一夜明けて。―雪乃
チュンチュンと雀が窓の向こうで鳴く。
………………んっ、あ………………さ………………?
鉛でも括りつけられたみたいに重い身体を引きずって、なんとかベッドの上に起き上がる。その弾みに落ちた掛け布団の下から、私の一矢まとわぬ素肌が露わになって、………………昨日の『宴』のことを思い出して頭を抱えた。
………………あぁもうっ!!なんで昨日『あんなに』しちゃったのっ………………!?
そ、そりゃ望乃夏も甘えてきたし、私もそれを面白がって望乃夏の上で『跳んだ』けどっ………………まさかダブルノックアウトするまで、いくなんて………………
「………………さぶっ」
隣で望乃夏が小さく震えると、のそのそと布団を抱き込んで二度寝の体制に入る。
「起きなさい望乃夏。」
背中を軽くひっぱたくと望乃夏が飛び上がった。………………もちろん、一矢まとわぬ真っ白な身体で。
「い、いったいなぁ………………………………ゆきのぉ、いきなり何すんのさ………………」
「………………もう朝よ。望乃夏も早く起きなさい。」
昨日脱ぎ散らかした服のうち、まだ着れそうなのを選んで身につけていく。………………くっ、きつい………………
「えぇ………………まだ6時でしょ?もっと寝かせてよぉ………………」
そう言うと、布団をしっかりと抱きしめてまた夢の中へ逃げ込もうとする。でも、そうはさせない。
「もうっ………………………………昨日は『遅かった』し二度寝しててもいいけど………………その、服ぐらいは着なさいよ。風邪ひくわよ?」
「えぇ………………めんどくさいよ………………起きる時に着るから………………」
「………………もう、面倒くさがりなんだから………………」
ねぼすけな望乃夏に呆れつつ、手早くいつもの練習ジャージを着込んで気持ちを切り替える。
「………………………………あれ、練習行くの………………?雪乃も、疲れてるでしょ?一緒に寝よ?」
望乃夏が布団をちょっと緩める。………………ちょっとだけ誘惑に心がグラグラする。
「………………………………ダメよ。練習は毎日しないと………………………………………………それに、こういう時だからこそ出ないと行けないのっ。………………………………もし休んだら後でみんなに『昨日は激しかったんだね』なんてからかわれるんだもん………………」
………………ほんっとに、どこから聞きつけてくるのかしら………………私と望乃夏の楽しみを………………
「ふーん………………………………あ、ところで雪乃。」
思わずずっこけそうになる。………………………………な、なによ、人が走り出そうとしてる時に………………
「………………今度はなによ………………」
「………………雪乃が付けてるブラさ、………………ボクのなんだけど………………」
「ふぇっ!?」
慌ててジャージの前を開ける。………………うん、昨夜脱がせた望乃夏のだ………………ど、道理できついと思ったら………………
「ま、待ってて、今着替えるからっ」
あわあわしながらジャージを脱いでブラを外して望乃夏にパスすると、
「………………なんかこれ、のびてるんだけど………………」
「う、うるさいわねっ!!誰が太めだって!!」
「いや太いとは言ってないんだけど………………」
「う、うるさいうるさいうるさーい!!」
ブラをつけ終わるとさっさと部屋を後にする。
………………ほんっとにもう、失礼しちゃうんだからっ!!
ぷりぷり怒ったままいつものグラウンドに行くと、見慣れないジャージがいつの間にか増えていて、
「………………しっかり休みなさいって言ったわよね?」
昨日残った6人が全員、ジャージを着て待ち構えていた。
「ま、やる気満タンってとこなんだろ。」
「あら、文化。………………珍しいわね、あんたが朝練に出てくるなんて。」
「むふふー………………いやぁ、雪乃が昨日はお楽しみみたいだったし?腰抜けて出てこれないんじゃないかと思ってね?」
「おっ………………」
一瞬で赤くなったのが自分でもわかる。
「………………あ、あれは望乃夏が誘ってくるから………………」
「へー、ふーん………………ほんとにやったんだ。」
「………………………………あ。」
それが文化のカマかけだと気がついた時には、とっくにもう文化は逃げ出していて、
「ふーみーかー!!………………絶対後でとっちめてやるんだから。」
ぼそりと毒を零すと、周りにいたみんなが震える。
「………………………………さて、と。あそこにいるバカはほっといて。みんな、練習始めるわよっ。」
その声に上級生達は銘々散らばっていくけれど、
「あ、あの………………私たちはどうすれば………………」
「………………そうね、周りを見てもらえれば分かると思うけど………………まずはストレッチね。これから走り込むから。」
走り込むと言った途端に、視線に怯えが混ざる。
「………………………………昨日のアレはやりすぎたと反省してるわ………………そうね、走ると言ってもここを2-3周だから安心して?」
その声にほっとした様子の下級生。………………………………うぅ、やっぱり誰かを指揮するのって、難しいわね………………………………




