どうして。―亜遊夢
………………どうして、こんなことに………………あたし――瀬良 亜遊夢は、浴槽の中で自問自答していた。白峰とかいう先輩に無理やりきついメニューでしごかれて、くたくたになったから風呂に入ろうと思って降りてきたら………………また白峰の野郎と顔を合わせるし、ついでに無理やり連れてかれて同じとこに座らせられるし、なんだか長い説教までセットで聞かされるし………………何なんだよ今日はもう………………
「………………で、こうなのよ。………………って、聞いてるの!?」
「………………へいへい。」
「あんたね………………まぁいいわ。 とりあえずあんたの所属とポジションだけ聞かせて。」
「………………スーパーエース、所属は1-3。」
「………………ふぅん。『自称』スーパーエースね。」
「なっ!?」
思わず立ち上がると、それ見たことかと冷たい視線を向けられる。
「ほら、すぐ激昴する。そんなブレブレのスーパーエースがどこにいるのよ。」
「ぐぬっ………………」
………………確かに、ちょっとしたことでカッとなるのはあたしの悪い癖。こいつのせいでここ一番は外すことの方が多くて、それを見越してベンチに下げられたことだって両手に余る。
「………………あんた、他のポジションは出来ないの?」
「………………ここ数年まともにやってない。………………そもそも、半年前には『追い出されてた』からな。」
忘れもしない、五月の末。気の弱そうな下級生を小突きながら部室に行くと、私のロッカーのネームプレートはバキバキになっていて。荷物は乱雑にまとめられていて、誰の仕業かは知らないけどとっちめてやろう、とキレていつものように練習場に足を踏み入れると………………総出で追い返されて。後で分かったことだけど、全員の連名であたしの退部の請願が上がっていたらしい。
………………無論、暴れた。なんであたしが排斥されなきゃいけないのかなんて、分かるわけもなくて。当時の部長には詰め寄ったあげくにケガさせて、しばらくの間大アザとお友達になってもらった。………………その後、髪を染めて繁華街をぶらついては、時たま下級生をこき使って………………『処分』するように、この星花に押し込まれた。
「………………なるほど。好き勝手やってたらいつの間にか追い出されたはぐれボスザルね。」
「………………サルはやめろっての。」
「あら、あんたなんか茶髪だし猿で十分よ。」
「………………ちっ、まぁいいわ。………………んで? あたしを灰谷から隔離して、ここに連れ込んだ理由はなんだよ。」
「先輩には言葉遣いに気をつけなさい。………………それだけのことよ。」
「はあっ!?」
なにそれアホらしっ。
「はいはい分かりましたよっと、これでいいですかせんぱ~い?」
「本気で殴り倒すわよ? ………………まぁ、それはもののついでのお小言。本題はこれからよ。」
「あんだよ、勿体ぶらずにさっさと言えや。」
「………………言葉遣い」
「………………なんですか勿体ぶらずにおしえてくださいませっ!!」
「………………まぁいいわ。なら………………………………明日から、あなたは私と帯同して別メニューで鍛え上げるから、そのつもりで。」
「………………は?」
え、今何つった?
「………………だから、明日からは私と同じメニュー、つまり他のみんなとは別のメニューでやってくわよ。」
「な、なんでだよっ!?」
「あ、ちなみに朝は6時半開始よ」
「話を聞けっ!!………………なんであんたはよ、あたしにそこまで構うんだよ………………」
「聞きたい? 」
「………………どうぞ聞かせてくれませんかねっ!?」
「よろしい。………………端的にいえば、あんたは私に似てるからよ。」
「………………は?なにそれ意味わかんないんですけど?」
「変にプライドだけ高くて、他を見下してるトコよ。なまじまっか『できる』ばかりに他も表立って逆らいようがないから、どんどん自尊心の塊になるし。………………あんた、そのままじゃ自滅よ? 」
「………………うるせぇよ。あんたに、何がわかるってんだ。………………バレーの才能がある上に、最初っから恵まれて生きてきたようなあんたになっ。」
次の瞬間、視界が急に白くなって。………………頬の痛みで、殴り倒されたんだって気がつく。周りから上がる悲鳴に、頭がぐわんぐわんする。
「………………私が恵まれてるですって? ………………反目する派閥を作られて、こっそりと陰口を叩かれて………………それでも私が、恵まれてるって?」
慌てて駆け寄ってくる灰谷のことが見えて、………………あ、白峰に詰め寄ってやがる。
「………………つい手が出たわ。大丈夫? 」
差し伸べられた手を引っぱたいて振りほどく。そしてよろよろと立ち上がると、
「………………………………とっくに分かってんだよ。この性格じゃ、みんなが付いてこないことぐらい。………………だけど、あたしはこうすることしか、出来ないんだっての………………………………明日の朝練、6時半っつったよな? ………………出てやっからよ、なんか教えてくれ。」
「可愛げのない子ね………………待ってるから。」
「ちっ………………灰谷、あたしは部屋戻るわ。」
「ん、あぁ………………」
ひと睨みして道を作ると、そのまま脱衣場へと足を踏み入れた。
(………………あたしは、きっと変われない。けど………………)
私の中の答えは、未だに出ないまま。




