連れ帰りました。―望乃夏
「はい、着いたよっ。」
「あ、ありがとうございます………………」
私の背中から降りると、その子は深々と頭を下げた。
「いいっていいって。……………………で、雪乃と文化の方は………………」
「し、志乃先輩ぃ………………」
「こっちはまだダメね。お部屋に置いてくるわ。」
雪乃はそう言うと、長木屋さんをズルズルと引きずっていく。………………………………い、一体どんなことを教えこまれたんだろ………………
「さて、文化の方は………………」
「こっちも出来上がっちゃったぜ………………」
文化が背中の子を下ろすと、その子はぐったりとその場にしゃがみこむ。
「………………一体何したの?」
「いや、緊張をほぐそうと思ってちょっとしたスキンシップをだな………………」
「………………帰り道さぁ、ずっと『あん♪』とか『きゃっ!?』とか聞こえてきてたんだけど?」
「………………くすぐったがりなんじゃないの?」
文化、目を逸らさないで?
「ただいま。………………ふぅ、大変だったわ………………」
「あ、雪乃お疲れ様………………」
「………………ほんとに黒木先輩ったらロクなことしないんだから………………部屋に送り届けたら、ルームメイトだっていう先輩にこっちがポカポカ叩かれて………………理由を話したら、『後でかほちゃんとこに《めっ!》しに行く』って。」
「ふぅん………………」
あの人が『めっ!』で止まるとは思えないけどねぇ………………
「じゃあ雪乃、私はこいつを送り届けて来るからなー。帰ったら風呂行こうぜ。」
「賛成。けっこう汗かいちゃったしねぇ。」
雪乃が首元を広げてパタパタする。………………き、今日は白なんだ………………ふぅん。
「あ、大丈夫?ちゃんと部屋まで歩ける?」
「ま、まぁ、なんとか………………」
………………うん、ヨロヨロしてるけど大丈夫かな………………
「あ、もののついでにこいつも送り届けとくから。それじゃ雪乃アンド墨森ちゃんっ、また後で風呂ねー。二人でえっちしてて遅れんなよ?」
「「しないからっ!!」」
雪乃とハモる。………………………………ぼ、ボク達ってそんなにしょっちゅう、えっちなことしてるって思われてるのかな………………
「ゆ、雪乃………………」
「………………望乃夏、まさか………………」
雪乃が少しだけ後ずさる。けど、また歩いてきて、ボクの胸に顔を埋める。
「………………………………シたいなら、早く言ってくれればいいのに………………」
「言ってないからね!?………………それに、今日は雪乃だって疲れてるでしょ?これ以上疲れるようなことして………………明日起きられる?」
雪乃が目に見えてしょぼーんとする。………………なんだよ、そういうコトシたいのは雪乃の方じゃん………………。
「………………とりあえず、お部屋戻りましょっか。」
なんだか久しぶりな感じがする寮の玄関へと、私は足を踏み入れた。
「あー、やっぱり『芋煮』だねぇ。」
脱衣場に一歩足を踏み入れて文化が言う。
「………………どうする?引き返す?」
「ここまで来てか?どうせ食堂も混んでるんだ、このまま入っちゃえ。」
そう言うと、文化はずんずんと進んでいく。………………途中ですれ違う人にタッチしたりモミモミしたりと『お楽しみ』は欠かしてないけど。
「………………文化ってなんで怒られないんだろね?」
「私に聞かれても………………ただ、なんか憎めないのよね、文化は。」
そんなことを話しつつ空いているロッカーを探していると、
「………………おや?」
雪乃の肩をつんつんして、とある方向を指さす。
「………………あら。」
そこに居たのは、さっき送り届けたばかりの新入生二人。文化も目ざとく見つけたようで、
「よっ。そっちも風呂か?」
「うわっ!?………………せ、先輩でしたか………………」
「うわってなんだようわって。雪乃ならまだしも」
「誰ならまだしも、って?」
雪乃がコキコキと指を鳴らす。………………いや、そういうことするからみんなに怖がられるんだと思うよ?
「………………足の具合はどう?」
さっきおぶっていた方の子に話しかけると、サッと目線を逸らされる。………………え、なんで!?
「………………だ、だだだだ大丈夫ですっ………………そ、それよりも、お風呂………………」
「あ、そうね………………でもロッカーは5人分も空いてないわね。文化、一緒に入れても大丈夫?」
「おうっ、全然構わないぜ。なんならパンツくれても」
「ぶつわよ?」
………………はは、文化はいつでもフルノッチだなぁ………………
「………………まったくもう………………。あ、その二人はそこを二人で使いなさい。」
「は、はい………………」
どことなくぎこちない二人とは対照的に、ボク達はするすると脱いでいく。文化なんかもう下着一枚で………………あ。
「キミ達、文化の着替えは見ない方がいいよ?」
一応警告しておくけど、既に手遅れで。二人共自分の胸と見比べて、ロッカーに手をついて落ち込んでいた。
「………………着痩せってレベルじゃないわよこんなの………………」
雪乃まで流れ弾食らってるし………………って文化は見せびらかさないで!?………………ほ、ほらぁ………………向こうの方でも流れ弾食らってる人いるし………………いや、なんかあの後ろ姿見覚えあるんだけど………………気のせいかな。
「………………望乃夏、そこの二人、早く脱いじゃいなさい。置いてくわよ。」
早くも立ち直った雪乃が、私達のことを急かしていた。




