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勇者様の三男は休みが欲しい(切実)

作者: 月猫ネムリ

6/29、指摘を受けタイトルを変更しました

 王国には、勇者と呼ばれた王がいる。

弱小貴族の末子と言う身分から、害獣の討伐、迷宮の踏破、牛頭人身の怪物の討伐と拉致被害者の救出、飢饉の救済、税率の軽減と経済循環の活性化。

数多の武勲と文功を重ねた末に暗黒を統べる魔の根源を消滅させた彼を人々は勇者と呼び、何人もの美姫を妻にするために勇者は王になった。

そして今。

勇者と姫たちが為した子供達は、世界中で父母から受け継いだ才を存分に活用している。

長男ボモドールは恵まれた体躯と戦棍術で国境の守護神と謳われる名将軍に。

長女アルライラは美しい顔と知恵を湛えた頭脳を駆使して各国と渡り合う外交官に。

次男コザックは母の薫陶を受け継ぎ、今まで手付かずだった科学を切り開く科学者に。

三男エランドは父と同じく世界中の助けを求める人々に救いを差し伸べる生還者に。

次女ミリンダと三女ネサリーは双子の歌姫として未だ魔の残滓に苦しむ人々に笑いを届けようと世界に歌を届け続けている。

誰しもが輝かしい才能と功績を上げ続ける中で、一人だけ苦悩する子がいた。

彼の名はクラヴェル。

本来は三男として生まれながら、父に瓜二つの容姿を持って生まれたがために父の影として生きる事を決められた子である。



 「もうイヤだ!」


ガリガリと羊皮紙を削りそうな筆圧で動かしている万年筆を握りしめ、第三王子クラヴェルは叫んだ。

しかし返答はにべもない。


「ではクラヴェル様。この追加の決済待ちと請求書と報告書と証明書を終わらせて下さい」


「ムリだろ!見ろ、この天井にまで届く書類の山を!!

しかもひとつじゃない。六つだ!

やってやれるかよぉ!!」


ボロボロと涙をこぼしながら、クラヴェルは目線だけで作業机の周囲に山積みになった書類を示す。

───天井にまで届くという表現が誇張ではない証に、クラヴェルの万感の思いが籠った叫びで書類の山が危なっかしく揺れる。

それを支える様子もなく、お付きのメイド───という名目で付けられた監視役は冷たい声で言い放つ。


「喋る余力があるなら手を動かして下さい。

そもそも、決済が済んでいない書類がここまで山になって残っているのは誰のせいですか?責めるのであればご自分の怠慢を責めるのが道理でしょう」


事実ならば確かに自業自得と言うほかない。

だが、クラヴェルにも言い分はあるのだ。


「もう六徹目なのに!?

食事も睡眠も返上して書類決裁しているこの状況のどこに怠慢があるんだよぉ?」


六日間、栄養補助食品とエナジードリンクだけを摂取して書類を片付け続けてきたのだから少しは慈悲をくれ、と乾燥で流れ続ける涙をぬぐって訴える。

だが、それでも監視役の言葉は冷たい。


「今まさに。

そんなモタモタしているようでは書類が溜まる一方です。

さっさと手を動かしなさい」


「チクショオォォ!」


やけっぱちの断末魔を響かせて、クラヴェルは寝不足と涙でグラグラする目を拭い書類を片付けに掛かる。

どういう理屈なのか決して損なわれない父と同じ顔面を歪めて、クラヴェルはひたすらに書類を処理する機械と化した。




 「どうぞ追加です。さっさと終わらせて下さい」


「……………………は?」


五時間後。

怒涛の勢いでようやく山を一つ片付けたクラヴェルの前に積まれたのは、


「おい、なんで一気に八つも書類の山が増えるんだよ!?」


「クラヴェル様の怠慢のせいで未決済の書類が増えたからです」


室内で揺れる書類の山と同じ高さを誇る、書類の山脈だった。

監視役の言い草に、思わずクラヴェルの息が詰まる。

そんな様子も気に留めないで、監視役は


「ではさっさと終わらせなさい。

この程度の量、国王陛下なら一日も必要ありません。

陛下の血をひいているのであれば、出来る筈です」


やはり冷たい言葉で発破をかけた。

しかし、ここでクラヴェルの我慢が限界を超えた。


「………なら親父にやらせろよ」


「はい?」


「親父なら半日で終わらせられるっていうんなら!

親父にやらせりゃいいじゃないか!!

いるんだろ!?今日も花街辺りに!

毎日毎日仕事押し付けられてひぃこら言ってる無能の代わりに!

毎日毎日女の尻追っかけてる勇者様に偶には仕事させりゃあいいじゃないか!!」


万年筆を握ったまま叩きつけられた手は、音をたてないまま力を失う。

満足に食事も睡眠も摂れず溜められ続けたストレスで制限が外れた脳みそは、

今まで仕舞い込んでいた本音をぶちまけていく。

そんな悲痛な叫びに対する返答は、


「不敬な」


一本の注射器だけだった。

その瞬間、クラヴェルの顔面から血が引いた。

この国に住まう全ての民が有する超えてはならない一線を踏み越えた事を後悔する間もなく、突き立った注射器から萌黄色の薬液がクラヴェルの体内に侵入した。


「っつがぁぁぁぁぁぁあ!!」


「何度も何度も言い聞かせている事ではありますが。

陛下が花街に赴いているのは、偏に陛下の聖務───地上に神の恩寵を有する陛下の胤を拡げるためなのです。

断じて穢れた目的の為ではございません。

ただでさえ陛下を貶めんとする輩が国の内外に少なからず居るというのに、陛下の子である貴方がそれを肯定するような言動をしてはいけません。

分かりましたね?

───宜しい。では万年筆を拾いなさい。

まだまだ書類はありますが大丈夫です。

如何に無能とは言え、貴方は陛下の子。

今は母親の無能が表に出ているだけなのです。

この薬を注ぐだけで全てが終わるまで働き続けられる事がその証拠。

さぁ、全ては陛下の御為に。

まずはこの書類を片付けましょう────」


監視役の言うがまま、クラヴェルは七日目の徹夜も顧みず、一心不乱に書類に万年筆を奔らせる。

流れる涙は未だ止まず。

限界を通り越し鈍痛に進化した空腹が身体を苛むけれど。

それも全ては父の為。

そう思えば辛くは無い。

奇妙に白化した思考の中で、クラヴェルは壊れた笑みを浮かべた。


人物紹介


クラヴェル:本名はもう少し長いが名乗る機会は無い。

武力も知性も一般人に毛が生えた程度だが、父と同じ顔を持つという1点で投薬と身体矯正を重ね王の影武者にされた元第3王子。

好奇心や冒険心が強いがその一方で慎重かつ我慢強い。

生まれた時からその存在を外に知られない為に城の中に閉じ込められてずっと教育を受けてきた。

一応婚約者がいるが、案の定というべきか父親に寝取られ(1回もあった事が無いので寝取られではないかも?)ている。

出会いは欲しいがそれ以上に美味しいご飯と快適な睡眠が切実にほしい。

17歳。


勇者:様々な武勲と文化功績を重ねて王様に至ったスゴイ人。

実際は異世界チーレムヒャッホーしている頭と腰が軽い人(元は10代チャラ男)。

年齢は30代後半だが外見的には20代。

自国のお姫様、ハイエルフの巫女、人魚の歌姫、合法ロリ錬金術師、安値で買い上げたオ○○奴隷の5人と結婚しているが肉体関係を結んでいる女性は既婚未婚問わず大勢いる。

ニコポと撫でポで陥とした女神から、転生特典として『魅了の貌』『武神の加護』『未来選択』『絶倫』『全肯定』などのチートをもらっている。

強引に成長を早めた影武者クラヴェルを手に入れた事で仕事をサボって花街に入り浸るようになる。

なお、妻たちの不満や面倒な仕事はクラヴェルに押し付けて今後は遊んで暮らす模様。


監視役:クラヴェルが逃げ出さないよう見張る事が仕事。

反抗心を折る為に意識して罵倒をしていると思い込んでいる生粋のサディストたちが集められている。

かつては軽蔑されたり敬遠されたりしていたので、自分たちを名誉ある職(彼らから見た)に付けてくれた勇者に感謝し狂的な信仰心を抱いている。


萌黄色の薬液:注入するだけで体が元気になるスゴイお薬。

空腹が限界を超えて胃に穴が空いていて激痛がはしっていようと睡眠不足で頭が割れるほどに痛くても関係なく何日でも仕事が出来るようになる。

なお当然のことではあるが違法薬物ではない(法律が制定されていないから違法もへったくれもない)


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[気になる点] タイトルには四男とありますが、文中は三男となっています。 しかも三男が二人...
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