教室と理科室。―望乃夏
................ふぅ、なんとかギリギリセーフ。5組は去年とメンバーが変わらないから、話に花が咲くなんてこともまばらで、みんな出席番号順に座っていた。
「あらあら、墨森さん遅刻ですよ。」
「ハハハ、そう言う炭谷さんはお早いことで。」
「備えあれば憂いなしというやつでしてー、お約束に遅れては申し訳が立たないというものですよ。」
「肝に銘じておきます。」
炭谷さん、こんなのほほんとしてるのに家に帰ればご令嬢なんだから、ほんとに頭が下がる思いで................
「の、望乃夏様................あの、もしかして本日遅れましては、その、................恋人と一夜の交わりでして?」
「ちーがーう!!あれは単に雪乃がおかわりしすぎただけっ!!................てかなんで皇ちゃんは全部そっちに持ってきたがるのかなぁ................」
名前は高貴なのに中身は半腐れとかどうなってるのさぁ................
「だ、だって気になりますもの♪女でありながら同じ女の子を好きになってしまうという感覚が♪むふ、むふふ................」
「炭谷ちゃん、これ止められない?」
「こういう時は放っておくのが一番でしてー。」
................そうは言っても、後ろからステレオで聞こえてくる妄想を素直に聞き流せるほどメンタル強くないんだけどなぁ........................あ、先生来た。とりあえず真後ろの壊れたステレオスピーカーも一応は止まる。
「よし、全員いるな。それでは早速授業を始めるぞー」
教室のみんながズッコケる。
「そりゃないよ先生~。もっとこう、なんか無いの?」
すかさず文化が茶々を入れる。
「だってクラス替えないから自己紹介する必要も無いし?つーわけでまずテストな。単利と複利、忘れてないだろうな?」
ぎくっ。そんな擬音があちこちから聞こえてくる。もちろん、ボクもその中の一人で。
................とりあえず表は全部埋めたけど、合ってる自信はこれっぽっちも無いんだなこれが。
「................ってことがあってさぁ。」
「ほへー、そりゃ災難でしたね。」
試験管をフリフリしながら、一十三ちゃんが言う。
「おぉ、この苦労を分かってくれるんだ。琥珀糖あげる。」
白衣のポケットから一欠片摘むと、一十三ちゃんの口に放り込む。あ、吐き出された。
「ぺっぺっ、先輩これ、いつのですか!?しかも白衣からむき身で無造作に出さないでくださいよっ!?」
「大丈夫だよ。私今日まだ試薬触れてないし。それにポッケの中で包み剥いたから、直って訳じゃないし。」
「ほんとっすか................?」
半信半疑なので、一応ポケットの中身を空けてみせる。
「................なら信用しますけど................先輩、今学期初めてそれ着ますよね。ってことはこれ、もしかして................」
「あー、今年の1月ぐらいかな?作ったの。」
「ダメじゃないっすか!?」
「大丈夫だよ。砂糖に賞味期限は無いから♪」
「そう言う問題じゃ無くて................はぁ、墨森先輩には何言ってもダメか。」
「................む、なんかバカにされたような気が。」
「ナ、ナンノコトヤラサッパリ」
「................むぅ。................あ、ネスラーの在庫ってまだあったっけ?」
「んー、もうそろ無くなりますね。フェーリングと一緒にこの前頼んどきました。」
「サンキュっ。」
「................まぁそれは良いんですけど、先輩少しは自重してくださいよ?部費も無尽蔵じゃないんスから................」
「................覚えとく。」
................さてと、結晶はどうなったかな?戸棚を見に行こうと腰を浮かすと、ドアをそっとノックする音がする。返事を待たずにドアが開くってことは................
「望乃夏、お弁当食べない?」
「雪乃ぉ................返事ぐらいは待ってくれると嬉しいんだけど?着替えてたらどうするつもりだったの?」
「だって、窓から望乃夏が見えたんだもん。」
「................ったく、もう................」
「さーて、私もお昼買ってこよ。」
一十三ちゃんが気を利かせて理科室から出ていく。................うんうん、そこまで教え込んだ記憶は無いけどほんとにできた子だねぇ。
「あー、でもボクお弁当持ってきてないや。」
「そういうと思って買ってきたわ。」
................雪乃、早いよ................。
補足
・教室にいた望乃夏の前後の人
炭谷 佳子 どうやらお嬢様らしい。
皇 ミヨ子 これでもお嬢様らしいけど腐りかけのようだ
・理科室の望乃夏の後輩
定方 一十三 中等部3-2らしい。お嬢様かどうかは不明。