付いていくと。―望乃夏
「………………さて、と。」
昇降口の前で足を止める。
「どうしたの、望乃夏? 」
「………………いや、この後どうしようかなって。」
「今日は理科室行かないの? 」
「あのねぇ………………」
つい雪乃にムッとする。
「………………雪乃、ボクだって毎日部屋と理科室にこもってる訳じゃないんだよ………………? そりゃあ、圧倒的にそのどっちかに居ることの方が多いけどさ………………」
「………………ご、ごめん………………そのどっちかに居るイメージしか、なかったから………………」
「ひどいなぁっ!? ………………まぁ、仕方ないか。 雪乃とのお出かけ以外で他のとこ行くことの方が珍しかったし………………そうだっ。」
ボクの頭にひょこっと考えが浮かぶ。思わず出てしまった声に、雪乃がびくっと肩を震わせる。
「………………な、なに………………? なんだか、寒気がするんだけど………………」
「………………いや、雪乃の練習風景を見たいなぁ………………なんて。」
「え、えぇぇぇぇえっ!?」
雪乃が文字通り飛び上がる。
「………………なんでそんなに驚くのさ………………」
「だ、だって………………………………望乃夏に、見られるなんてっ………………………………は、恥ずかしぃ………………」
雪乃が両手をすり合わせてモジモジくねくねする。
「言い方がえっちぃよっ!?………………れ、練習を見るだけだよ? ね、いいでしょ?」
「あ、あぅぅ………………………………ぷしゅ〜………………」
「あ、雪乃がオーバーヒートした………………おーい、ゆきのー………………?」
「………………の、望乃夏………………ほんとに見るの? なんにも面白くないわよ………………?」
「うん、それでも見たいな。 だって、雪乃の部活での姿、ボクは見たことないもん。」
「………………………………うぅぅぅ………………わ、わかったわよっ………………そ、その代わり、危ないから大人しく端っこで見てなさいよ? あと………………声かけたり、写真撮ろうとしたりしないでよ………………しゅ、集中できない、からっ………………」
「それだけ守ればいいんだね? わかったよっ♪」
「………………ほ、ほんとに、なんにも面白いこと、ないからね? 」
「うんうん、分かってるって♪ 」
ふふっ、雪乃のこと、もっと知れるんだっ♪
雪乃が体育館の扉を開けると、既にアップを始めていた部員たちの視線に晒される。
「お疲れ様、私もすぐに混ざるわ。………………ほら望乃夏、ここで大人しくしてなさい。」
「はーい。」
体育館の端っこにちょこんと座ると、ボクに視線が集まる。
「雪乃ー、今日は恋人同伴で重役出勤かぁ?」
「なっ………………ふ、文化が具合悪くしたって言うから、一緒に様子見に行ったのよ。望乃夏は文化とクラスメートだし。」
「あと、文化は今日は来れないと思いますよ。」
そっと口添えすると、周りがザワつく。
「ま、まさか雪乃、遂に文化のことやっちまったのか!?」
「やってませんよ!!………………傷んだもの食べてお腹壊したらしいです。」
「へぇ、あの変態が腹なんて壊すのか。」
………………文化の扱いってこんなんなのか………………ちょっとだけ同情する。
「さ、こんなこと話しててもしょうがないし、練習始めましょ。………………………………望乃夏、そこで大人しくしてないと、どうなっても知らないわよ? 」
「わ、わかってるって………………」
………………ど、どうなってもって………………どう、なるの………………?
「………………全く、2~3日はじっくり休みなさいって言ったのに、一年生が混ざってるじゃないの………………ったく、仕方ないわね。それじゃ一緒にすとれ………………ってあれ、4人だけ?」
「あ、他の『3人』なら………………」
「3人?………………って、もしかして………………」
「ただいま戻りましたっ!!」
ガラリと開いたドアの向こうには、水鳥ちゃんと月夜ちゃん、それともう一人が立っていて、
「………………あなた………………………………誰?」
体育館のみんなでズッコケる。………………いや、さっきの思わせぶりなセリフはなんなのさっ!?
「………………先輩? さすがにギャグですよね? 」
「………………いや、一瞬素で分からなかったわ………………あなた、何しに戻ってきたの? ………………お猿さん。」
雪乃の視線の先を追うと、そこに居たのは、
「………………昨日、運ばれてた人だ………………」
「あら望乃夏、知ってるの? 」
「知ってるってほどじゃ………………ただ、昨日雪乃のとこに行く途中で、両側から担がれて運ばれてるのを見ただけだよ。」
「………………へ、へぇ………………」
あ、雪乃が目を逸らした。
「………………先輩、漫才やらないでくださいよ………………んで、こいつなんですけど………………」
「いい、自分でやる………………………………瀬良 亜遊夢、です。………………………………バレー部に、入れてください。」
その子は、深々と頭を下げた。………………それも、すごく嫌そうに。
「………………へぇ、こりゃ予想外だ。」
誰かが呟いたのが、ざわついた体育館に不思議とはっきりと聞こえた。




