踏み入れて。―望乃夏
「ん、ここ空いてる………………月夜ちゃんはこの隣使って。」
ざわついた脱衣場で、ボクは雪乃と別れて月夜ちゃんと行動を共にする。
「と、隣失礼します………………」
と、月夜ちゃんは着替えをしまい込むと、そわそわと辺りの様子をうかがい始める。
「………………大丈夫? 後ろ向いてよっか? 」
「あ、いえ、………………大丈夫、です。」
そう言って慌てるけど、服にかけた手は止まったまま。………………だよねぇ、まだ入りたてだと、誰かと一緒のお風呂ってなんとなく怖いもんね………………。
「………………ん、ならボクから先に脱ぐね………………月夜ちゃんは、ボクの影に隠れててもいいよ。」
「い、いえっ、大丈夫………………ですからっ」
意を決して、月夜ちゃんの手が動く。それを見計らってボクもワイシャツのボタンを外して、雑に脱衣カゴに押し込む。あっという間に脱ぎ終わったボクは、そっと月夜ちゃんの方を見る。
「………………どう? もう少しかかりそう? 」
「ひゃっ!? ………………も、もうちょっと………………です………………」
月夜ちゃんの手はショーツにかけられたままで固まっていて、
「………………あ、あの………………そんなに見ないでください………………こ、子供っぽいんで………………」
「気にすることないよ。何を隠そう、このボクだって半年ぐらい前までそういうのとか、あとは無地のばっかりだったし。」
「……………そ、そうなん、ですか………………」
それで決心がついたのか、月夜ちゃんはすぐに下着を脱ぎ去る。………………うん、まだボクの方が大きい、よね………………?
「ん、じゃあお風呂入ろっか。」
脱衣場への扉を開けると、むんわりとした熱気に襲われる。おっと、メガネが………………ふきふき。
「お風呂入る時もかけっぱなんですか、それ? 」
「いや、いつもは雪乃が手を引いてくれるんだけど、今日は居ないから。」
二人で並んで座れるところを探したけれど、あいにくそんな好条件なとこは無くて、
「先輩、ここ2人で使いましょうよ。」
そう言って月夜ちゃんが空いたとこを見つけてくる。
「そうだね。………………じゃあ、先に使わせてもらっていい? 」
小さくうなづいたのを見て、そっとお風呂のイスに座る。そしてボディーソープを手に取ると身体中に泡を塗っていく。
「………………月夜ちゃん? そこで直立不動になってなくてもいいから………………」
「え、えと………………」
困惑する月夜ちゃんを見かねてか、隣にいた人が「ここどうぞ」と席を譲ってくれて、月夜ちゃんがそこに座る。月夜ちゃんが身体を洗い終わるのを待ってから、髪を洗ってあげようと声をかける。
「ん、身体洗えた? なら、頭洗っちゃおっか。」
「わ、わかりましたっ。」
と、両方で腰を浮かして、思わず顔を見合わせる。
「えっと………………」
「あ、月夜ちゃんから先に洗う? なら、ちょっと待ってて。」
と、月夜ちゃんの前のシャワーヘッドを手に取ると、月夜ちゃんが慌てる。
「い、いえっ、自分で洗えますからっ!?」
「こらこら、遠慮しないのっ。年上の言うことはちゃんと聞きなさいって。」
そのまま返事を待たずに、お湯を月夜ちゃんの頭にかける。それからボクのお気に入りのシャンプーを手に取ると、そのセミロングの髪に溶かし込んでいく。
「………………うう、やってもらっちゃって、すいません………………」
「気にしなくていいよ。雪乃で手馴れてるし。………………それに、月夜ちゃんの髪ってきれいだし。」
「き、きれっ、」
あ、爆発した。
「………………うう、そんなこと言われたの初めてですよ………………3年間ずっとバレーに明け暮れてたんで………………」
「あはは、うちの雪乃みたい。………………でも、実際キレイだよ? 」
「そ、それ以上からかわないでくださいよっ………………ほ、ほら早く洗い落としてくださいっ」
「はいはい。………………もう、素直に認めちゃえばいいのに。」
シャワーのカーテンで洗い流すと、月夜ちゃんは軽く頭を振ってから、自分の髪の匂いをそっと嗅ぎ始めた。
「あはは、流石に乾いてからじゃないとわからないと思うよ? 」
「………………そ、そう、ですかね………………? 」
その仕草がなんだか可愛くて、つい頭を撫でた。
「………………むぅ、子供扱いしないでくださいよ………………そ、それより、次は先輩の番ですからね?」
「はーい。………………じゃあ、綺麗にしてね? 」
月夜ちゃんと入れ替わりに、そっと椅子に座った。




