その後は。―望乃夏
「………………もう、ひどいです………………」
もう一人の新入生が涙目で文化のことを睨む。
「い、いやー、なかなかいい反応するから、つい………………」
「文化、ちゃんと責任取りなさいよ?」
「ゆ、雪乃ぉ………………責任っつってもなぁ………………そうだ今夜一緒にもっときもちよっ!?」
「ダメに決まってるでしょーが!!………………文化の節操なし。」
そんなコントみたいなやり取りをよそに、ボクは月夜ちゃんの髪を手ぐしで梳く。
「ツヤツヤしてるね。やっぱり毎日お手入れしてるの?」
「い、いや、割と雑な手入れしてるんですけど………………元がいいのかな………………」
俯いたまま首を傾げるという器用なことをやってのける。っとと、動かないで。
「………………あー、でもなんか、髪が長いと………………動いた時になんかソワソワするというか………………」
「あ、元々短かったんだ?」
「そうっすね………………飛んだり走ったりするのに邪魔だったんで。」
「ふぅん………………あ、終わったよ?」
月夜ちゃんの上からざぁっとシャワーをかけて、雪乃達の所に戻る。
「………………って、まだやってたの?しかもなんか観客までいるし………………」
「文化がみんなに、意中の人をたらし込む方法を伝授してるのよ………………まったく、そう言うのどこで覚えてくるのかしら。」
「生まれた時から知ってたりして。 」
「………………文化ならありえるわね。それにしてもいつまで話してるのかしら。そろそろ風邪引いちゃうわよ、もう………………」
雪乃がつかつかと歩いていくと、文化の首根っこを掴んで湯船まで引きずっていく。
「あたたたっ、ちょ、雪乃、ネコじゃないんだからもうちょっと丁寧に………………」
「文化はこんな扱いで十分よ。」
「ひどいなっ!?」
どっと周りが沸く。………………うーん、さっきから見てて思ったけど、雪乃にしろ文化にしろ愛されてるんだなぁ………………って。
「………………アレはほっといて、私達も入ろっか。」
新入生二人を引き連れて、湯船の適当なとこに腰を下ろす。相変わらず混んではいるけど、それでも寄りかかって足を伸ばせるぐらいのスペースはあった。
「んっ………………はぁっ。」
足の先まで伸びをして息を吐く。………………オヤジ臭いって雪乃には言われるけど、これはやめられないよね〜。
「望乃夏は相変わらずオヤジ臭いわね。」
いつの間にか雪乃が近寄ってきて、ボクの横に腰を下ろす。
「別にいいじゃん。お風呂でゆっくりしたってさ。」
「それは否定しないけど………………動作がオヤジ臭いってことよ。」
「むぅ………………」
なーんかムッとしたので、ほんのり桜色な雪乃のほっぺたをむにむにする。おっ、今日は一段と柔らかいなぁ、むにむに。
「もうっ、望乃夏。遊ばないでよっ。」
そう言ってるくせに、言葉は弾んでて。更にもっとむにむにする。
「もうっ、望乃夏………………ほら、新入生が見てるからっ。」
「………………あ、そ、そうだったね………………」
慌てて雪乃から指を離すと、二人の方をそっと伺う。………………あちゃー、マジマジと見てるしぃ………………
「どうする?忘れさせる?」
雪乃がなんとも物騒なことを言う。
「雪乃、暴力はダメだよ?折角の新入部員なのに………………」
「それもそうね………………。あなた達、そんなところに居ないでこっち来なさいよ。こっちの方が温かいわよ。」
雪乃が手招きするけど、二人共顔を見合わせて固まったまま。
「雪乃、無表情なままそう言われても怖くてこっち来れないと思うよ?」
「………………し、失礼ねっ、私が来てって言ってるのに………………」
「はいはい、雪乃はそのまま待ってて。ボクが連れてくるからさ。」
湯船に立ち上がると、ボクは新入生達の方へと歩き出した。




