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チェンジ。―月夜

話が飛びますよっと

………………うぅ、とうとう日曜日になっちゃった………………す、墨森先輩、まだかなぁ………………

トントンと靴を鳴らして、そわそわする気持ちを外に出す。………………結局、その後は墨森先輩と顔を合わせることは無くて、ここでの待ち合わせも白峰先輩経由での連絡だった。

(………………そ、それにしても………………お2人のお買い物にご一緒って………………お、お金大丈夫かなぁ………………)

ひとまず机の奥底に隠しておいたお年玉の残りを全部財布に突っ込んで、それでも不安だったんで水鳥ちゃんと亜遊夢から巻きあげ………………ゴホン、借りて、多少の出費ならなんとかなるように準備を整えた。

(………………でもなぁ、この服………………大丈夫かなぁ………………)

数少ない私服の中から、一番真新しいのを引っ張り出して袖を通した。けど、どこかもさっとした感じは抜けきらなくて、

「………………はぁ。」

………………やっぱ服にもお金かけなきゃダメかぁ………………着られればそれでいいってのは、通用しないんだなぁ………………

「あ、月夜ちゃんもう来てるじゃん………………おーい、待たせたねっ」

柱に寄りかかると、すぐに墨森先輩達が降りてきた。

「ああいえっ!? こっちも、今来たところなんでっ。」

ウソ。前の日からそわそわして寝られなくて、30分も前からずっと待ってた。

「ほんとにぃ? その割には寒そうだけど。」

と、私のほっぺたに墨森先輩が手を当てる。

「ひゃっ!?」

「………………ほら、冷たいじゃん。ダメだよ? そわそわしてるからって嘘ついちゃ。」

「………………あぅぅ、す、すいません………………」

「ん、分かればよし。」

………………ば、バレちゃった………………それに、頭まで撫でられて………………あぅぅ………………

「………………望乃夏、うちの後輩をいじるのはそれぐらいにして………………あら? 灰谷さん、その服は………………」

「………………………………や、やっぱ気になります………………? へ、変ですよね………………やっぱ………………」

じ、ジーパンにトレーナーじゃあやっぱりダサいかぁ………………白峰先輩はカジュアルなトレーナーに足首までのロングスカート、対する墨森先輩はと言えば………………黒のワイシャツにこれまた黒のスリムなパンツで、ほんとにスタイリッシュと言うか………………

「あれ? 望乃夏、ネクタイはしないの?」

「これでいいの。面倒だし。」

「そう………………なら、いいけど。」

そう言うと、白峰先輩は予定を確かめるらしく、携帯を手に何かを調べ始める。

「もー、雪乃ぉ、向こうついてから考えればいいじゃん。………………お、月夜ちゃん、その格好………………」

「や、やっぱ変ですか………………?」

「いや、変じゃないけど………………うーん、なんて言えばいいんだろ………………何かが足らないような………………」

「そ、そう、ですか………………?」

………………いいなぁ、墨森先輩は、こんなスタイリッシュ? な服を着られて………………

「………………あ、雪乃にはナイショだけど………………実はボク、ネクタイの結び方知らないんだ。」

そっと耳打ちすると、墨森先輩は白峰先輩のところに行って何かを話し込む。………………や、やっぱり私の服装がおかしいから、笑われてるのかな………………中学の時からずっとこんな感じなんだけど………………あ、戻ってきた。

「お待たせ。さ、行こっか。」

「えと、最初はどこに………………?」

「最初はね………………予定を変えて、洋服屋さんかな。」

「ふ、服屋っ!? あ、あの、それはもしかして………………」

「ああっ勘違いしないでっ!? 別に月夜ちゃんのせいじゃないから………………………………もうそろそろ夏物だし、春物が安くなるから今のうちに買っとこうと思って。」

「そ、そうなんですか………………」

ほっとするのと同時に、次までにオシャレの研究をしておこうと心に決めた。

「何してるの、置いてくわよ?」

白峰先輩の声につられて、私たちもバスへと乗り込んだ。



「ふぅ、着いたね。」

墨森先輩に続いてバスを降りた後も、私はなんだか落ち着かなかった。服もそうだけど、実は………………

「………………どうしたの月夜ちゃん、バスに酔った?」

「………………そ、それもあるんですけど………………………………ここ、地元なんです………………なので、知り合いに出くわすとなんだか気まずいというか………………」

「あら、そんなの気にする必要ないわよ。もし何か言われたら、私が出てくもの。」

「それが一番問題なんだって………………ふふっ、それならさ、月夜ちゃんが月夜ちゃんだってバレなきゃいいんだよね?」

「………………えと、それはどういう………………って、ちょっ、私をどこにっ!?」

墨森先輩に手を引っ張られて入った先は、カジュアルな洋服売り場で。

「………………さてと。雪乃、準備はいい? 」

「もちろんよ。………………去年の望乃夏みたいに、きれいさっぱり別人にしてあげるんだから。」

「雪乃、その言い方だとなんか怖いよ………………と、言うわけで月夜ちゃん。キミには今から、私たちの着せ替え人形になってもらうからね?」

「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!?」

後ずさりするのが精一杯で、そのまま手を取ってフィッティングブースに連れ込まれる。

「はいごめんねー。」

「っ!?」

個室に入った途端、トレーナーを脱がされて持ってかれる。

「………………ごめんね、逃げないように、保険。」

「に、逃げませんよっ!?」

「………………ふーん、」

入れ替わりに白峰先輩が私の胸をじーっと見つめる。………………あっ、マズい………………うっかり今日はジュニアブラだった………………

「そんなに怯えなくていいから。………………体系的には望乃夏と同じね、そのまま待ってなさい。」

シャッとカーテンが閉められたあと、私はブースの中で呆然とする。

………………わ、私、どうなっちゃうのっ!?




「うん、よく似合ってるよ。」

「ホントね。さっきとは大違い。」

「あぅぅぅ………………な、なんだか恥ずかしいです………………み、短くて………………」

スカートの裾を思いっきり引っ張りたくなる衝動に駆られて、まだ売り物だということを思いだして思いとどまる。………………こ、こんなの恥ずかしいってぇ………………

「ほらほら、ちゃんとしてっ。」

「そ、そう言われてもぉ………………」

グレーのTシャツに黒系のジャケット、そして下はといえば………………ちょこっとしゃがめばギリギリ見えちゃいそうな長さの黒のミニスカート。なんだか白のフリルまで付いてるしぃ………………

「ほんと、足が長いっていいわね。とりあえずタイツとかも買ったほうがいいと思うけど………………」

「………………せ、折角選んでもらったのはいいんですけど、私そんなにお金が………………」

「あー大丈夫大丈夫。………………それは、月夜ちゃんへのプレゼント。」

「………………へ?」

こ、こんな高そうなのを………………?

「この一週間見させてもらったけど、よく他の一年生達………………あ、あのお猿さんは別よ? まとめてくれてるし、それにオシャレとは無縁そうだったから………………つい、去年の望乃夏を思い出しちゃって。」

「ちょっと、それは言わない約束でしょぉ!?」

目の前でやいのやいの始まるけど、そんなことはどうだって良くて、

「………………………………ありがとう、ございます………………大切にしますっ!!」

なんだか熱いものがこみ上げてきて、ぎゅっと手のひらを握りしめた。

「………………おっと、これで終わりじゃないからね?」

「………………へ?」


「………………はい、終わり。」

「………………え、こ、これが私………………?」

お会計を済ませると、私はお二人にトイレに連れ込まれて………………適当に結んでた髪を解いて、望乃夏先輩と同じように高めの位置で結び直される。

「ふふっ、なんだか望乃夏の妹みたいね。」

「私が、墨森先輩の………………」

白峰先輩の言葉に、鏡をもう一度のぞく。そこには、私の知らない私がいた。

「………………いい感じだね。それじゃ、買い物の続きと行こっか。」

「………………はいっ!!」

なんだかうきうきする気持ちを抱えてトイレを出ようとすると、入ってくる人達とすれ違って………………思わず身を固くする。 その人たちは私の顔をチラッと一目見ただけで、洗面台の前に立ったり、個室に入ったりとガヤガヤし始める。

「………………どうしたの?」

トイレの外で墨森先輩が心配そうに私の顔をのぞき込む。

「………………………………うちの中学のバレー部の後輩達なんですけど………………私のこと、全然気づかなかったですね………………白峰先輩のことも。」

「案外そんなものよ。………………どう? これで自信ついた?」

「はいっ、なんとなくは。」

いつになく前向きな気持ちで、次の一歩を踏み出した。

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