クラス分けは。―望乃夏
昇降口に立つと、クラス分けの表を眺める人の群れでざわついていた。
「................あー、4組、か。」
「やった!!ひじりちゃんと同じクラスだー!!」
「もう、同じクラスになっただけでなんではしゃいでるの?」
「次は2-2か................」
「................ふむ、楓と墨子は同じクラスにできたか........」
................えっと、雪乃は................あ、3組か。
「雪乃、また3組だって。」
「................そう。」
それだけ聞くと、雪乃は興味を失ったようにスタスタと下駄箱を探し始める。
「え、ちょっと................雪乃?」
慌てて人混みをかき分けて雪乃の背中を追う。................最近はこんなことばっかりだなぁ................。とにかく、やっとの事で追いつく。
「もう、どうしちゃったの雪乃。」
「................どうせなら5組になりたかったな、なんて。」
「いや、それは................」
「................『無理』って、言いたいんでしょ?................わかってる。どっちかが転科しなきゃ出来ないことだって。................でも、同じクラスだったら自然にお弁当もお花も誘えるし、................面倒なのよ、いちいち入口で呼ぶの。」
........................え、雪乃が拗ねてたのって、それだけのことが原因なの?
「................それに、望乃夏が私のこと呼びによく3組来てたじゃない。................あの後、物好きな人達から聞かれるのよ。........................その、『どこまで』なのか、『どっちから』なのか。」
雪乃が微妙に言いよどむ。................ってことは、意味深な方でいいのかな、これは................。
「................キッカケは雪乃だけど、いつもはボクからだよね................。その、『する』時は。」
「の、ののかっ................!?誰が聞いてるか分からないんだから迂闊に言わないでよ!?」
................そう?見た感じざわついてるし、ボクらの会話に聞き耳立ててるような子は居なさそうだけど................あ、居た。
「ようよう墨森ちゃん、アーンド、雪乃っ。」
こっちに気がつくと走り寄ってくる影。................紛うことなきあのニヤケ顔。やっぱり文化だ。
「あら文化、久しぶりね。................あと、焼けたわね。」
「いやぁ、ちょっとトラクター壊しちゃってね。おかげで春休みの間に田んぼ30枚全部手植えするハメになっちゃってもーほんと大変だったのよ。その後サヤエンドウっしょ、そら豆っしょ、あとは人参にインゲンに........」
「................文化ってほんとに農家だったんだ。」
つい口をついたその言葉を文化が的確に拾っていく。
「あー、いままで疑ってたな?これでも専業農家の跡取り娘なのだよっ。ふっふっふー。................と・こ・ろ・で................会いたかったよ雪乃ーっ。」
言うが早いか、文化はいきなり雪乃のささやかな胸をモミモミする。
「え、ちょっ................」
「あれ?お腹周りもかなー?」
もう片方の手で雪乃のお腹をつまもうとした文化が殴られる。
「................いつものことだから我慢してたけど................お腹周りのことは禁句よ?」
「イテテ................トレーニングサボってるのかと思ったけど、その左手は健在だね。でもどうするの?ウェイト増えたら戦術も変わるだろうし。................『地獄落とし』しとく?」
「................そうね、私だけ別メニューで追い込んだ方がいいかも。................文化、悪いけど新入生の相手は」
「わーかってるって。................ま、雪乃が居たらみんな怖がって来なくなりそうだし?」
「私を怪獣みたいに言わないでよ................。」
「................怪獣ユキゴン。」
そのやりとりが面白くて、ついボソッと口にする。
「ゆ、ユキゴンって................」
「だーはっはっはっ、ユキゴンはいいな、なぁユキゴン。」
なぜか文化には大ウケして、雪乃の肩をばしばしと叩く。................あ、雪乃がみるみる真っ赤に................
「で、でもすごいや雪乃は。みんなから恐れられるすごい部長なんでしょ?」
慌てて取り繕うと、すぐに雪乃が無い胸を張る。
「そ、それは、私はエースだし?だからみんな付いてきてくれるのよ。私が一番上手いってみんな言うから?仕方なくなっただけだし................?」
雪乃が目に見えてモジモジする。................あ、髪をクルクルし始めた。
(ちょろい)
(ちょろい)
「................おっと、もうこんな時間じゃん。じゃあ雪乃、また後でな~。」
そう言うと、文化は5組に戻っていく。
「それじゃ、私もこれで。」
「うん。雪乃、また後でね。」
そう言って別れようとすると、なぜか文化が戻ってきた。
「おっとっと、言い忘れてた。実は私の妹が今年星花に入ったんだよ。そのうち紹介するから。 」
「へぇ、文化に妹なんて居たのね。」
確かに初耳だなぁ。
「おっと、それだけじゃないぜ?安栗家は四姉弟なのだよ、ふっふっふ。................上から文化、明梨、風、そして末っ子だけ男で薫だ。」
「........そ、それはまた................」
「................大家族ね。」
「まあね~、ほんとに手がかかるのよほんっと。」
そんなことを話しているうちに鐘が鳴って、みんなが慌てて教室へと駆け込む。
「................おっとっと、それじゃ話の続きはまた後で。走るよ墨森ちゃんっ。」
「りょーかいっ。................じゃあ雪乃、また後で。」
「そっちも気をつけてねっ」
挨拶もそこそこに、私たちは教室へと猛ダッシュする。
................一発目で遅刻とか、流石に避けたいなぁ。