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第3話:さようなら、イースレット




 夜、自室の中でイースがこれまでにないぐらい真剣な顔をしていた。誰も話しかけることがためらわれるぐらいの真剣な雰囲気。


「ついに来たのね、この時が、思えば長い道のりだったわ、幾多の艱難辛苦を乗り越えて、ようやく、告白の舞台が整ったのよ!」


「カバネ!」


 そのまま立ち上がると両手をバンと広げる。


「これよりオペレーション告白成功率零作戦ヴェルダンディ最終フェーズを開始する! 勝利の時は来た! 手足となって戦ってくれた仲間たちに感謝を! 犠牲になったすべての思いに感謝を! これが運命石シュタインズゲートの扉の選択なのよ!」


「はいはい、まずゲーム画面から視線を外して言いなさい。めっちゃ面白いのは俺も同感だけどさ、それと告白成功率零作戦のルビはヴェルダンディじゃないよ、現在を司る女神の名前だよ」←慣れた


「大体あっているじゃない、それにしてもコレさ、萌えあり、熱さあり、切なさあり、最後は泣いたわ、ぐすっ、でも個人的にアニメ第9話のラストは原作を超えたと思っているの」


「うん、分かったからさ、それにしても金土日全部使って徹夜でゲームしてアニメもぶっ通しって、しかも2周するとか、染まりすぎだろ、お前はここに来た理由忘れすぎじゃね?」


「だって続きが気になってしょうがなかったんだもん!」


「はいはい、目にクマが出来てるから、休んできなさいね」


 その時、ピンポーンとチャイムが鳴った。


「はいはい、でますよー」


 リビングに向かうと、玄関に設置されている液晶画面にパッと出たのは、小学校高学年ぐらいの、賢そうな可愛い女の子だった。


 誰だろう、初めて見る顔だけど……。


「はい、どちらさまですか?」


『突然の訪問失礼いたします、こちらで』


 ガチャンとそのままインターフォンのスイッチを切るいつの間に来ていたイース。


「…………なにすんだよ」


「いえ、貴方を詐欺被害から守ってあげようと思ったの」


「は?」


「ほら、今の子、可愛い子だったでしょ? 私が見るにハニートラップね」


「はにーとらっぷ? 小学校高学年ぐらいだったぞ?」


「なるほど、カバネがロリコンだってことが見破られているのね」


「見破られてねーよ!! 突然何言いだすんだよ!!!」


「となると絶対に宗教かなんかよ! 「貴方を幸せにしてあげます」とかで高いツボを買わせるつもりに違いないわ! こういう手合いは相手しないのが一番よ! まあ、いくらアンタでもそんななのは引っかからないと思うけどね!」


「俺もそう思っていたが、近ごろ不安になってきているところだ」


「あららー、モテない男って本当に哀れね、ひょっとしたら本当かもとか思うんだ、だからこういった悪質商法はなくならないのね、いいカバネ、教えてあげるわ」



「初対面で幸せにしてあげるなんて言ってくる人物は全員詐欺師よ!!」



「ああ、そうだな、そのとおりだよ、つまり俺を詐欺被害から守るとか言いながら、それは真っ赤な嘘で、今玄関の前にいる人物は、お前の知り合いか何かで、会いたくないってことが分かったよ」



「…………ソ、ソンナワケナイジャナイ」


「はーい、いまでまーす」


「ちょっと待って! 多分その子の後ろに見えないところに、男がいるのよ! それで!」


 ガチャリ。


「あああーーー!!!」


 とイースの叫びむなしく、扉が開いた先には、画面で映し出されていたとおり、外見は大体小学校高学年ぐらいの賢そうな可愛い女の子が立っていた。


「突然の訪問失礼します、起会カバネさんでよろしいですか?」


「え? は、はい、そうです」


 その幼い外見から想像外のきちんとした佇まいにハッキリとした言葉に思わずたじろいでしまう。


「初めまして、いつも姉がお世話になっております。アルドベルグ・フォン・ロキアと申します」


 と挨拶するのであった。


「あ、姉って、イース、お前妹がいたんぷぎゅ!」←壁に押し付けられた。


「あー! なーんだ! ロキアだったのね! もう愛するお姉ちゃんに会いたくて来ちゃったのね! 大丈夫! 私も愛しているわ! ささっ! だからアンタ早く帰って勉強しなさい! 今しておかないと後々苦労するのよ! ささ帰りなさい!!」


「…………」


 明らかに動揺しているリースに訝し気な視線を送るロキア。


「姉さん、中に入れてください」


「だだだ駄目よ!! いいいまから、一緒にカバネとお風呂に入るから子供の貴女には早いわ!!」


「おいいいぃぃ!! 嘘にも程があるだろうが!! どんだけ動揺してんだよ!!」


「姉さん」


「ななななに!?」


「ここで私を中に入れるか入れないかの最終判断権は起会さんにあると思いますが」


「!」


 ロキアの言葉にイースはハッとすると、両手を胸元辺りに手をあてると胸を強調しながら潤んだ目で上目遣いで俺を見てきた。


「ようこそ、ロキア、中へどうぞ」


「おいいいぃぃ!! アンタ男としてそれでいいのか!! 草食系男子か!! それともモテない余り自分を誤魔化した草食系男子か!!」


「二択か!」



「はいどうぞ、粗茶ですが」


 とリビングに通して湯呑を差し出すと、「いただきます」と口に付けるロキア。


 ちなみに、ここに座るまでに色々うるさかったイースは、ロキアに床に正座させられて「×」と書かれたマスクを強制装着させられている。


 それをつけさせられて、しっかり黙るところが躾が行き届いていると感じる。上がだらしないと下がしっかりするものなんだなぁ。


「それで、ロキアは姉に会うために来たのか?」


「はい、姉の試験の進捗状況を確認しに来たのです」


「ふむふむ」


「さて、今の姉の反応を見ていくつか確認したいことができました、よろしいですか?」


「どうぞ」


「ありがとうございます、まず姉さんは、学校から課せられた人を幸せにするという課題をクリアするためにここにいる、間違いないですか?」


「間違いないですね」


「その幸せにする対象者が起会カバネさん、これも間違いないですか?」


「間違いないですね」


「姉は、カバネさんが幸せになりたいと拝み倒されてしょうがなく付き合っている、と言っていました、間違いないですか?」


「真っ赤な嘘ですね」


「姉はどういって居ついているのか教えていただけませんか?」


「えーっと、自分は天使学校の首席で、その首席の課題が人を幸せにすることで、その為にここにきた。んで、まあその、俺の片思いを成就させるための協力者兼アドバイザーみたい感じでいる」


 俺の言葉にビクッとイースが震えてそれを冷たく一瞥するロキア。


「……姉さんが、恋愛成就のための、アドバイス?」


 今度はちらっと俺の方を見る。


「もちろん全然役に立ってないぞ」


「やはり、ほら、姉さんは妹ながらに見てくれは良いと思うんですが、中身はアレですから、男子たちは引いてました」


「あー、やっぱり」


 とロキアは今度は正座しているリースのマスクをガボッと取る。


「姉さん、これだけ起会さんに迷惑をかけているんです。他に何か言う事があるんじゃないですか?」


「~♪♫♬」


 とここでもリースは口笛を吹いて誤魔化そうとする、古いな。


「なるほど、わかりました、さて起会さん、実は姉さんがここにいる理由なんですが、学校の卒業課題なのは嘘ではありませんが、完全な自業自得なんですよ」


「自業自得?」


「ちょ! ちょっと!!」


 と切り出したところで跳ね上がるリース。


「実はですね、姉さんは」


「ロキア、だめーーー!!」


 という悲鳴に関わらずロキアが告げた。



「姉さんは首席ではなくて、ドベなんです、しかも追試に落ちまくってしまい、このまま卒業できずに落第天使になるから、先生が温情に温情を重ねた上で卒業条件として1人の人間を幸せにすることを達成できれば卒業させる、という流れになったんですよ」



 ロキアから告げられた真実にシンと静まり返るリビング。


 その床で四つん這いで項垂れるリース。


「ごめんなさい、カバネ、私、嘘ついていた、実は、首席じゃないの、ドベだったの、落ちこぼれだったのよ、ぐすっ」


「ふーん」


「あれー!? 驚かないの!?」


「まあ首席なんて絶対に嘘だろって思ってたし、お前が首席って、天使ってどれだけレベル低いんだよって思ってたから逆に今の説明聞いて全部納得した」


「流石天使に選ばし者!! どうロキア!? これが私たちの絆なのよ!!」


「(無視)というか、ロキア、その課題について聞きたいことがあるんだけど」


「なんでしょう?」


「さっき温情に温情を重ねたとか言っていたけど、幸せって難しくないか? 俺の恋だって成就するなんて分からないし、って自分で言ってあれだけどさ、んで、具体的に幸せになったってのは、どういう状態のことを言えばいいのか全然分からんのだが」


「ああ、それですか、それは」


 とロキアは持ってきたカバンから、1枚の書類を取り出した。


「こちらの書類にサインをお願いします」


「サインでいいの!? いきなりお役所染みてきたな!!」


「まあ、天界もこっちと同じく学校は役所なんですよ」


「そうなんだ、だから書類なのね、まあいいや、ちょっと拝見」


 とお役所の書類というか色々と面倒なものなのかと思いきや、たった一行だけ。「貴方は幸せになりましたか?」というシンプルなものだった。


「ずいぶんとシンプルな……、まあ分かりやすいのはいいことだと思うけど」


「まあカバネさんが言ったとおり元々幸せの定義って人それぞれですからね」


「なるほどな、ってサインすれば課題達成って確かに難易度は……低いのか? これでいいのか天使学校、あ、そうだ、ロキア、サインするのは普通にペンでいいのか? 血とかだったら嫌なんだが……」


 という俺の質問に目を見開くロキア。


「……別に普通のペンで大丈夫ですが、それよりも、サイン、してくれるんですか?」


「ああ、するけど、な、なんかサインすると、変なことが起きるのか?」


「いいえ、これは正真正銘ただの書類です、あっさりとしてくれるのが意外だっただけです」


「そうか?」


「いきなり押しかけて幸せにするとか言った挙句に、肝心要の恋愛について全く役に立たなかったのに、不思議だなと」


「そう聞くと確かに、うーーん、なんかサインするのがもったいなくなってきたぞ」


 とジト目でリースを見る。


「やだ、サインする代わりに胸揉ませろとか言うんでしょ。まじキモい」


「じゃお疲れ~」


「うそようそ! カッコ良くて性格までいいなんて♪ 私惚れちゃうわ♪」


「(無視)さらさらり~と、はい、これでいいんだろ?」


「確かに、これで姉さんは無事卒業できます、姉さん、お礼を」


「ありがとうございました!」


「どっちが姉なんだか、まあいいや、じゃあ早く書類出してきなよ、ロキアが来たのも課題の締め切りが迫っているって理由もあるんだろ?」


「……そこまで分かるんですか?」


「最初からリースが焦っている感じがずっとあったからな」


「ともあれ、妹として姉が落第するのは嫌だったので、助かったのは事実です、私からもお礼申し上げます」


「あ、ああ、どうも」


「このお礼はいずれ別の形で、姉さん、戻りましょう、提出は一日でも早い方がいいですから」


「今日は面倒だなぁ、明日じゃダメ?」


「そうやって先延ばしにするから今の状況が生まれたんでしょう? 私が付いてきてあげますから」


「はぁーい」


(本当にどっちが姉なんだか……)


 とイースはパッパとスカートを手で払って立ち上がって、俺の部屋に向かおうとした時だった。



「あのさ、私との生活って、そんなに嫌だったの?」



 突然、凄い真面目な顔をして聞いてきた。


 一瞬いつものネタかなと思ったが、この顔を見る限りマジっぽい。


「ふーん、適当いい加減のお前がそんなことを気にするとはね~」


「……カバネ」


「悪い、冗談だよ、あのな、嫌だったら付き合いの形でもサインなんてするかよ。お前との関係を終わらせたくて書いたんじゃねえよ。卒業したから来れないってわけじゃないんだろ?」


「でも、当分会えない」


「当分ってのは、どれぐらいだ?」


「わからない」


「ってことは、ずっとってわけじゃない、だったら、また遊びに来ればいいじゃん、「友達」ってのは、そういうもんだろ?」


「……カッコつけちゃって、分かった、今度はちゃんと約束してここに来るよ」


「ああ、元気でな」


「……うん」


「…………」


なんだろう、気のせいかもしれないが、イースが、何となく、なんとなくだけど寂しそうに見えてしまったので。


「すぐに会えるような気がするからだよ! 寂しくないのは!」


「え?」


 突然の俺の言葉にキョトンとしたイースだったが、すぐににっこりと笑った。


「それは私も一緒だよ、じゃあね、カバネ」


 笑顔で売買と手を振って、バタンと、すぐに押し入れの扉が開く音がして、すぐに閉まる音がした。


そのまま静かになって、少しした後に、自室に戻ると。


 当たり前のようにそこには誰もいない。


「…………」


わかっているのに押し入れをガラッと開いても中には普通の押入れだった。


 その時に計ったかのようにぐうと腹の虫が鳴った。


「あ……」


 そういえば、今日から飯はコンビニ弁当に戻るのか。あの堕天使、料理だけは一級品だったからな。色々と作ってくれていたから何食べようかなんて、しばらく考えていなかったっけ。



「イース、きみがかえったら、へやががらんとしちゃったよ。なーんてな」



 誰に言うまでもない独り言、何となくお気に入りの屋上で空を眺めたくなった俺は、屋上に行って空を眺めながら物思いにふけって、気が付いたら結構な時間がたっていた。


そんな自分に苦笑しながらコンビニに向かったのであった。











 とコンビニから帰ったら玄関前で泣いているリースを慰めているロキアの姿があったのであった。





「結論から言うと、卒業は許可されました。姉さんはこの世界で言うと中学校を卒業したんです」


 再びリビング、泣きべそをかいている姉を横にお茶を飲みながら話すロキア。


「それで問題なのが高校入試についてなんですが、姉さん試験日を勘違いしていたみたいで、とっくに終わってたんですよ」


「…………続けて」


「んで、このままだと無職になるので、高校の先生方が温情に温情を重ねた結果、先に補欠合格という結論を持ってきて、補欠合格者のための課題をクリアすれば正式合格とする、という話になったんです」


「なるほどね、しかし天界でも先生ってのは大変な職業なのね、んでその話を受けてここに来たってことね?」


「はい」


「りょーかい、ほれイース、サインしてやるから泣きやめよ、ロキア、書類ちょうだい」


 と手を出すが、ロキアはなぜか渋っている。


「ん? どうしたの?」


「起会さん、人間界では高校とは原則中学の履修は終えている、という前提で授業を進めますよね?」


「…………それで?」


「当然のことながら、課題は難易度もアップするんですよ、具体的にいうと課題選定についても条件が設けられました」


「…………結論を」



「課題には必ず選定対象者の相手方がいるようにするということ、そしてこの書類のサインを「選定対象者の相手方にサインしてもらう」という内容になったのです」



「…………」


 つまり不正を許容する課題から、不正があることを前提してその防護策がとられた課題へとレベルアップしている。


「課題は相手方のいる内容にする、という条件が付加された、間違いないな?」


「はい」


「ってことは、その内容ってまさか……」


「はい、お察しのとおり、カバネさんの恋愛成就です」


「な、なんで? 確かに課題のレベルは上がったが、そのルールにちゃんと対応した内容にすればよかったじゃないか? 俺に関することでも恋愛成就だけが幸せとは限らないだろ? そもそも俺と一緒に考えればよかったのでは?」


「姉さんは私に調子のいいことを言っていたように、学校側にも同じように「順調も順調、もうほぼ両想いと言っても過言ではない状態です♪」と報告していたらしく、実際に起会さんのサインを見て「それなら簡単だからそれにしようね」って流れで」


「圧倒的自業自得っっ! ってちょっと待ったこの課題って……」


 そう、この課題内容となると、この書類にサインする人物は神上ということになる。


 んで仮に今、成就していない状態で神上にこの書類を渡してサインなんて求めれば間違いなく宗教を疑われるから当然のごとく却下だ。


 だがこの課題の肝はここではない。


 これは神上と両想いになったとしてもそれで終わりではないという点だ。


これは逆の立場になって考えてみればわかる。恋人から突然こんな書類渡されて、サインしてほしいとか言われたら間違いなく宗教を疑われて、下手すると成就した両想いという関係までもが御破算になりかねないからだ。


 つまり、最初から相手もこの天界の活動そのものに巻き込む前提で作られている。


天界の事情を知ったうえでこの書類にサインするほどの信用を得ているのなら、確かにクリアしたと言っていいのだろう。


 圧倒的悪魔的所業、天使だけども。


「…………」


 考えろ、ルールってのは「いかに破るか」ではなく「いかに守るか」だ。


「そうだロキア! こういった漠然とした内容の場合は、融通を利かせる仕組みになっていないと成り立たなくなる筈、つまり課題内容の変更の決まりごとがあるはずだ! 違うか?」


「はい、お察しのとおり変更可能です」


「よっしゃ! ロキア、ここは発想を転換させよう! 今までの話も含めて、選定の仕方を見ると教育機関の課題なだけあって、結果よりも過程の方が重視されている感じだ。だからそれを利用して選定対象者と俺にして、相手方をロキアにする」


「私ですか?」


「そうだ。俺はロキアのそうだな、手料理が食べたいってことにして、イースの指示によりロキアが料理を作って俺が食べる。そしてサインをロキアにするという形で、決着をつけるのはどうだろう? 妹と友達の幸せだ、これならルールに反しないのと教育的観点からの両方で建前が成立するだろ? どうだ?」


 俺の熱弁に残念そうに首を振るロキア。


「確かに天使の課題は、内容変更は先生と相談すれば許可されます。そしてカバネさんの提案も多少強引ですが、通すことはできるかと思います。ただ問題なのは姉さんはすでに「補欠合格」という結果が先に与えられている状態だということです。故に課題の失敗は補欠合格の取り消しを意味するのですよ」


「そんなぁ」


「まあでも、1人でやるよりかは2人だと思いますよ」


「ちがーう、この課題ってのはね、俺とイースの立場が逆になってるってところがミソなんだよ」


「え?」


「協力しないと状況が悪化するってこと。イース側は課題が選定されている以上「俺の承諾の有無に関わらず俺の恋愛成就について動かなければいけない」ってことになるわけだからな」


「…………」


 俺の言葉を受けてジーッとロキアが何とも言えない表情で見てくる。


「ど、どうしたの?」


「いえ、先ほどから思っていたのですが、姉さんが言うのと違って、色々と頭の切れる方だなと」


「って普段俺をどんな風に、いや、言わなくていい。それにしても……」


 先ほどから半べそ状態のイースに話しかける。


「なんでお前はそこまで泣いてんだ?」


「だって、だって」



「クラス一の美男子がライバルって勝てるわけないじゃん!! どう考えてもアンタよりイケメンの方がお似合いのカップルじゃない!!」



「お前ぶっ飛ばすぞ、本当に」


「まあまあ、起会さん、それと私も今後お世話になりますので、よろしくお願いします」


「え!? なんで!?」


「さっきのカバネさんのようにルールを利用するというのは私も考えていたのです。故に姉さんを助ける形で同じ内容を選定したんですよ」


「したんですよって、悪いが君はまだ……」


「いいえ、私ならば課題に対してのお力になれると思いますよ」


「え? どういう」


 と言い終わらない間にすっと封書を4通机の上に並べる。


「…………」


 この封書に描かれた文字は手書きでロキア宛なのはわかったけど。この文字、こう、表現が難しいが、「精一杯な感情」をどことなく感じる、これは、まさか……。


「お察しのとおり、ラブレターです、中身はご容赦を、相手方に申し訳ないので」


「ラブレター、しかも4通、す、すご」


「ちなみにこれは一部です」


「一部!?」


「私は恋愛には全く興味が無いので、全部断ったのですが、実際はこれを含めて去年だけで10人ほどに告白されています」


「…………」


 絶句するほかない、確かに小学生でも高学年になれば惚れた腫れたのはある、だけど、これは……。


 まさに正真正銘のモテ女、横で泣いている堕天使とは違うのだ。


 小学生に恋愛指南を頼むのはちょっとプライドが傷つくがライバルが来栖である以上そうも言ってられない。


「分かった、頼りにしてるぜ! 早速でなんだが、まず俺のことよりも「女が男にモテるための秘訣」を知りたいから教えてくれ、何かヒントになりそうな気がする」


男女の違いはあれど、異性を引き付けることに変わりはないのだろう。だがその点において男女で違うところと同じところがあるのだと考える。だからそういうアプローチ方法での女心の勉強をしてみたいのだ。


「はい、ちょっとお待ちください」


 とスマホを取り出すと操作する。


「えーっと「喪女必見! 男にモテモテ♪ モテ女にへ~んしんっ!」というサイトによれば「ハンドクリーム付けすぎちゃったから分けてあげる~」と言いながら意中の男の手を握る、というのが悪魔的モテ術として書かれていますね」


「いやいやいやいや、ネットの情報が知りたいんじゃなくて、ってホント怖いなそれ! じゃなくて! ロキアが実践しているモテ術を聞きたいのだが」


「? 特に何もしていませんよ? 私自身不思議なぐらいですから」


「なら何でさっき自信満々だったんだよ」


「これを実践すればモテるんでしょう? ならば難易度は高くないかと」


「…………」


 なるほど、つまり、この子は天然なのね、そうだよね、小学生だもんね。


 つまりこの優秀な天然ポンコツ妹の課題達成とやらも俺の双肩にかかってきたということか、なんだろう、こう女子への片思いって両想いになるか振られるか諦めるかの三択じゃなかったっけ。


「そうだ、カバネさん、こういう時って、アレはないんですか?」


「アレ?」


「私達みたいな美人姉妹に囲まれて、僕どうなっちゃうの~ってヤツです、起会さんはそういった展開が大好きで、将来は美少女に囲まれて4股5股かけるのが夢だと姉さんが常々」


「……まずそういうところから教えていこうか、それと自分で美少女とか君も結構図々しいね」


:おしまい:




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