アフターは。―望乃夏
「じゃーな雪乃!!ゴチになったぜ!!」
「はいはい………………………………それにしても黒木先輩、財布忘れたとか絶対ウソですよね?」
「今日は星が青いな!!」
「誤魔化さないでくださいっ!?」
………………………………雪乃、大変そうだなぁ………………
「………………よっと。寮に帰る組はこれで全部かな?」
ボクの方も荷物を担いで、文化の隣で雪乃を待つ。
「な、なはは………………志乃先輩………………」
その横には、ちょっと壊れかけの陸上部員さん。どうやら雪乃の知り合いらしい。
「………………全くあの先輩はもう………………絶対踏み倒す気なんだから。………………ほら長木屋さん、気をしっかり持って。」
「なはははは………………………………志乃先輩がそんなことぉ………………」
「………………かんっぜんに飛んでるわね。黒木先輩何を教え込んだのかしら………………」
「………………何でも、尊敬する先輩の黒歴史とかマル秘情報を色々と………………」
「あの人ほんっとにロクなことしないわね………………」
雪乃が頭を抱える。ついでに他の陸上部御一行様も………………
「サーセン、うちのかほっちがバレー部さんでも暴れてるみたいで………………」
「いいわ、連れてきたのはうちの先代部長だから………………」
三年生らしい人が雪乃と謝罪合戦を繰り広げている。………………あのー、どうでもいいけどもう真っ暗なんでそろそろ帰りません?
「雪乃、謝罪はそれぐらいにして………………皆さんをもうそろそろ解放してあげた方が。ボク達だってそろそろ戻らないと、………………これからお風呂が芋煮みたいになるし。」
「そ、そうね………………ゆっくり入れなくなるし、そろそろ戻りましょ。それじゃあ皆さん、解散ということで。………………あ、新入生達は明日明後日は普通に休んで。それから………………そうね、月曜日からまた全体で練習しようと思うわ。だから今週は主に休養で、落ち着いたら自主トレしてて?」
「「「はい!!」」」
新入生達の小気味よい受け答えに雪乃が目を細める。
「それじゃ、寮組は一緒に帰りましょ。悪いけど実家組は、ここで解散、各自で帰ってね。」
「「「はいっ!!お疲れ様でした!!」」」
そう言うと、そのままダッシュして行こうとして………………あ、コケた。
「もう、何してるのよ………………筋肉ボロボロになってるんだから無理しちゃダメよ?」
「は、はーい………………」
「あ、雪乃さん雪乃さん。心配ならこの子達駅まで送りますよ。」
「あら、いいの?………………なら、頼むわね。」
「その代わり後で課題のお手伝いを」
「それが目的なのね………………まぁいいけど。」
雪乃は、陸上部の人に新入生の半分を託すと、残りの半分を連れて寮へと歩き出す。………………あ、新入生がまた倒れた。
「………………………………みんな、よくここまで耐えてたわね………………」
「は、ははは………………甘味に釣られて来ちゃいました………………」
「こ、こんなの………………ぐっ、ち、力が………………」
「………………全くしょうがないわねぇ。んで、そっちは?」
「あ、まだ余裕ありますので………………」
「ふぅん?………………望乃夏、やっちゃって?」
「ほいっ。」
雪乃が何を言いたいのかはなんとなく分かった。すかさず後ろに回って膝カックンすると、ものの見事に地面に倒れ込む。
「………………あのねぇ、我慢強いのと痩せ我慢は別物だから。………………しょうがないわね、望乃夏、文化………………手伝って?」
「え、何を?」
「はいはいそういう事ね?」
よっ、と文化が新入生の一人をおんぶする。ああなるほど、そういう事か。
「………………ほら、乗って?」
「い、いや私は………………」
「その足で寮まで帰れるの?だいたい800mぐらいあるけど。」
「………………………………お願いします。」
羞恥心の方が負けたらしい。素直に私の背に身体を預けてきた。
「さ、あなたも。」
「い、いや私菊花なんで………………」
「あ、なら私が担ぐヨー」
ことも無さげにバレー部の人がその子をかつぎ上げる。
「あら、ありがと。なら私は、未だに立ち直れてない長木屋さんを運ぶわね。」
よっ、と陸上部の子を背負うと、雪乃が歩き出す。
「………………すいません、重いですよね………………」
背中越しに話しかけてくる新入生に、そんなことないよと首を振る。
「………………大丈夫、そこの雪乃よりは重くないから、ね。」
「望乃夏、今なにか失礼なこと言わなかった?」
「別に何も?」
………………危ない危ない、聞こえてたか。
「キャっ!?せ、先輩、どこ触って」
「おっととごめんよっ、いやぁ背負うのは明梨………………あ、妹な……………で慣れてるんだけど、どうも背負うのって難しいよなぁ、おっと手が滑った。」
「せ、せんぱっ、あ、ひゃんっ」
ふと後ろを見れば、文化が後輩を啼かせていた。
「………………雪乃、あれ止めなくていいの?」
「………………文化のスケベに関しては諦めなさい。」
………………あ、諦めていいの………………?
ほんのり暖かい背中に重みを感じながら、一歩一歩寮までの道を歩いていく。
………………………………後で雪乃にマッサージしてもらお………………こっちも筋肉痛になりそう………………




