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混雑するお風呂。―望乃夏

「おわっ、やっぱり混んでるねぇ。」

「そうね、………………いや、いつも以上じゃない?」

沢山あるシャワーも全部埋まってて、いつも以上に大浴場がざわついている。

「んー、多分だけどさ。いつもは部活だと幽霊な奴らいるじゃん?そいつらが久しぶりに顔出して、それで今帰ってきたんだと思う。その証拠にぐったりしてるのが多いし。」

指さしたその先には、ぐでーっと浴槽で茹でられている人の群れ。………………………………ん?あれは雪乃のトレーニングに付き合わされた陸上部の人じゃない?

「ねぇ雪乃、あそこ………………」

「どれどれ………………あら、長木屋さんと、ルームメイトさんじゃない。」

すたすたと雪乃が挨拶しに行く。

「こんにちわ。………………長木屋さんの具合は?」

「あっ、雪乃ちゃんだっ。有里紗ちゃんなら見ての通りだよ?………………それにしても、うちの有里紗ちゃんをこんなにヘトヘトにさせるなんて雪乃ちゃんすごいね。こんど足見せて?」

「お断りします。………………あと、長木屋さんは走り終わってもケロッとしてましたよ?トドメを刺したのは黒木先輩なんで。」

「むー………………果歩ちゃんったら何教えたんだろ?後で有里紗ちゃんに聞かないと。」

「そ、それだけはっ………………」

………………うん、これ後で騒がしくなるやつだ。くわばらくわばらっと………………。

「………………ふぅ、後が大変ね………………」

「雪乃、おかえり。………………ここ空いたから座って。背中流してあげる。」

「んっ、ありがと。」

雪乃がしゃがむのを待って、頭からシャワーを浴びせる。

「ひゃあっ!? の、ののかっ、これ水っ!!」

「ごめんっ!?」

慌ててコックをめいっぱい捻ると、

「あっづ!?」

「ほんとにごめんっ!?」

ひねりすぎて熱湯にしちゃった………………慌てて真ん中ぐらいにすると、雪乃が恨みのこもった目でじとーっと見つめてくる。

「ねぇ望乃夏、わざとやってない?」

「そ、そんなわけないよっ!!」

「………………ふん。後で覚えてなさい。」

「ほ、ほんとにごめんって………………」

雪乃のご機嫌をなおすためにシャンプーのボトルを取ろうとすると、

「あの、先輩………………こっち空いたんで、どうぞ………………」

「ん、ありがとね。でも雪乃の頭洗うからキミ達が先に」

「い、いえっ!!………………せ、先輩が、どうぞ………………」

「いやいやそっちが………………」

「いいんじゃない?墨森ちゃんが先に使っても。あたしも雪乃のこと洗ってみたいしさぁ………………ぬふふ。」

「………………そ、そう………………?雪乃は………………」

「文化、あくまで頭だけよ?変なトコ触ったらぶっ飛ばすからね?」

雪乃は既に、文化にシャンプーのボトルを渡していた。

「はいはい、分かってますって。安心しな雪乃、これでも妹達の髪で慣れてるからさぁ、墨森ちゃんよりキレイにしてやるよっ。」

そう言うと、慣れた手つきで雪乃の髪を解きほぐしていく。ボクの心の中に、文化への対抗心がころんと生まれた。………………むぅ、次こそはっ。

「あ、あの………………先輩………………洗わないんですか………………?」

「………………ああっ、ごめんごめん。待たせちゃうよね。今洗うね。」

シャワーのお湯を頭からざぁぁっと浴びて、部屋から持ってきたお気に入りのシャンプーボトルを掴………………もうとしてその手が空ぶる。

「………………あれ?」

「あ、ここです………………あの、良かったら頭洗わせてください。」

ミドルロングな髪の後輩が、いそいそとシャンプーボトルを差し出す。

「え、いいよいいよ、自分で洗えるからっ。」

「そ、そうですか………………」

しょぼーんとした様子でシャンプーボトルを返す。………………そんなに気を使わなくたっていいのに、やっぱり運動部特有の『先輩には尽くす』っていうのが染み付いてるのかな?

十分な量を手に取ると、髪にそっと揉みこんでいく。………………そういえば髪に気を使うようになったのも、雪乃と出会ってから、だったなぁ。それまでは漠然とお気に入りのシャンプーでざっと洗って適当に乾かして放置してたけど、雪乃に教えられてからは、丁寧に扱うようになった。………………昔のボクに『オシャレに気を配るようになったよ』なんて伝えたところで信じてもらえないだろうなぁ。ほんとにそれぐらい無頓着だったもん………………。

やっぱり『オンナノコは恋をすると変わる』って、ホントだったんだなぁ。

「………………先輩、このシャンプーって、備え付けのとは違うんですか?」

「うん、これはボクのお気に入り。………………と言っても、雪乃のお気に入りも『これ』だけどね。」

「へぇ………………」

後輩がすんすんと鼻をひくつかせる。いや、乾いてからじゃないと匂いはそんなにないはず………………

「………………後で使ってみる?」

「………………い、いいんですかっ?………………なら、後で………………お願いします。」

後輩にシャンプーを布教した後、またシャワーを頭から被る。さてと、あとは身体を洗って………………

「………………その、せめて背中ぐらいは………………洗わせてください。」

「いや、いいよいいよ。『先輩には奉仕しないとダメ』って教えられてるのかもしれないけどさ、ボクはバレー部の先輩じゃないし。」

「い、いえっ!!………………………………あの、おんぶして寮まで連れてってくれたお礼をまだお返ししてないんで………………それに、私の汗の匂いとかも………………」

後輩ちゃんはモジモジしながらそう言った。………………なるほどね、だから、さっきからずっとボクにくっついてたんだ………………

「………………後輩ちゃんって呼ぶのもアレだよね。名前は?」

「あっ、あのっ………………………………灰谷(はいたに) 月夜(つくよ)って言いますっ。」

「月夜ちゃんね。うん、覚えた。………………それじゃ、背中流してもらっていいかな?………………あ、雪乃の目は気にしないでいいから。」

「そ、それじゃっ………………し、失礼しますっ。」

そっとタオルが当てられると、そのままスッとなでおろされる。

「んっ、もうちょっと力抜いて………………」

その間にボクは『前』を軽く洗うと、雪乃の方を覗きみる。………………あれ?怒ってるのかと思ったら………………呆れてる?

「ひゃっ、ひゃうっ、」

「おいおい、一々エッチな声出すんじゃないよ。」

「だ、だって………………」

「………………………………何してるの?」

湯けむりと近視でよく見えないけど、どうやら文化がもう一人の新入生を座らせて隅々まで洗ってさしあげているようだ………………………………

「………………どうする?月夜ちゃんも洗ってあげよっか?」

横を指さしてそう言うと、

「………………………………い、いや、流石にそれは………………」

と、横を向く。

………………………………だ、だよね………………背中はともかく、自分の大事なトコぐらいは自分で洗いたいよね。少なくともボクはそう思う………………………………

その嬌声(?)をBGMにしながら、ボクは頭を抱えていた………………

望乃夏を取り巻く3人の名前を並べてみると………………面白いですよ?

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