聞き取り調査………………?―望乃夏
「………………ふぅん? 」
雪乃が、その子―――さっきはお猿さんとか言われてた―――の顔をじっくりとのぞき込む。
「………………まだ腫れてるわね。それにしても、昨日の今日でよくもまぁのこのこと出てこれたわね。………………しかも、その髪は自分で切り落としたの? 」
「………………私が、切り落としました。亜遊夢ちゃんに、頼まれて。」
水鳥ちゃんがそっと手を挙げる。
「あら、知り合いなの? 」
「………………ルームメイトなんです。それと………………私の地区で『有名』だったんで。最初に、同じ部屋になったと聞かされた時には、うんざりして、早く夏休みにならないかな、なんて思ってて………………」
「ふぅん………………『有名』って、こいつは何をやらかしたの? 」
「こ、こいっ、」
咄嗟に食ってかかろうとするのを、水鳥ちゃんが抑え込む。
「………………そこの皆さんみたいな通称は無かったんですけど、私たちの地区では『茶猿』とか呼んで敬遠してました………………とにかく自分勝手で、チームワークも無く、チームメイトですら『踏み台』にする………………そんな鼻つまみ者だったんですよ。そんなんでもそのチームではエース級で、春の大会まで追い出されなかったとか………………」
「へぇ………………そうは見えないけど。」
雪乃が好奇心の混ざった目で値踏みする。
「………………」
「まぁいいわ。とりあえず、ちょっとだけ向こうで『話して』みるから。それまでみんなはアップ続けてて?」
「うぃーっす」
と、雪乃はその子と水鳥ちゃんを引きずって体育館を出ていく。そして扉が閉まった途端、
「………………ふぃー、雪乃が居なくなったな。それじゃそこの見学者くん、色々と教えてもらおうか? ………………雪乃との、それはそれは甘々な生活をっ♪」
部員のひとり――昨日陸上部の人を精神的にノックアウトした人――に、にじり寄られる。
「ひいっ!?」
慌てて逃げ出そうとすると、すかさず後ろからも部員に囲まれて、
「おっと、逃がしませんよ? 」
「つ、月夜ちゃん、助けて!?」
「む、無茶言わないでくださいよっ!?………………………………あと、お話も聞きたいし。」
「う、裏切り者ぉっ………………」
………………はぁ、こりゃ四面楚歌だね………………
「………………わかりましたよ、話せばいいんでしょ? ………………………………で、雪乃の何が知りたいんですか?」
一瞬、みんなの目がきらーんっと輝く。そして一斉に、
「雪乃って部屋だと何食べてんの? 」
「雪乃ってホントの体重いくつよ? 」
「雪乃ってひとりエッチ何回ぐらいしてた? 」
「むしろ雪乃の胸ってどんなもんなのよ? 」
「雪乃って食うとおいしそうだよな。」
「雪乃の看病のことを詳しく。」
「ま、待ってくださいよっ!? そんなにいっぺんには無理ですって………………と、とりあえず1個ずつ答えていきますね。」
部員達がずいっと身を乗り出す。
「………………えと、部屋だと主におせんべいとか、後はポテチの大きいのをよく食べてますね………………机の下に大体隠してあります。………………ゆ、雪乃のホントの体重っ!? そ、そんなの知らないし、知ってても口に出そうものならぶち殺されますよっ!? ………………ひ、ひとりでシてる回数なんて………………胸は、最近膨らんできてる、かな………………ゆ、雪乃は食べないでくださいっ!? ………………看病のことについては、本人がゆでダコになるんで黙秘します………………」
答え終わると、みんなは銘々がっくりしたり、ニヤニヤしたりと反応はバラバラで。
「………………ちぇっ、主要なことはみーんな黙秘かよ………………」
「いいんじゃないですかね? けっこう色んな事わかったし。」
「やーっぱこういう情報源があると強いよな。つーわけで後でメアドあげるから定期的に雪乃の情報を………………」
「あら、誰の情報ですって? 」
「あん? だから雪乃の情報を………………ア、ユキノサンオカエリナサイマセ。」
「………………黒木先輩?ちょーっとお話があるんですけど? 」
「いやあたしには話はないぞっ、それじゃ!!」
「あっ………………、ほんとにあの人はもうっ………………………………ところで望乃夏、ナニを話してたのかしら………………? 」
「ひぃぃっ!? ゆ、雪乃っ、顔が怖いよっ!? ………………べ、別に、雪乃が部屋で食べるお菓子のこととか、後は雪乃は優しいのかどうかとか………………」
「にゃぁっ!?………………ち、ちなみに、誰がどれを訊いたかって、覚えてる? 」
「えっと………………」
周囲を見渡すと、部員の皆様は一斉にそっぽ向いたり(言うなよ言うなよ!?)と、合図を送ってきたりする。
「………………ん、そこの人がお菓子のこと、んでそこの人が部屋での態度。」
「あーこの野郎裏切ったな!?」
「ありがと。………………さてと、今日のメニューは何にしようかしらね………………? 」
部員の皆さんの顔が一斉に青くなる。………………後で相当恨まれそうだな、ボク………………
「あ、あの………………」
袖口がちょいちょいと引っ張られる。振り向くと、
「どうしたの月夜ちゃん?」
「あ、いえ………………………………その、今日も、お風呂、ご一緒していいですか………………………………? 」
「うん、いいよ。」
途端に月夜ちゃんの顔がぱぁぁっと明るくなる。
「あ、でも一応雪乃に確認しないと………………」
………………って、聞いてないね、これ………………もしかして、ボクのシャンプーが気に入ったのかな?




