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第十話 理事長室での昼食

 野上学園理事長室。

 そこは多忙で不在がちな野上晴司が執務を行うための部屋である。

 とはいっても、学園長や経理担当等、学園運営に準じる役職の者は多々いるため、晴司が行うのは、上がってきた報告書に目を通し、問題があればその問題提示をし、なければ印を押すだけである。


 そんな理事長室。晴司以外使用する事はないため、普段は毎日掃除だけはされているものの、利用する者はほぼ皆無な部屋となっている。

 しかし今は、そんな普段の理事長室からは想像できないほどの人数がいた。


 リオやユカナの行動を知って頭を抱えている晴司。

 そんな晴司の傍らに常に無言で立っているミア。

 我が物顔で部屋のソファーを占領し、晴司が用意した昼食を食べるリオ。

 気絶したままリオによって運ばれたユカナとシノ

 何故か一緒に連行されて複雑な表情をしている壬生。

 もう色々と諦めて無心で、壬生にもらったパンを部屋の端で食べている佑。


 そこそこ広い部屋だが、基本は晴司一人で使用し、2・3人なら来客が来てもいい、程度な用途で設定されているため、7人から集まると、かなり狭く感じる。


「あ~……少し確認したいのだが、キミ等は佑の正体を隠す気はあるのか?」


 晴司の疑問はもっともである。

 佑はまだ、少しは隠そうと思い、リオやユカナがやらかす事を誤魔化そうとしたりはしているものの、やらかしている当人である、リオとユカナがまったく隠す気がないとしか思えない行動ばかりをとっているのだ。


「どうだろうな?少しはあるかもしれないけど、私は正直面倒臭い事が嫌いだからな……まぁバレたらバレたでいんじゃね?くらいで行動してるよ」


 元も子もないリオの発言に、再び頭を抱える晴司。


「そうだった。キミはそういう性格だったな……そこを失念していた私の落ち度か……」


「そもそもだセージ。コイツが正体隠さずにここにいる時点で、佑も正体隠す必要はあまりないんじゃないのか?」


 気絶しているシノを指差しながら晴司に問いかけるリオ。


「むしろシノ君にバレると厄介だから正体を隠しておきたかった、というのが本音ではあるのだがね」


 シノの性格を知っている晴司は、佑のメイドが本物のナンバーズだとわかれば、対抗心をむき出しにしてくる事が容易に想像できていた。

 佑の正体を隠す事は、もちろん、学園カースト制度での無用な争いを避ける目的もあったが、晴司にとっての一番の目的は、佑が氷室の王族だとバレる事により、芋づる式に護衛役がナンバーズだという事がシノにバレる事を避ける事だった。


「功名心、大いに結構じゃないか。野望ってのは人が動く原動力になる。まぁどっかのメイドみたいに、実際に行動に移して腕を失う事もあるけどな」


 微動だにせずにミアはリオを睨みつける。


「耳が痛いな……」


 苦笑する晴司。


「……もしかしてミアさんの腕って……?」


 話の内容がいまいち理解できてない佑が、ボソッつぶやく。


「ばっか!お前。晴司様のメイドが、昔あの氷室アヤに挑戦して腕もぎ取られたってのは有名な噂だろうが!」


 世間知らずな佑に、壬生が小声で怒鳴りつける。

 佑の記憶にあるミアは、出会った時から片腕が無かった。もちろんそれが、自分の母親によって失われたものだという事を知らずにいた。


「……もぎ取られたわけではない」


 壬生の発言が聞こえていたミアは、ボソッとつぶやくが、特に誰の耳にも入ってはいないようだった。


「……にしても、晴司様の耳にも入ってるって事は、この飛駒のメイドって有名なんですか?まぁ飛駒王国の王位継承権()()の真弓のメイドやってるんだから、やっぱそれなりに有名か」


 変な空気を変えようと、壬生が晴司に問いかける。『無理矢理つれてこられたのに、何で俺が色々と気を使わねぇとなんねぇんだよ……クソぉ胃が痛ぇ……』と内心思ってはいたが、そこは口に出さずに飲み込んだ。


「ああ……キミが佑の正体を知ったという壬生君か……そうだね、有名かどうかは知らないが、シノ君とは10年以上前から個人的な付き合いがあるというだけの事だよ」


「そ……そうなんですね……」


 他国の王族と個人的な付き合いがあるメイドって何だよ!!?というツッコミを入れたかったが、この国での、おそらく一番の権力者に、それを言う勇気は、この学園のカースト制度にどっぷりと浸かっている壬生にはなかった。


「それはそうと、結局どうするの?せっちゃん?」


「せっ……せっちゃ……!!!?」


 晴司をあだ名呼びする佑に驚愕の表情をする壬生。


「学食であれだけ物壊して暴れたんだし、特にユカナの正体隠し通すのは無理だと思うよ。目撃者どれだけいた事か……」


 窓や壁の修繕費の事も内心心配しながら佑が話す。


「そうだね。一番懸念していた事は既に起こってしまっているわけだしね。下手に工作しても、他生徒に不審がられるだけだろう……さて、どうしたものか?」


 晴司は演技掛かった仕草で喋りだす。ただ、佑は、晴司がこういった動作をする時は、既に自分の中で結論が出ている事を知っていたので、次にどういった言動が飛び出すかは安易に想像できており、どんな結果になるのかを待つワクワク感はあまりなかった。


「仕方がない。学園名簿の佑の名義を『氷室』に直そう。ユカナ君は除名して、本来の任務通り佑の護衛メイドとして登校させるようにしよう。偽名にしていた経緯もある程度は全生徒に周知し、できる限りは佑の学園生活に支障が無いように手をまわそう」


 やっぱりな……と思う佑だった。


「だが覚悟するんだよ佑。氷室王国の王位継承権1位という事が周知されれば、周りからは腫物扱いされ、普通の学園生活を送りにくくなると考えていてくれ」


「って!?お前王位継承権1位持ってんのかよ!!?黙ってれば次期国王かよ!!?」


 『直系の王族』という事しか知らなかった壬生が、晴司の発言を聞いて叫ぶ。


「なんだお前。(ナンバー1)が護衛についてる時点で気付かなかったのか?もしかして、今朝私が言った『野上からの要請で、暇だった私が護衛についた』って話信じてたのか?」


「いや、そんなの信じてるヤツ一人もいねぇよ!!」


「ああ、壬生君。キミの様な存在は貴重だ。佑が孤立しないように支えてあげてほしい。佑が円満な学園生活を送れたならキミの内申点を加算してあげてもいい」


 リオの「一人くらいはいるだろ?」というぼやきは無視され、晴司によって話が進められる。


 この国の実質最高権力者の言う『内申点の加算』が、学園内だけの事ではない事をよく理解している壬生に、晴司の申し出を断る理由は存在しなかった。

 もちろん、壬生自身、佑の事を何だかんだ言いながらも、好き……とまではいかないながらも、嫌ってはいない事も大きかった。


「さて、今後の方針も無事決まったのだ、早く昼食をとらなければ午後の授業に遅刻してしまうぞ。学生の本分は勉強だ。急ぎたまえ」


 晴司のまとめにより、佑と壬生は急いでパンを口の中に放り込む。

 遅刻していく気満々なリオは、特に急ぐことなくゆったりと昼食を口に運んでいる。


 そして、気絶から覚めないユカナとシノは、ミアに引きずられて保健室へと運ばれていった。

 人差し指と薬指の握力だけで二人の襟首をつかんで引きずっていくミアを見て、この人もメイドとしては規格外な強さなのかな?と、想像する佑だった。


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