誤解………………?ー望乃夏
「どう?落ち着いた?」
「あ、先輩………………」
月夜ちゃんが顔を上げる。もう一人の子は、雪乃のことを警戒して目を合わせないようにしてる。………………うーん、雪乃ってやっぱり怖いイメージがあるのかなぁ………………
「ほらほら、怖がらないで?………………雪乃はあんな仏頂面してるけど中身は優しいから。」
「ほ、ほんとですか………………?」
月夜ちゃんが疑いの目を向ける。こっそり雪乃の方を振り返ると、雪乃は相変わらずムッとした仏頂面のまま。だけどどこかしょんぼりしてるってのは、きっとボクにしか分からないんだろうなぁ。
「………………………………まず君たちさ、雪乃にどんなイメージを抱いてるの?そこから聞きたいなぁ………………何せボクは、同室の子としての雪乃しか知らないもんで、ね。」
「う、うぅ………………」
ありゃ、うつむいちゃった………………。
「いやいや、そんなに気を使わなくたっていいからね?………………雪乃に聞こえないようにってためらう必要もないよ、雪乃が怒ったら止めとくから。」
「そ、そうですか………………………………な、なら………………」
もう一人の子とお互い顔を見合わせる。やがて口を開いたのは、もう一人の子で、
「………………凶暴で、対戦相手を物理的に打ち負かすって噂が………………」
「あーなるほど。」
チラッと後ろを振り返ると、雪乃がちょっとワナワナしてて。
「………………つ、続けて?」
「あの、えっと………………………………あのスパイクは無理やりレシーブしようとしちゃいけないって言われました。うまいことアウトゾーンに落ちてくれることを心から祈れって………………」
「そんなレベルなんだ………………」
雪乃をチラ見。………………いや、「えっへん」って威張らなくていいから。それにそう言われるってことは、よく外れるってことじゃ………………
「つ、月夜ちゃんはどんな噂を?」
「そうですねー………………うちでは白峰さんのことを『破壊神』とか『対人バズーカ』とか呼んでましたけど………………ひぃっ!?」
月夜ちゃんの悲鳴に振り返ると、顔だけニコニコした雪乃が仁王立ちしていた。
「ちょっとその噂、よーく聞かせてもらってもいいかしら?」
雪乃っ!?そう言いながら指をポキポキ鳴らすのやめようねっ!?
「はいはい雪乃っ、ステイ!!ステーイ!!………………それに半分ぐらいは事実なんじゃ」
「そ、そんなこと………………」
「ハッハッハ、雪乃はほんとに破壊神だからなっ!!」
いつの間にか文化が背後に仁王立ちしてた。
「文化まで………………私のどこが破壊神なのよ………………ただスパイクが『ちょっと』強いだけじゃないの………………」
「いや、雪乃のスパイクは人間離れしてるから。死人が出るよ確実に。」
「ふみかっ!?」
「………………確かに。照れ隠しでビンタされた時、アゴの骨が折れるかと思ったもん………………」
「折らないわよっ!!………………………………の、望乃夏は私の評判を良くしたいの、悪くしたいの、どっちよ!?」
「んー、………………少しぐらい悪い方がいいかな?」
「な、なんで………………」
雪乃が一歩後ずさる。そしてそのまま、お湯の中にヘナヘナとへたりこむ。………………あ、あれ、言葉が足らなかったかな、やっぱ。
「あ、別に悪い意味じゃないから………………………………雪乃の評判が悪ければ、自然と雪乃に言い寄ってくる『ライバル』も減ってくれて、ちょうどいいかな、って………………………………ごめん、これはボクのワガママ。」
「の、望乃夏………………」
雪乃が目を見開く。そしてそのまま手を伸ばすと、ボクのことを求める。
「ちょ、雪乃………………………………そう言うのは、お部屋で………………ね?」
ぽんぽんと頭を叩いて雪乃を鎮める。
「………………………………あー、うん………………。これで分かったと思うけど………………雪乃は別にそんな、猛獣じゃないから………………。だから、怖がらないであげて?」
慌ててそう付け加えると、やっぱり二人でまた顔を見合わせる。やがて、月夜ちゃんが口を開いた。
「い、いや………………………………ほんとにすごいのってむしろ………………先輩の方なのでは?………………こんな白峰先輩をいいように扱えるんですから………………」
………………………………あ、あるぇー?




