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ある二夜 似ているようで似ていない2人

~ 40年前 ~


 家族やカップルの幸せそうな声で包まれる青い揺らめく光で照らされた薄暗い空間、そこに少年と少女はマナティーが優々と泳ぐ水槽の前に立っていた。


「本当にいくの?」

「お金は生活できる程度に手に入ったからね、これでトイレの生活からお別れだ」


 暗い表情をする女の子にニヘラと笑ってみせた。


「……」

「日本は良いところだよ……きっと」


 まだ不安なのか「そう、きっと」と声が小さくなる。


「Zはまだ正しい道を歩めるんだから、あげたお金は明るい未来の為に使いなよ?麻薬なんかに手を出しちゃダメだ」


 説得力のある言葉に少女は「う、うん……わかった」と下をうつむいた。


「ここが恋しくなったらいつでも戻って来てね」


 腰とズボンの間にねじ込むように挟んでる、自分の手よりも大きなピストルを細い指先で撫で、「恋しくなる……ねぇ」と呟いた。


 すると「キックキックトントンキックトントン」と少女は少年に抱きつく。消えそうな声だった、少年は黙って頭を撫でると「リッスンリッスントントンキックトントン、私も連れてってくださいな」と震えた声が耳に入ってきた。


 彼女を見たら別れることが出来なくなる、そう思ったのか決して目を会わせようとせず持っていたピストルを渡す。


「強く生きなよ、僕や僕の親父みたいになっちゃダメだからね」


 苦い思い出が脳裏を横切り首にくっきりと残っている首輪の跡を擦る。


「君が居なきゃ私は生きる気がしないよ」

「なら、お互い30歳越えて生活が安定したら……」


ー マナティーがもっとも近く見える場所で会おう ー


・ ・ ・ ・ ・  


「はぁ……」


 あの時のゾンビ女と会ってからというものの、こんな調子でぼんやりしてると忘れかけていた昔の事を知らず知らず思い出していた。誰かが吹く一筋のタバコの煙を見ながら私も口から細いため息をツーと出す。


「どうしたハチ公、お腹へっちまうぞ?商売道具が倒れたら俺は困っちゃうからな!ハッハッハ!」


 まったくこの人は……


「そんなにため息ついてると痩せ細った体が干物みたいになるぞ?」


 だとしたらとっくのとうに干物どころか紙にでもなって風に吹き飛ばされているだろう、私は生まれたときから、ため息で起きて息で寝る生活を繰り返しているのだ。


 頬にケチャップをつけて、犬のようにかぶりつく彼を見ていると何をいっても無駄なような感じがしてまたため息をはいた。


「でも……」


 先輩は口の中の物をコーラで流し込み「お前のため息の原因は分かるぞ」と胸を叩きながらむせる、食べては話して、話しては食べて、食べながら話してと仕事をサボってるぶん食事が忙しそうだ。


「そうですか」

「そうなんです!ため息の原因は、ズバリ待ってる彼女だな?」


 そうだろと摘まむフライドポテトで私の顔を指す、合っているのがきっとマナティー館に居る警備員のおっちゃんも同じことを言うに違いない。


 少しイラッとした私はポテトを摘まみつつ「ワン」と一鳴きしてみせた。


「一途は良いことだがな?ハチ公、諦めるのも大切だぜ?芯かハチ公とはまいったもんだな」


 芯まで犬とはいったいどういう事なのか、ハンバーガーを口いっぱいに頬張りながら、彼の話を聞いていると突然金髪の女性が写っている写真をピラッと見せる。


「可愛いだろ紹介してやろうか?俺が恋のキューピットになっやるよ」


 この人の場合、導くどころか持っている弓で恋を粉砕してきそうだ、キューピットよりも悪魔か死神の方がお似合いだと思う。会話を止めたいため「別に必要ないです」と冷たく腰を折ってみるが。


「強がらなくていい!分かるよ」


 彼は哀れみの表情を浮かべて肩をポスポス叩く、訂正しよう先輩はブレーキが壊れた恋の暴走列車だ


「お兄さんにはよーーーく分かる!55にもなって紹介されるのが辛いんだろう!」


 お兄さん、この人とは1歳差だから大げさすぎる


「さいですか」


 軽い相槌をうつと「そ・う・な・ん・で・す!!」と顔を近づける。もう私はこの暴走列車に西部劇よろしく引きずられる事にした。


 しばらく唾がスプリンクラーの様にかかる距離で写真の彼女を大演説をする彼だが、突然席に腰を掛けて「……と思ったけどお前に人を養う財力はないか」とつまらなそうに残ったコーラを煽りこの話が終わる。


 勝手に暴走して勝手に消える、この人の来世はつむじ風だろう、気がつけば朝食でにぎわっていた店内は先輩声だけが走り回っていた。ガランとする店内、早く出ていけと言わんばかりにこちらを見る店員達、どれだけ長居していたのか分かりドッと疲れを感じるのは私だけだろうか……


 中身の無い話に終止符をうつようにティッシュで口を拭き「ごちそうさま」と立ち上がろうとするとつむじ風先輩は「ちょちょちょ!」っと慌ててパーカーの袖をつかむ。


「次は何ですか?」

「仕事の話だ、昨日いった海外から来た密売人の件」


 それを先に話してほしいもんだ、温まったソファーに再び腰を掛けると、彼は手のひらサイズの小さな写真を1枚出した。その写真にはきっと外国だろう、地面を多い尽くすゴミ溜めの様な道路を歩く彼か彼女の後ろ姿が写っていた。


 急いでとったのか写真が酷くブレていたから分からなかった。


「これは?」

「向こうのお国で撮られた写真だとか、いま本部でこの写真を綺麗にしてるんだ」

「なるほど、でもこの写真だけじゃ探せないんじゃ?」


 すると"待ってました"と言わんばかりに彼はニヤニヤ笑う。これは詳しい情報を知っているらしい、コップの氷が溶けた水を飲むと大げさに周りを見てから低い姿勢で顔を近づける。


「いやな?これ、内緒だぞ?お前を信用してるからな?」


 分かったから早く言ってほしい、わざとらしく咳をしてから「なんと!この人物は四ツ木諸島(ここ)にいまーす」と一言、恐らく今の私は目玉が転がり落ちそうになる程目を開いているだろう。


「ハッハッハ!その反応!良いねぇ」


 いや、笑い事では無いと思うが、まぁ底辺の私達には関係ないから笑い話になるのかもしれないのだろうかあ……


「これは金の臭いがすると思わないか?」


 彼がこう言う時は、裏で既にスキルがそれぞれ片寄った底辺チームと情報屋で動いている時だ。この人の犬である私に拒否権は9割、いや9.9割無いだろう残りの0.1割の拒否権は私が死んだときに違いない。


()()()()出世のチャンスだと思わんか?相棒」


 ()()()()、そうこの常に金のことしか頭にない先輩はこんな事を何度もやり、その度出世どころか勝手に動いた罰で始末書を書かされ成果は上のものになっている。


 "始末書の書きのしまっちゃん"と呼ばれるほどだ。


 私は始末書でできた指のペンだこを見てため息を1つ。


「で?情報は?」

「写真はまだそれだけだが向こうからその人物の特徴を教えてもらったよ」


 殴り書きされたメモを見てみるとこれがまた物語に出てきそうな人物だった。


1、店・公園のいろんなトイレを転々とし麻薬を売りさばいている

2、100の顔をもつ

3、魔女のようなとんがったワシ鼻

4、美人


どれも嘘としか思えない、特に2番なんてもう密売人というより怪盗だし。私が眉間にシワを寄せると

「意味わからないよなぁ」と彼も同じ気持ちらしい。


「100の顔を持つって何ですか?」

「それは麻薬を購入した客を殺してソイツの顔を剥ぎ取ってマスクを作って被ってたらしいよ、顔を隠すためだとか」


 ただの麻薬捜査官が手を出してはいけないのでは?


「大量殺人に麻薬の密売、向こうかは殺してほしいって命令されてるんだよねぇ~」


 ねぇ~って店内の空気が何故か異常に冷たく感じた。これを受けたらもうハンバーガーを食べれなくなるのでは?


「重大任務だぜ?こりゃ心踊るよな!な!」

「今回の件ばかりは危険すぎますよ、ただの密売人ならまだしも大量殺人だなんて」

「出世したくないの?」

「出世どころかあの世に行っちゃいますよ」


 彼は両腕を上げて体を伸ばし「まぁハチ公は俺の犬だから俺がgoと言ったら行かなきゃいけないんだけどな」と意地悪そうにニタァと笑う、もう馴れてるからなにも言わないが、改めて思うと人間の言葉が通じないお犬様は大変なもんだ、私は彼らの懸命な仕事姿が目蓋の裏で微かに見え何度も頷く。


 先輩曰くまだ情報を集めている段階だから怪しい人物がいたらカメラで撮るようにだそうで、「俺はいつもお前を見ているからな」といつもの言葉と共にカメラ付き腕時計を受けとった。


「情報を集める……か」


 いつも通りマナティーがのんびり泳ぐ場所で私は1人懐中時計を見つつ朝のことを考えながらメッキの剥がれた壊れた懐中時計を眺めていた。


「ふふふ……また会いましたね待ちぼうけさん」


 後ろからゾンビな彼女はいつもと変わらずそう言うと二人分離れた所にゆっくり腰を下ろす。


「そうですね、待ちぼうけさん」


 私達はそう言うと、バスを待つかのように目を会わせず前の水槽を眺めた。初めは「貴方はいつから沖縄に来たんですか?」や「マナティーは好きなんですか?」など話しかけていたが、

「ふふふぅ~」とねっとりとした笑い声を出すだけで、彼女なりの返事なのかそうじゃないのかよく分からない返答ばかり返ってくる為話す気がしないのだ。


 管理人のお兄ちゃんも初めは「おい!やったなぁ!カー!泣けてくるねぇ!30年ぶりの再会とか泣けるでオイ!っぱ奇跡ってあるんだな!島の皆呼んで祝いするしかねぇ!」などと1人で祭り騒ぎしていたー 正直わたしも心のなかで盛り上がった ーが、次の日から「まーた変なやつが増えたな、フランケンさぁ、もうあの姉ちゃんにしちゃいなよ、同い年なんだろ?おぉん?」とテンションはいつもの調子に戻り邪魔臭そうに言う。


 Zとは程遠いが、彼女は私と同じ臭いがする同族だと己に言い聞かせ「実は私も海外に住んでいたんですよ」と時計の止まった秒針を見つつ言うと、「ふふふ~」どころか彼女の口からかおるタバコの匂いすら感じない、まぁそうですよね、もう帰ろうと懐中時計の蓋を閉め私が地面から視線を外したときである。


「その懐中時計……」


 彼女はズイッこちらに顔を近づけ手のひらにある時計をじっと見る、こんなに素早く動けるとは思ってもなかった私は驚いて硬直した。


「こっこれがどうかしたんですか?」

「これ……」


 そう言うなり、次は私の目を見る。息のかかる距離でこの人の顔を見て始めて気づいたが、肌が死んでいるというかどこか違和感を感じた。医者じゃないから何処が不自然かとか詳しく言えないがとにかく人形のようだった。パサついた髪の割にはツルンとした肌、そしてなにかを隠すような鼻を撫でる消毒液の様な匂い、見れば見るほど脳裏で先輩のある言葉が蘇る。


― 殺した人間の顔の皮を剥いでマスクを作ってるらしい ー


 だとしたら……頭の中で出世という文字が舞い降り固唾を飲む。


「貴方……顔が違うわねぇ~ふふふ~」


 スススと遠ざかっていく彼女は「何処の国にすんでたのぉ~?」と聞いてくる。


「アイルランドですよ」


 何か変なこと言っただろうか、再びこちらへユラリと来て今度はうなじの部分に鋭いワシ鼻を近づけて匂いを嗅いでくる。


「貴方はあの人と同じ臭いがする……」

「そ、そうですか」


 逃げたいが、もしも本当に死人の顔でマスクを作るサイコパスだったら……そう思うと体が岩のように重たく動かなくなり額から汗が吹き出た。熊と会ったときは死んだふりをしたら良いと言うが、恐らく私の目の前にいる、人の皮を被った何かには通じないだろう。


 しばらく置物の様に固まっていると、彼女は「冗談よぉ~面白い人ねぇ~」と細く笑うが全く冗談に感じず安堵の息を吐いた。


「ねぇ、今夜私と食事しない?」


 冗談じゃない


「どうなの?」


 答えは決まってる、断ろうと口を開けると、突然彼女は首に何周も巻いたマフラーをゆっくり外す、1周、2週……"すみません"と言うだけなのにマフラーというなのベールに隠された部分を見たいと思う好奇心が私の口を塞ぐ。


 とうとうマフラーはイスに落ち彼女の首が露になり断ろうと思った私は何処にいったのか、自然と「喜んで」と口が動く。


「決まりねぇ」


 彼女は首から上と貸すかに覗き見る体の肌の色が違かった。


・ ・ ・ ・ ・


「今襲えば楽に終わりますよ?」

「焦るなよ、いずれヤツは殺される」

「急いで終わらせて、すぐ出世と報酬を受け取った方がいいんじゃ?」

「バーカ、支援金が貰えなくなるだろ、搾り取れるだけとって最後の一滴手のひらに落ちた時、行動開始の合図だ、それまで金を貯めとこう」

「本当にあんたは警察なんですか?詐欺師の方が向いてますよ」

「ハッハッハ!それも悪くないな、ほら無駄話はもう終わりだ、パトロールを再開をするぞ」


 マナティー館の前に停まっていたパトカーは再び走り出すのだった。

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