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第十一話 噂の真偽

 密閉された空間での、少人数のコミュニティー群での、モノの伝達速度というものは馬鹿にできないものである。

 例えば、学校内で起こった大きな事件等は、その場に居合わせたのが数十人程度であったとしても、あっと言う間に全校生徒数百人の耳に入ったりもする。

 もちろん例外もいる。どこの組織にも属していないハグレ者。周りから浮いてしまっていて、コミュニティーの輪から弾かれてしまっている者達。そういった連中には、噂話というものは中々入ってこないものである。


 そんなわけで、佑達の耳に話が入る事なく、昼休みに食堂で起きた事件の噂は、あっと言う間に全校生徒の知る事となる。

 そんな状態で、教室へと戻った佑と壬生に向けられるのは疑惑の視線。


 噂というのは、伝言ゲーム同様で、最初と最後では伝えれれる内容は変わってくるものであり、途中誰かの思想や推理が加えられ、いくつもの派生噂が存在する。


 今回の噂、最初に伝えられた内容は『三年の野上由加奈さんが、食堂で飛駒王国のメイドであるシノさんと戦闘してたよ。もしかして由加奈さんってメイドなの?』といった内容だったものの、最後の方の噂は『氷室王国からのスパイである佑が、内通者の壬生と共謀して、色々悪さをしていたが、それに気づいてしまったシノを消そうとして、身分を偽っていたメイドのユカナをけしかけたが、実力伯仲で戦闘が長引いてしまい、結局は皆の目につく食堂で決着がついた』といったものになっていた。


 もちろん噂の内容を知らない佑と壬生は、色々な視線にさらされながら、自らの席へと移動していく。


「おい……コレ完全に俺、お前等の巻添えくらってるよなぁ?」


 噂の内容がわからなくても、周りからの視線で、自分もその対象に加わっている事を理解した壬生が、佑にクレームをつける。

 佑は特に何も言えずに、苦笑いしながら、席へと着く。


 結局は午後の授業の間、ユカナとシノが教室に戻ってくる事はなかった。

 噂の中心である二人が戻ったら、間違いなく騒ぎになる事がわかっているため、晴司による配慮なのだろう、という事は佑にも理解できた。


とはいっても、授業中にヒソヒソ話が頻繁に行われていた事は、周りの空気で理解できたものの、クラスのコミュニティーに属していない佑には、どういった内容が噂として出回っているのかを理解する事はできなかった。


 そして、このクラスにはもう一人、コミュニティーに属していないため、午後の授業中、ずっとモヤモヤしていた人物がいた。


「アンタ……私のメイドがどこいったか知らない?」


 シノの主人でもある、飛駒王国王位継承権第5位の飛駒真弓である。

 「ナンバーズの1番を調べる」と言って、昼休み姿を消して、いつまでたっても戻らない自らのメイドを心配し、確実に関わりがあるだろうと思われる佑に直接声をかけてきたのである。


「えっと……ごめん、ちょっとよくわからないかな?」


 そう答えた佑だったが、別に隠したくて言っているわけではなかった。

 佑には、声をかけて来たのが誰なのかすら知らないのだ。

 それはそうだ、転校してきて1日で、クラス全員の顔と名前を一致させるのなんて普通は無理な話なのだ。そのうえで、真弓は自己紹介すらせずに、単刀直入に質問をぶつけている。


 結果として、佑は極力波風立てないないようにするための『変なのには関わらない』という結論を出し「よくわからない」発言なわけである。


「佑……コイツが飛駒のお姫様だよ」


 会話を聞いていた壬生が、ため息まじりで佑に耳打ちする。


「……あ!シノさんの……!?」


 やっと状況を理解した佑がつぶやく。


「ちょお待てて!『……あ!』って何なん!?私の事なんやと思とって……」


「落ち着けお姫さん!標準語はどうした?」


「う……あ……」


 興奮した事で、シノと同じようにうっかり方言が出た真弓を、壬生が落ち着かせる。


「……取り乱したみたいね。それじゃあ改めて聞くわよ?私は飛駒真弓っていうんだけど、私のメイドのシノって子を探してるの。授業中にナンバーズの1番に絡んでいった子……あの子が今どこにいるか知らない?」


 最初にそう言ってくれれば、壬生のアドバイス無く佑だけで答えられたと思われるくらい丁寧に言いなおす真弓。


「あ、じゃあコチラも改めて……シノさんなら、たぶんまだ保健室にいると思うよ」


「は?保健室?何でよ!?」


 事情をまったく知らない真弓からしてみたら、当たり前な疑問である。


「ナンバーズの1番に一撃でのされてたぞ。まぁ気絶して保健室送りになったってわけだ」


「いやいや、コブシを叩き落す動作もあったから、正確には二撃でのされたって感じじゃない?」


 壬生の説明に、佑の的外れな解説が入る。


「一撃でも二撃でもどっちでもいいわよ……ともかくシノは保健室にいるのね?」


 案の定、佑の解説は軽く流される。


「お、保健室に行くのか?じゃあちょっと私等も同行してもいいかいお嬢さん?」


 メイドの待機スペースからワンテンポ遅れでリオがやって来ていた。


「……№1…………」


「そう警戒すんなって。別に取って食ったりはしないから安心しろって。歩きながらちょっと聞きたい事があるだけだって」


 護衛のメイドがいない状態での真弓は、リオの提案に逆らえずに同行を許可するのだった。

 また「え?俺も一緒に行くの?」という表情をしている壬生も、佑にガッチリと肩を組まれて、強制的に同行するのだった。


「それで?聞きたい事っていうのは何?」


 教室を出てすぐに口をひらく真弓。


「なに、大したことじゃない。お嬢さんは何でこの学校来てんのかと思ってね。継承権5位以内なら、基本は王宮内から出られないもんだろ?」


 リオの言う通り、大抵の国は、継承権上位5人あたりには、何かあっては困るため、外部へ出さずに、自分の国の安全な場所で専属の教師を付けて高校卒業あたりまでは過ごすものである。


 まぁ佑は例外ではあるが、真弓も本来だったら、この学園にいるのはイレギュラーな存在ではあった。


「簡単な話よ……私は王位を継承するつもりは一切ないし。それにね……私の王位継承権は6位よ」


「なるほどな……よくわかったよ」


 真弓のその一言で全てを理解したかのようにリオは言葉を返す。

 そこから二人の会話は何もなくなった。どうやらリオが聞きたかったのは、本当にその一つだけだったようだった。


「え?どういう事?5位と6位を間違えてたって事?」


 佑がこっそりとリオに尋ねる。


「……まぁ、色々あるって事だよ」


 リオの反応は、何とも適当にはぐらかすような言い方だった。


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