表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/31

第24話 シエルダル星域の攻防戦 4

 第五艦隊レムルス伯爵夫人ベリア・エルダ提督は、シエルダル緩衝星域に自軍の艦隊が集結しつつあるのを見守っていた。

 当該星域にて援軍に入るのが妥当と判断し、小ワープを繰り返し、急ぐ。

 何度目かのワープのあと、目標星域に到達したとたん、第五艦隊を太い光槍の束が襲った。

 ファランクス・バースター砲の斉射である。

 前衛の数隻の高速攻撃艦が犠牲になり、レムルス伯爵夫人ベリア・エルダ提督は、艦隊の進軍を止めた。

 敵の本隊は、全面のファーマムール王国軍の本隊の壁ではなく、潜伏していたはずの第五艦隊にまともに撃ってきたのである。

「どうして。

 私がこちらから来るのを、知っていたとでも」

 ベリアは思わず口にした。


 アギール軍ルーデージ候爵バレルは急襲してきた第五艦隊の行動を事前に察知していた。

 実のところ、第五艦隊が通ったワープホールは、宇宙海賊や密輸業者には密かに知られていたルートだったからである。

 もちろん、アギール族も、エストリダ緩衝域周辺の現在の居住地からファーマムール王国内への監視のつかないルートとして重宝している。

 このため、不測の事態に備えて、出口星域に見張りを立てていた。

 前面では軽編成高速艦隊同士の派手な乱戦が展開されていたが、その向こうの敵本隊に対する攻撃のタイミングを計っていた。

「強行突入できない事はないが、どうしたものかね」

 バレルは、背後にいた弟、ロアイユに訊いた。

「まあ、無理すれば行けないこともないけどな」

 弟は応えた。

 兄は艦隊の作戦運用を、弟は艦船の経済的運用をそれぞれ担当する。どちらも二十代半ばである。

「先鋭艦隊はどっちにしろもう下がらせたほうがよくないか。

 これ以上損害喰らうと、商船警護の受託先の契約に違反しちまう」

 損失概算の金額が表示されているモニターを睨みながら続ける。

「やっぱり無理か」

 兄はまた問う。

「あのワープホールが開いていることがバレてるって事は、騎士団も直接ここまで来れるって事だよね」

 弟は、別の運用表を入力しながら云った。

「つまり、帰れと云ってるわけだ」

 兄が言った。

「そうだよ。

 そっちの方から来た艦隊は、五連編成の完全装備。

 ワープホールは川の流れのように一方通行だから、こっちからあっちに攻め込めるわけじゃないしね。

 出鼻挫いたから、止まっているうちに引っ込むべきだろう。

 正規軍とちがって、俺たち、艦船は各船主の個人所有だから、損害が大きくなると、組合でプール金を保証金として拠出しなきゃならないが、それには限度がな。

 ファーマムール王国にとっつかまっているせいで本来の護衛船団での収入が減益なのに、これ以上どっから金持ってくる。艦隊編成に編入されている間は、保険が利かないんだ。

 銀行も、一旦利子全納しないと、もう金貸してくれないぞ」

 モニターに一気に、今回の艦隊行動で契約を一旦打ち切った仕事の一覧が流れる。

「あと、高速艦五隻ダメにされたら、今期は赤字だ」

「そんなに酷いのか」

「普通に国に雇われていたら、それなりの報酬もあるが、サラディン殿下はトランザール大公の身の代の代価として、俺たちに献身を求めているわけだ。最低限の実費、燃料代程度の額しか出さないよ」

「つくづく非道い男だな」

「だから、大気変成弾なんか平気で使うんだよ。

 これ以上、俺たちが頑張る意味があると思うかい、兄さん。

 ま、あと二、三発、ファランクスを斉射して、そのデータを持って行ったら、帝国工廠がいくらか修理代は割り引いてくれると思うけどね。

 それにしても、損益が出ていることを知らなかったの、兄さん」

「久々に艦隊指揮任されて、すっかり舞い上がっていたよ。

 しかも、今回はオヤジの監視もなかったし」

「だめだよ、兄さん。もっとしっかりしないと。

 次期族長には絶対選出されないよ、このままじゃ」

 弟はため息をつき、父親に撤退の許可を願うメールを打った。

 周囲の相談役の年寄り連中は、ほのぼのと二人を見守っている。

 ルーディージ候爵バレルは、先鋭部隊を後退させ、威嚇のためにファランクス・バースター砲を前面と側面、二方面に斉射した。


 一方、ラーフェドラス王国軍は、第二、第四艦隊が合流し、三個艦隊による防衛壁陣形が完成した。

 その前面に、体勢を立て直した第七艦隊と、第二、第十一軽編成艦隊が展開する。

 理想的な陣形のうえに、敵の側壁に第五艦隊が迫っている。

 総戦力二十万を越える理想的な状況である。

 当該星域の全艦隊の総指揮権は、集結した全艦隊の提督のうち、階級が最も上位のロルム・サリュー提督に委ねられた。

 第三艦隊のロルム・サリュー提督は、相手の進出が止み、先鋭艦隊が後退したのを見極め、全軍をファランクス・バースター砲の射程範囲の外まで後退させ、攻撃中止の命令を下した。

 数の上では充分すぎる内容であり、今やるべき事は、この場所を守ることである。

 敵を殲滅する事ではない。

 あくまで、傭兵艦隊相手である。経済的損失の大きい戦闘はしない。

 そのまま、二時間ほど対峙した後、アギール艦隊は、ラーフェドラス王国軍に対して、通信回線を開くよう申し入れた。

 ファーマムール王国との契約の打ち切りにつき、当艦隊は撤収するというものだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ