走り終われば。―雪乃
私がいち早く走り終わってゴールのとこで待っていると、ちらほらとゴールする人が現れる。
「くぁ〜………………久々に疲れた………………」
「雪乃っちゃーん、いきなり走らせないでよー。」
「ハッハッハッハ!!、これで、へばるとか、みんな、鍛え方が、足りねぇ、ぞっ!!」
「そういう黒木先輩も足ガクガクじゃないですか………………」
そんな話をしているうちに、いつの間にか追い抜いていた陸上部が死にそうな顔で戻ってくる。………………あ、長木屋さんが走って………………いや、這ってくる。
「白峰、さんっ………………うちの部員をっ、殺す気かっ………………!!」
「………………………………え、10kmって長距離で普通に走らない?」
「走るけどっ!!………………あんなペース無視の走りを横でされると、こっちまでおかしくなっちゃうって………………………………現に『本職であるうちらを追い抜くとか許せん』って突撃かましたのが何人いたことか………………………………」
長木屋さんが頭を抱える。
「………………………………いや、並走?してる相手にペース粉々にされるあたり、まだそっちが未熟ってことなんじゃ………………」
「うぐぐ………………………………と、とにかくっ!!脱落してたそっちのメンバーは志乃先輩達が拾ってたから、心配しなくてもいい………………」
「志乃?志乃がいるのか?」
「黒木先輩落ち着いてください。あと、元クラスメート兼ライバル見つけたからって勝負挑みに行かないでください。」
………………………………この人は、良くも悪くも脳みそまで筋肉になっちゃってることなんだよね。だから練習中でも自分より早そうなのを見るとすぐ追いかけに行くし………………………………。
「………………………………ところで文化、みんな集まったかしら?」
「あー、うん………………最初13人居たけど『基礎訓練』で10人落ちた。」
「ほぼ全滅じゃないの。」
「いや雪乃………………初日からこんなんやらせる方がどうかと思うって。」
「篩には丁度いいと思ったんだけど………………………………」
「必要な分すらふるい落としてるよなこれ!?」
「………………それで?残った3人は?」
「ん、ああ。それならそこに。」
言われた方を見れば、今にも死にそうな顔してへたばってるのが3人。ちなみにあの茶髪ちゃんは居なかった。
「とりあえず、ほぼ全員回収して貰えたみたいね。それじゃあ20分の休息のあと、体育館で新入生達の実力の程を見せてもらおうかしら。」
「それは必要ねぇ………………」
その声に振り向くと、あの茶髪の子が今にも死にそうになりながらフィニッシュする。
「お帰り。陸上部に助けてもらわなかったの?」
「だ、誰が……………… 」
「あ、その子5km地点でひっくり返ってたよ。」
「おいっ!!」
陸上部の子がこっそり教えてくれる。………………………………ふぅん、半分、ね。
「………………新入生、立てないならそのままでいいから聞いて。………………フィニッシュできなかった人、できた人それぞれ居ると思うけど、とりあえずここにいる人はみんな合格にしようと思う。………………この10km走は、本来は休みの、それも長期休みの合宿の時にやるメニューなの。今回それをやらせたのは、あなた達の覚悟を見るため。遊び半分で入られても困るし、それにうちに入る以上はそれなりの実力をつけて欲しいってのが私の思いなの。………………うちの部はね、毎年部長が『その年最強の6人』+交代要員を揃えて県を制覇して全国に挑むのが慣習なの。だから、場合によってはこの中から全国メンバーを出すことになるかもしれない。………………その時のために、少しでも骨のある子が欲しいの。冷酷かもしれないけど、分かって。………………………………そうそう、この後2時から本格的な練習を始めるんだけど………………………………立てない人は無理せず今日は休んで。まだ体力に余裕がある人だけ体育館に来て。………………………………最後に、いきなりこんなことに付き合わせてごめん。」
軽く頭を下げると、文化の肩を叩いて一緒に歩いていく。………………………………ちょ、ちょっと無理したかも………………
「まーったく雪乃ってば。」
「………………しょうがないでしょ。こうするしかなかったし。」
「………………………………後で餡蜜おごってよ、それでチャラにする。あと、雪乃、柔らかくなったな。」
「わ、分かった………………。それに………………私が変わったように見えたなら、それは間違いよ。私はいつもブレない………………はずだもの。」
「ふぅん………………?ま、そういうことにしとくよ。」
文化はそれで話を打ち切ったかと思えば、
「おーい部員!!雪乃が後で餡蜜奢ってくれるってさ!!陸上部の皆さんもどうすか?」
「ちょっと文化!?」
「「「ごちそうさまでーす!!」」」
………………私は、お財布の中の一万円札が飛んでいく光景が頭の中に見えた………………。