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第九話 ビーストとナンバーズ

 私立野上学園。何度も言うがそれは、超が付くほどのお坊ちゃま・お嬢様校である。

 もちろん設置されている学食も超一流の金持ち達の舌を唸らせるレベルの、学食と言うには余りあるレベルの料亭のようなものが設置されている。

 つまり金額も、学食レベルに落ちているとはいえ、それでも一般人がおいそれと手を出せるような料金設定はされていない。


 初日の昼休みは、ユカナが用意してくれていたお弁当で場をしのいだのだが、その日は、リオの昨日の発言である「私に任せとけ」の一言のせいで、それに従っていたユカナは何も用意をしていなかった。


「ええと……一番安いのは、この『国産黒豚のヒレカツ定食』の3880円かな?」


「いえ佑様、何が出てくるかわかりませんが、この日替わりランチ3700円が、たぶん最安値です」


 顔を見合わせる佑とユカナ。


「私は財布は家に置いてきてしまっているので、ポケットに入っていた500円が今の手持ちです……佑様は?」


「ええと……1、2、3……600円だね」


 二人合わせても、ここで食事をするには、馬鹿にしてんのか?と言われるような金額だった。

 二人してため息をつく。


「……ごめんなさい佑様、あの子を信用しないで、ちゃんとお弁当用意しておけばよかったんですけど」


 心底すまなさそうにユカナがつぶやく。

 原因を作った張本人であるリオは、昼休みに入る直前に姿を消していた。


「別にキミが悪いわけじゃないんだから、そんなに気にしなくていいよ……まぁともかく、ちょっと学校を出てコンビニにでも行かないとダメそうだね」


「それでしたら、その役目は私が引き受けます!40秒で行ってきます!!」


 佑に、何を買ってくるかも聞かずに飛び出していきそうになるユカナを、佑が落ち着かせる。


「ユカナ。キミがメイドって事はいちおう秘密なんだから落ち着いて……ね?」


 40秒でコンビニまで往復できる脚力を披露なんてすれば、ユカナがメイドだという事は一発でバレるだろう。


「食べ終わるのが、昼休みの時間ぎりぎりになるかもしれないけど、落ち着いて二人で歩いて……」


「お前等何やってんだ?」


 ユカナを説得している佑は、後ろからの声に反応して振り返る。

 そこには大量のパンを抱えた壬生が立っていた。


「何なんですかアナタは!また性懲りもなく佑様に絡んできて!私達は今、お昼ご飯をどうするかという問題に直面していて……」


「やっぱりな、そんなこったろうと思ったよ。ほれっ!」


 壬生は持っていたパンを2つずつ、佑とユカナに投げ渡す。


「これは?」


「この食堂の脇の扉から外に出ると、パン売り場が用意されてんだよ。この学食を利用する奴は3分の2くらいで、残りの3分の1は、リーズナブルな価格で買える、外のパン屋を利用してんだよ」


 壬生の話では、3分の1がパン屋利用。3分の1がここの価格をへとも思わないガチ勢。3分の1が見栄のために多少無茶をする連中。という分布になっているようだった。


「えっと……くれるのはありがたいんだけど……どうして?」


「ん?一緒に飯食おうと思っただけだって。今ナナが休養中で俺のメイドいねぇから、うっかり絡まれてもナンバーズ様がついてれば守ってもらえるかと思ってね」


 普通だったら黙っている下心を平気で口にする壬生。

 何だかんだで、壬生の事けっこう好きかもしれない、と思う佑だった。


「私が護衛するのは佑様だけですよ!何でアナタを守らないといけないんですか!」


 ユカナの苦情はもっともである。


「そうそう、今この状況で俺が絡まれるって事は、その佑様も一緒に絡まれてる状況だろうから、お前は佑様だけ守ってくれてればいいんだよ。結果的に俺も守ってる事になるだけなんだから」


「ぐぬぬぅ……小物のクセに生意気ですね」


 漫画みたいな表現で悔しがるユカナ。それを見て笑う佑。


「談笑中ちょっと失礼するッスよ」


 突然シノが、佑とユカナの間に割り込んでくる。


「んじゃあ俺は教室戻るから!」


 即行で逃げようとする壬生のそでをしっかりと握りしめて逃がさないようにする佑。


「ちょっと待てって、コレ俺関係ないって、お前等の案件だろ?俺を巻き込むなって」


「旅は道連れ。一蓮托生。その辺の言葉知ってる?そもそも、沈みかかってるコノ泥船に乗っかってきたのはキミだよ」


 シノに聞こえないように、コソコソと揉め事を行う佑と壬生。


「私の異能を舐めてもらっちゃ困るッス。全部聞こえてるッスよ。大丈夫ッスよ、素直に質問応えれば、無傷でいられるんスから」


 やっぱコイツ異能者じゃねぇかよ!ヤバイ奴確定だから俺だけでも逃がしてくれよ。という事をアクション交えて表情と口パクパクしながら訴えてくる壬生。佑はもちろん無視している。


「ナンバーズ一番のガキはどこッスか?」

「あの一番の素性は知ってるんスか?」

「一番は異能持ちッスか?」


 次々と質問が飛んでくる。……が佑は、全てに「知らない」と答える。


「やっぱ知らねぇッスか……完全に空振りッスね。つかえねぇ奴ッスね……それと、最後の質問をしていいッスか?」


 そう言いつつシノは、ユカナを指差す。


「さっきから私に向かって、一般生徒とは思えない殺気をぶつけてきてるコイツは何者ッスか?」


 その言葉を合図にユカナが動く。目の前にいるシノの顔に向かって、物凄い勢いで拳を繰り出す。

 そんな不意打ち気味に放った、超高速のユカナの拳を、シノは直前で受け止める。


「っ!!?あつっ!!?」


 止められても、お構いなしに、シノの手を焼こうと能力を発動させるユカナ。

 熱さで手を放すだろう、と狙ったユカナだったが、シノは熱さを我慢して、逆に手を握りこむ。

 逃げられなくしたところで、ユカナの顔面に向かって蹴りを放つ。ユカナも避けられない、と悟ると、そのまま手を握られた状態で、シノの顔面に向かって蹴りを放つ。


 二人の蹴りが同時にお互いの顔にヒットする。そして同時に吹っ飛ぶ。


 ユカナは学食の窓を突き破り、外へと吹っ飛ぶ。

 シノは学食の壁をぶち破り、廊下へと吹っ飛ぶ。


 そして、お互い額から出血した状態で、同時に学食内に戻ってくる。


「やべぇって!!ナンバーズとビーストのガチ戦闘は!学校壊れるって!!」


 壬生が叫ぶ。

 とは言っても、誰もその戦闘を止められない。

 佑の命令を聞くのはユカナのみ、佑がユカナを止めたところで、無抵抗な状態でシノにユカナがやられるだけである。


 そんな壬生と佑の混乱をよそに、当人達は互いを睨んだ状態で止まると、拳を構えて片足を後ろに引き前かがみになる。

 今いる位置から、全力で飛び出して勢いをつけた状態で、全力で殴りつける体制をお互いにとる。

 タイミングを合わせたかのように、同時に飛び出す。

 そして、お互い相手へと突き出した拳は……


 二人の間に入ってきたロリメイドによって叩き落とされ、お互いの拳は床をたたき割っていた。


 そのまま、そのロリメイドは二人の頭を掴むと、物凄い勢いで頭同士をぶつける。

 頭蓋骨が砕けたのではないかと思えるような鈍い音が学食に響く。


 そして、気を失って床に転がり落ちる二人。


「理事長室で飯用意して待ってたのに何やってんだよお前等?」


「いや……理事長室とか何も聞いてなかったから、普通に学食にご飯を食べに……」


 それなのに、どうしてこうなったのか?どう説明すべきか悩む佑。


「ああ……すまん、そういや言うの忘れてたわ」


 特に今の学食の惨状を気にする事なく会話を続けるリオ。


「……なぁ、だから言ったろ。『№1はヤバイ』って……」


 壬生がつぶやく。佑はリオがどれだけ規格外だったのかを、この時初めて知ったのだった。

 でも、気を失ってる二人の頭を踏みつけてるのは、可哀想だからやめてあげて、と思う佑であった。


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