雪乃のおかわり。―望乃夏
「あ、先輩………………………………ここ、空いてますよ。」
「あ、ほんとだ。いやぁ、いつも六人席って早めに埋まっちゃうんだけどねぇ。」
ガラガラに近い寮の食堂で、二年生と一年生に分かれて向かい合わせに座る。
「へへっ、雪乃はカツ丼で墨森ちゃんもカツ丼かっ。へっ、仲がいいこって。」
「なによ文化、やっかんでるの?」
「べーつにー?ただ、こーんなおいしそーなカレーを食べられない雪乃がちょーっと可哀想でねー?」
「怒るわよ?」
雪乃がお箸で文化のことを指す。
「もうっ、雪乃、お行儀悪いからやめなっ。」
「………………ごめん。」
そう言うと、雪乃は黙々とご飯を食べ進めていく。………………うーん、いつ見ても雪乃の食べ方はワイルドと言うか………………パワーショベルが山を削ってるみたいな迫力と速さで、ご飯もカツもどんどんと雪乃のお腹に消えていく。
「す、すげぇ………………」
「うん………………………………」
月夜ちゃんと美鳥ちゃんが、カレーを食べる手を止めて雪乃の食べっぷりに見とれている。
「はっはっは、ほんとに雪乃の食べ方はすげえな。見てるとこっちまで腹減ってくるよ。」
文化がケラケラと笑う。それから、
「ほらほら〜、あんまり雪乃のこと見てるとぶっ飛ばされるぞ?あとせっかくのカレーが冷たくなっちゃうからさっさと食いなよ。」
その言葉にハッとしたのか、二人は弾かれたようにふたたびカレーの攻略に取り掛かった。
「ふうっ、このカツ、味が染みてて美味しい〜。」
そんな喧騒をよそに、ボクはカツの衣の味を楽しんでいた。
「望乃夏、あんまりゆっくり食べてると置いてくわよ?」
お皿に残った最後のひとすくい――――もちろん、雪乃基準の『ひとすくい』だけど――を平らげた雪乃が文句を言う。
「んもー。雪乃はもうちょっと味わって食べた方がいいよ?でないと楽しくないじゃん。」
「あら、私はご飯が食べられればそれで満足よ?………………カレーとか麻婆豆腐とか、余計な辛いものが載ってなければの話だけど。」
「やっぱり雪乃は雪乃なんだね………………」
「………………………………?」
こてん、と首を傾げる雪乃。でもすぐに思い出したように、
「………………おかわり貰ってくるわ。」
スクっと立ち上がって配膳台の方に歩いていく。
「おっ、雪乃のおかわりが出たぞ。………………さて、君たち。よーく見とけよ?雪乃にとって、今までのはほんの前哨戦に過ぎないってことがよーく分かるからよ。」
「それ、どういう………………」
「お待たせ。」
その声に振り向くと、丼に丸々とご飯を盛り付けた雪乃が帰ってくる。………………………………あ、月夜ちゃん、アゴ外れそう。
「………………そ、そそそ、その量………………」
「これぐらいあれば腹6分目ぐらいまでは行けるかしら。」
「この上にまだ半分余裕あるんスか!?」
月夜ちゃん、口調が戻ってるよ?
「おっ、雪乃の山盛りご飯タイムだな。じゃああたしもおかわり貰ってくるかな。………………………………さて、そこのお3方、いいの?雪乃はこれだけ食べるからこんな強いんだぞ?………………つまり、たくさん食べればみんな雪乃みたいに強くなれるっ。」
「わ、私もおかわりっ。」
弾かれたように美鳥ちゃんが立ち上がる。それを見て慌てて月夜ちゃんもご飯の残りをかきこんで、
「わ、私もおかわりしますっ!!」
………………あれ、これはボクもおかわりもらいに行く感じ?
「ふふふぅ、墨森ちゃんもおかわりしないの?」
「ん、ボクはこれで足りるから………………」
「まーたまたぁー。どうせこの後、雪乃と『運動会』すんだろ?途中でバテちゃうぞー?雪乃って体力あるしぃ。」
「し、しないよっ!!」
「しないわよっ!!」
雪乃とボクの声が重なる。………………今夜は、しない、はず………………
「そ・れ・に・ぃ。もっとたくさん食べたら墨森ちゃんもないすばでーになれるかもよ?そしたら雪乃も喜ぶと思うなぁ?むふふっ。」
何を言い出すのよ、と言いたげな雪乃をよそに、ボクは迷っていた。
………………………………も、もっと、大きくなれる………………?
「んー?おかわりしないなんて、墨森ちゃんはお子ちゃまでちゅねぇ」
かっちーん。
「あーもう分かったよ!!ボクもご飯大盛りおかわり!!できればルーもちょこっとだけ!!」
「おっ、墨森ちゃんもやる気だぞ?」
ボクも丼を掴んで立ち上がる。後ろで雪乃が「………………チョロいわね」って呟いたのが聞こえたけど、ボクはあえて無視した。
………………雪乃のために、ないすばでー。………………がんばる。




