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その匂いは。―望乃夏

「それじゃ、今日の練習は終わりよ。」

「うぃーっす、お疲れ様っ。」

「この後なんか食いに行かね?」

「あー、いいっすねー」

雪乃の号令とともに、部員達が銘々に散っていく。それを見送ると、雪乃の隣にそっと立つ。

「どうする雪乃、このあとすぐご飯する?」

「そうね、それもいいけど、今日はけっこう汗かいたし………………先にお風呂にしようかしら。望乃夏もその後ご飯にしましょ。」

「あ、ボクも一緒なのは既定事項なのね………………」

「………………いや、なの?」

「まさか。………………すんなり言われたから、へえって思っただけ。」

「今更それ言う? ………………望乃夏のニブチン」

「鈍くて悪かったね………………とりあえず先お風呂だね。じゃあ着替え取りに行こっか」

「そうね。」

体育館の扉を出たところで、月夜ちゃんにそっと(着替えとってくるね、これからお風呂)と合図する。………………つ、月夜ちゃん、練習終わったのに猛ダッシュかぁ、ずっとトレーニングしてないと落ち着かないのかな? まぁ、それはそれとして。

「………………雪乃、どうしてボクから離れて歩いてるの? 」

「そ、そんなことないわよ? 」

雪乃の様子がおかしい。ボクが近寄ると雪乃は遠ざかって、遠ざかると近寄ってくる。………………どうしたんだろ?

「雪乃、手つなごうよ。………………今なら、部員さん誰も見てないし。」

「………………や、やめとくわ………………もしかしたら、見られてるかもしれないし………………」

「………………………………けち。」

いきなりぐいっと近寄って雪乃の手を強引にとって、ボクの手とつなぐ。

「っ!?………………の、望乃夏、離れてっ!?………………私、いまっ、汗臭いから………………」

そう言われてピンとくる。………………ふぅん、雪乃にもオンナノコらしいとこあんじゃん。別に雪乃の匂いなら布団の中でかぎ慣れてるし嫌じゃないんだけど、雪乃は気にしてるのかぁ………………よし、それなら。

カバンの中からスプレー缶を取り出すと、そわそわしながら歩く雪乃の背中目掛けてボタンを押す。

「っぅひゃぁぁぁぁっ!?」

雪乃が可愛い叫び声をあげる。よし、もう一度………………

「の、ののかっ!? いきなり何すんのよっ!! ………………び、びっくりするじゃないのっ!!」

「あはは、ごめんごめん。………………雪乃、匂い嗅いでみて?」

「そ、そんなの………………くんくん、………………あれ? いい匂い………………」

「これなら近づいてもいいよね? 」

「う、うん………………でも、どうして? 」

「制汗スプレーだよ。しかもこれは臭いのもとに作用して」

「そ、それはわかってる。………………けど、なんで望乃夏が持ってるの? 」

「むぅ………………失礼だな雪乃………………ボクだってたまにはそういうの気にするんだからね? ボクは特に脇の下が汗かきやすいから………………」

「そ、そうなの………………知らなかった。」

「うん、今初めて言ったから。………………ところで、雪乃は制汗スプレー使わないの?」

「………………あの冷たいのが苦手なの。あと、すーすーするのも………………」

「雪乃って肌弱いのかな? 最近は天寿が色んな匂いのを開発してるみたいだし、一度見てみたら? この前は、バニラの香りなんてのもあったし。」

「そ、そんなのがあるのっ?」

お、雪乃が食いついた。そして同時に、二人してお腹がぐぅっと鳴る。

「………………お腹すいたね。」

「………………望乃夏の話聞いてたら、なんだかアイス食べたくなってきちゃった………………」

「どうする?ニアマートで買い食いする? 」

「それもいいけど、お風呂でさっぱりしてご飯食べた後の楽しみにとっとくのはどう? ………………自分へのちょっとしたご褒美にっ♪」

「お、いいねぇっ♪ 雪乃の場合毎日ご褒美食べてそうだけど。」

「なっ………………ど、どこ見てんのよ望乃夏っ!? 」

「アハハ、冗談だって。」

「………………望乃夏の、バカ………………」


アイスを何個か買うと、急いで部屋に戻って冷凍庫にしまい込む。それから着替えを用意すると、食堂からの誘惑に負けそうになる雪乃を引きずりつつ、お風呂に向かった。

「この匂いは………………今日は焼きそばかしら? 」

「いや、チンジャオロースじゃない? 」

そんなことを話していると、

「………………お疲れ様です。」

月夜ちゃんが、着替えを大事そうに抱えて待っていた。

「お疲れ様。………………誰か待ってるのかしら? 」

「………………あ。ごめん雪乃………………月夜ちゃんとお風呂一緒にって約束したんだった………………」

「そ、そんなの聞いてないわよ望乃夏っ!? 」

「ま、まぁまぁ雪乃………………多分、シャンプーの相談だと思うからさ。終わったら雪乃に合流するから、それまでひとりで………………」

「………………わかったわよ………………」

不満そうな雪乃を連れて、脱衣場への扉に手をかけると、

「………………ん? 灰谷と………………げっ」

「げっ、ってなによげって」

元・茶髪のお猿さん、こと、瀬良 亜遊夢ちゃん――後から月夜ちゃんに聞いた――が、バツの悪そうな顔で後ろに立っていた。

「………………お風呂で会ったのも何かの縁ね。………………望乃夏、悪いけど私はこの子と『話し合い』したいから、それが終わったらごはんね。………………さ、付いてきなさい。」

「い、イテテっ、耳引っ張ることねーだろっ」

「………………なんか、あっちはあっちで大変そうだね………………」

月夜ちゃんも、同意するかのようにため息を一つついた。

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