幼児の頃に抱くような疑問を今更いだいた佑だった。

 佑の疑問に、残った全員は無言で顔を見合わせる。


「そりゃあ、そういう社会システムが出来上がってるから、ってしか言いようがないな……無駄に反発したところで、国のメイド部隊に鎮圧されるだけだしな」


 佑の疑問に壬生が代表して答える。


「じゃあ、国のメイド部隊でも何とかできない人物が……例えばリオちゃんみたいな人が反旗を翻したら?そしたら、それに便乗するメイドが出てきてもおかしくないんじゃない?」


 佑は、ここぞとばかりに、今まで思っていた疑問を口にする。


「あのなぁ……じゃあ逆に聞くぞ。そうやって既存の秩序を壊してどうすんだ?モヒカンがヒャッハーしてる世紀末みたいな世界にして誰が得するんだ?」


「いや、別にそこまで極端な事しなくても、メイドの権利っていうか人権の向上を訴えるくらいの要求をするくらいの事は……」


 まだまだ疑問を放出し続ける佑。


「そんな要求するような馬鹿に賛同する奴なんていねぇだろ。だったら最初っからメイドになるなよ、って話だ。メイドの人権がどうなってるかなんてのはガキでも知ってる事だ。それをわかったうえで、高収入を夢見て、高い金払ってでも自分からメイドになる事を望んだ奴が何言ってんだ?って感じだよ」


「まぁ高収入を夢見る理由が、自分のためか他人のためか……はたまた全然関係ない理由なのか、人それぞれだとは思いますけどね……」


 壬生の返答に対して、ユカナが補足を入れる。

 ユカナの過去を聞いていた佑は、ユカナのこの発言の重さが理解できたため、何も言えなくなった。


「佑様が優しい事はよく理解してます。私達メイドの事を思ってくれている事はわかります。けれど、全てわかったうえで私達はメイドになってますから……そんな私達への配慮は無用ですよ」


 そう言って見せるユカナは悲しそうな笑顔を見せる。

 その笑顔が、自分の母親を想ってのものなのか、それとも母親と同じ道を選んだ自分への自嘲の笑みなのか……それは佑にはわからなかった。


「それにほら、それに近いプチ反発してた氷室アヤが最終的にどうなったかとかは知ってるだろ?あの伝説的な氷室アヤですら成功しなかった反発を他のメイドが達成できねぇよ。まぁ最近だとそのニュースが見せしめ代わりになって、ちょっとした野心持ってる勘違いメイドを自重させる効果にはなってるみたいだけどな」


 氷室アヤが佑の母親だという事実を知らずに、壬生は佑へと補足説明をする。


「ある程度話がまとまったところ悪いんだけど……」


 今まで、特に話に加わってこなかった真弓が、恐る恐るといった感じで、小さく挙手する。


「さっきユカナが言ってたじゃない?『私達メイドは全てわかったうえでメイドになってます』みたいな事……」


 真弓にいきなり話をふられて、ユカナは若干警戒しつつも、黙ったまま首を縦にふる。


「それについての補足なんだけど……あまりよく理解してないまま、勢いだけでメイドになったって人もいるって事を覚えておいてほしいのよね……」


 シノを指さしながら、恥ずかしそうに顔をうな垂れる真弓。


「すげぇだろ!尊敬してもいいッスよ!」


 そして、それを何とも思っていない当人。


「……馬鹿なんですね」


 つぶやくユカナ。

 せっかくいい話でまとめたのに台無しにされた気分だった。


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