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一夜明けて。―望乃夏

………………うっ、イテテ………………

ボクは腰を抑えて身体を起こす。………………くぅっ、雪乃のやつ………………散々人の身体の上で跳ね回りやがって………………

よろよろと起き上がると、クローゼットまで歩いていって、素っ裸な身体に真新しい下着を纏う。………………べ、別に特別な意味は無いんだけど、ボクは雪乃と『肌を重ねた』後の朝は、毎回新しい下着を下ろして使う。………………なんて言うか、まっさらな雪乃に触れた後は、自分もまっさらになりたくて………………って、そんな事はどうだっていいよね。

のそのそと制服を身につけると、寝乱れてボサボサになった髪を三面鏡の前で整える。………………………………昔はどんなにボサッとしててもお構い無しに登校してたのに、雪乃と出会ってからは………………………………こうして、身だしなみにも気を配るようになった。

(だって、適当にすると、雪乃がうるさいもんね。)

最初のうちは「あーでもない」「こーでもない」って雪乃から文句ばっかり言われたせいで、こっちもおヘソ180度曲げて雪乃と大喧嘩したこともあったけど………………今となっては、こうやって朝にちゃんと身だしなみを整えないと、なんだか落ち着かなくなっちゃって。

(はははっ。………………ボクもいつの間にか、雪乃の色に染まってるんだなぁ………………)

『黒が白に塗り替えられて、染められる。』 普通の世界なら有り得ないことだけど、ボクと雪乃の間なら………………ほんとに、そう言うしかないんだ。黒と白の絵の具が混ざると、曖昧なグレーになるんじゃなくて、はっきりとした黒と白の二色の海が、パレットの上に現れる。それが、ボクと雪乃の色。

「………………………………のか、望乃夏………………」

「うわぁっ!?」

突然聞こえてきた雪乃の声。思わず飛び上がると、雪乃がむすっとした顔で「おはよう」を告げてくる。

「お、おはよう、雪乃………………」

「おはよう望乃夏………………………………それにしても、さっきから何をブツブツ言ってるの?何だか難しい顔してたけど………………………………」

「ああ、いや、大したことじゃないんだよ………………………………ちょっと、昔のことを………………雪乃とボクが出会った頃のことを、ね。」

「………………ふ、ふぅん………………?」

雪乃がソワソワし始める。それなのに目線はずっと「続けて」を訴えていて、

「………………いや、雪乃に言われてから身だしなみを気にするようになったけど………………………………最近だとなんか、こうやってまず起きたら朝一番で鏡に向かわないと、気がすまなくなってきて………………あはは、半年前のボクにそう言っても信じてもらえなさそうだなぁ………………って。」

「………………そうね、確かに望乃夏は変わったかも。」

雪乃がボクの肩に手を置いてそう言う。………………………………さっきまで走ってたのかな、ほんのりと手のひらが汗ばんでる。

「………………………………出会った頃の望乃夏はと言えば、頭は洗ってもろくに乾かさないし、髪だってボサボサなまんなほっといてたし、私が嫌そうな目で見るまで髪を切らなかったし、挙句の果てには………………」

「わ、わかったからっ!!もういいからっ!! 」

慌てて雪乃の口を塞ぐ。………………ぐぬぅ………………、わ、悪かったとは一応思ってるから………………………………一応………………

「………………………………でも、望乃夏にはずっと変わってないとこがあるわ。」

雪乃の腕が肩からスッと下ろされる。ボクの頭の上に、ちょうど雪乃が重なって、

「………………………………重いよ………………」

「失礼ね………………………………それはともかく、望乃夏の変わってないとこ、それは………………………………」

「………………それは?」

「………………いいわ、これは宿題にしときましょっ。私が言うのもちょっと、恥ずかしいし………………」

「ええっ!?なんだよそれぇ………………教えてよぉ………………」

「はいはい、そのうち………………ね。」

雪乃はそう言ってはぐらかすと、身体を起こしてボクの髪をいじり始める。

「ほんっとに望乃夏は髪の質がいいわねぇ………………羨ましい。」

「………………はぐらかさないでよ。教えてよ。」

「ダメよ、宿題は自分でやりなさい。………………そんなに難しい事じゃないから。」

「えぇ………………」

うーん、何だろなぁ………………ボクの変わってないとこって………………身長?体重?それとも………………胸?

「それにしても、望乃夏も髪伸びたわね。そろそろ切ったら?」

「そう?自分だと実感無いんだけど………………あー、確かに前髪とかちょっとウザったくなってきたかも。」

手ぐしでそっと前髪をかきあげると、ぽろぽろと横からこぼれてまた元通りになる。………………前に切ったのいつだったっけなぁ………………

「………………………………望乃夏、良かったら私が切ってあげようか?」

「………………………………え、雪乃が!?」

「なによ、不満なの?」

雪乃がむくれる。

「い、いや、そうじゃなくて………………………………」

い、言えないよね………………『雪乃にやらせたらものすごい髪型にされそう』だなんて………………

「ふ、文化にやってもらうことにするよ………………………………妹たちの髪も切ってあげてるだろうし………………」

「………………ったく、望乃夏ったら………………………………なんでちゃんとした所で切ってもらわないのよ………………」

「だ、だって………………」

と、振り返ると、

「………………あれ、雪乃もけっこう伸びてきたんじゃない?」

「そう?………………これから暑くなってくるし、そろそろ切った方がいいかしら………………………………?」

雪乃が自分の髪をいじりながらそう言う。そして、

「………………………………の、望乃夏………………………………その、デート、しない?」

「………………………………い、いきなり、だねっ………………………………い、いい、けど………………」

ボクの方も返答に困って、雪乃のことを見上げる。

「………………実はね、クラスの子にいい美容院教えてもらったの。そこで二人共やってもらいましょ。それから………………………………その後は、二人でどこか………………ね?」

雪乃がくねくねしながら上目遣いに提案してくる。当然ボクにその提案を断れるはずもなく、

「………………いいね、それ。いつにしよっか。」

途端に雪乃の顔がぱあっと明るくなる。………………うん、いつも仏頂面な雪乃がこれだけ目に見えて表情を変えるなんて………………相当嬉しかったんだろうなぁ………………………………

「つ、次の日曜日なんて、どう?」

「うん、いいよっ。」

一も二もなく快諾すると、雪乃の表情がぱぁっと更に明るくなる。………………ふふっ、雪乃ったら。

そっと頭をナデナデすると、ハッとしたようにまた元の仏頂面に戻………………いや、ほっぺたがひくついてる。

「………………って、こんなことしてる場合じゃないよ!?雪乃、時間!!」

「ふぇ!?」

慌てて時計を見上げる雪乃。もうそろそろご飯にしないとけっこうギリギリ。

「の、望乃夏先行ってて!!私は後から行くから!!」

あたふたとトレーニングジャージを脱ぎ捨てる雪乃を尻目に、ボクは食堂へと長距離走を開始した。

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