ごきげんななめ。―望乃夏
雪乃がご飯を食べ終わるのを待って、ボクも立ち上がる。................それにしてもさぁ、雪乃って朝からすごい食べるよね。見てるこっちが胃もたれしてきたよ................。
「................ってあれ?雪乃、ご馳走様じゃなかったの?」
「何言ってるの?まだ5杯目よ。まだまだ入るわ。」
「いや、練習無いんだしそこまで食べなくても................」
................ほらぁ、食堂のみんながこっち見てるし。
「................それに、もうこんな時間だよ?この後着替えなきゃいけないし、もうその辺にしておいたら?」
「................そ、それもそうだけど................せめてあと一杯だけ、ね?」
「ダーメ。雪乃はほっといたら、みんなのご飯まで食べ尽くしちゃうから。」
「私をなんだと思ってるのっ!?」
耳元でぎゃーぎゃー騒ぐ雪乃を引っ張って、食器を片す。................こうなると雪乃は赤ちゃんよりタチ悪いんだよなぁ。後で肉まんでもあげとこ。
とりあえず部屋まで帰り着くと、案の定雪乃はぶすっとしててご機嫌ななめ85度。もう直角になりかけてるし。
「................ほーら、いじけないの。」
「................タケノコご飯。」
「そのうちおにぎりとしてニアマートに並ぶでしょ。」
「あれちっちゃいもん。」
「................まぁ、雪乃からしたらそうだよね。................一応、お茶碗一杯分よりやや多めのデカおにぎりなはずなんだけど................」
................まぁ雪乃だからってことで考えるのをやめて、久しぶりの制服に袖を通す。................んっ、ちょっとだけきつくなったかな?あと、丈もちょっと伸ばさないとダメかも。................あれ、ってことは雪乃は........?
こっそり後ろを振り向くと、案の定スカートと格闘する雪乃がいて。
「くっ................は、入った........」
「........いや雪乃、そのうちホックが弾け飛ぶから大人しく諦めた方が」
「う、うるさいっ................こ、こんなはずじゃっ................」
................うーん、最近ずっと雪乃のこと見てきたつもりだけど、そこまで太くなったかな?
「................とりあえずホック留めるのは諦めた方がいいよ、うん。壊れたら換えないじゃん。夏服はまだクリーニングから帰ってこないしさ。................ところでここにベルトがあるんだけど」
雪乃は無言でベルトをひったくった................。
「................それにしても望乃夏は体系変わらないわね。」
雪乃が恨みのこもった視線を向けてくる。................うるさいなっ、ウエストは変わらないけどバストも変わらないんだよ................。
「どうせ今日練習無いんだしさ、部活の子に直してもらえば?服飾の子いるんでしょ?」
「だ、ダメよっ........................私の威厳が................」
「そもそもあったの、そんなの?」
................流石に言いすぎたみたい。左手で殴られたし。
「................でも、ほかのお店に頼んでる程の余裕は無いわね。................はぁ、あの人に頼むと後が怖いんだけど................」
「................ナニがどう大変なのかは聞かないでおくよ、うん。」
雪乃のスカートとの格闘が終われば、後は寝癖を直して髪を結い直すだけ。うん、今日もバッチシ。
「望乃夏、後ろハネてる。」
「え、どこどこ?」
鏡で見るけど、後ろはよく分かんない。................あーめんどくさいっ。
「もう、それ貸しなさい。」
雪乃は櫛をひったくると、そのまま毛先に当てて整えていく。このやり取りも、もう半年ぐらいになる。大体はボクが頭爆発して、それを雪乃が整える感じになる。そのお返しに雪乃の髪も整えてあげるんだけど................最近はなぜか、髪に触らせてくれないんだよね。お陰でお風呂はいっても、髪のあらいっこをさせてもらえない。................背中ぐらいは許して欲しいんだけど、ほんとに雪乃、どうしちゃったんだろ。
「................はい、出来たわよ。」
「ん、雪乃ありがとね。」
咥えたゴムでまた髪をまとめる。................うんっ、やっぱりボクはポニーテールの方がなんか落ち着く。
「さ、行こっか。................そういえば普通科はクラス変わるんだよね。発表見るのに時間かかりそうだし、どうする?走る?」
「................んー、別にいいわ。................それに、クラスが変わっても、望乃夏と一緒のクラスには、絶対にならないもの。」
「雪乃................」
「................つまらないこと言っちゃったわね。さ、望乃夏。もう行きましょ。」
「あ、待ってよ雪乃っ」
どこかもの寂しげな雪乃の横顔に見とれそうになって、危うく雪乃に置いていかれそうになる。
................雪乃は、もっとボクと一緒にいたいのかな。でもそれは................これ以上は、どうしても無理なのに。
................普通科への転部試験とか、ないのかなぁ。