一方その頃。―望乃夏
「………………ん、とまぁ、こんなもんかな。」
「じー………………………………」
………………うーん、興味持ってくれてるのは分かるんだけど、こう、もっとさ、………………………………凝視する以外の反応が欲しいんだけど………………
「………………樹ちゃーん?」
つんつん、ぷにっ。あ、これクセになるかも。
「………………ぐう、きゅるる」
「おや?」
「あっ………………………………」
樹ちゃんのお腹の音で、やっと我に返る。
「もしかしてご飯食べてない?」
「………………………………はい。」
少し悩んだ末に答える。
「ダメだよ?ちゃんとご飯食べないとっ。………………私はそろそろ部屋に戻るから、そっちもご飯食べてきたらどう?」
「………………わかりました。ところで………………………………ここ、どこ?」
私は盛大にズッコケる。………………………………そ、そう言えば探検してたらここにたどり着いたって言ってたもんね………………………………
「ただいまーっす。………………って、なんすかその子。」
「あ、一十三ちゃんいいところに。………………この子をさ、中等部の食堂まで送ってってくれない?迷い込んじゃったみたいでさぁ。あと、私はもう帰るから、後よろしくね。」
「はいはい、いいっすよ。じゃあ私に付いてきて。」
樹ちゃんはトコトコと一十三ちゃんのあとを追いかけて行く。さってと、私も部屋に戻ろっと。白衣をたたんで荷物をまとめると、テーブルの上に置きっぱなしのペットボトルで目線が止まる。………………あ、これ雪乃のだ。練習場所で分からなくならないように、ってカバーを掛けてあるからひと目でわかる。………………………………しっかし、雪乃だからって雪兎ってのもまた………………そのギャップが可愛いけどさ。
今頃は練習の真っ最中だと思うし、飲み物が無いと困るよね。早く持ってってあげないと。
私は荷物をまとめて理科室を後にする。えっと、この階段を降りて………………………………おっと?道を塞いでるのはだれかな?
「………………ねぇそこの君、ちょっとお茶でも」
「あ、間に合ってるんで。」
強引に押しのけて通ると、後ろから腕を掴まれる。
「つれないっすねぇ、お茶の一杯ぐらい奢りますよ?」
ゆるふわんとした髪を私に顔を近づけてくる。………………………………むぅ、ウザったいなぁ。………………えいっ。
「んおっ!?」
腕をそのまま引きつつ足を払ってすっ転ばせる。………………………………ふぅ、雪乃に教わっておいて良かった。
「あ、ラベンダー。」
ゆるふわナンパ野郎(?)が慌ててスカートを押さえる。………………あ、赤くなった。
「お、覚えてろよっ!!」
しかも捨て台詞を吐いて逃げ出したし………………一体何がしたかったんだろう………………。
気を取り直して階段を降りると、そのまま真っ直ぐ体育館へと歩いていく。………………………………おや?深刻な顔して出てくる子がいるけど………………しかも体操服に、雪乃が付けてるのと同じような膝あてをつけてる子も………………………………。ま、まさか雪乃がまたナニかやったんじゃ………………!?
慌てて走り出すと、今度は肩を貸されて歩く人とすれ違う。今度のは顔が赤く腫れてるし………………………………や、やっぱり雪乃のしわざだ………………。
覚悟を決めて体育館の扉をくぐると、一瞬ざわめきが死ぬ。………………雪乃居た。ずんずんと大股で歩いていくと、目を見開いた雪乃の頭にゲンコツを落とす。
「ゆきのっ!!またなんかやらかしたの!?」
「の、ののかっ………………どうしてここに?」
「………………これ、忘れてたから渡しにきた。そしたら深刻そうな顔して体育館を出てくる人を見て………………」
「あ、ありがと………………で、でもあの3人は私のせいじゃ………………」
オロオロと狼狽える雪乃を見て、周りはみんなあんぐりと口を開く。
(………………オイ、雪乃が壊れちまったぞ………………)
(ユキノって、あんな可愛かったんデスネ………………)
(な、何者なんだ、あの人………………)
ひそひそ声で交わされる会話は、私だけじゃなく雪乃にも聞こえてたみたいで、すぐに頭の先まで真っ赤に茹で上がっていく。私の視線のはしにはニヤニヤする文化の姿が。………………………………あ、雪乃が爆発した。
「ののかっ!!一応言うけど私は悪くないからね!?………………………………あんまり。」
「あんまりって………………やっぱりナニかやらかしてんじゃないかぁ………………」
「………………ぬぅ。………………………………文化、説明して。」
「はいはーい。それでは皆様ご紹介します。こちらに居るのはあの凶暴な雪乃を飼い慣らして恋人にしちゃった墨森 望乃夏ちゃんであります。」
「誰が望乃夏の説明しろって言ったのよ!?さっきまでの事情を説明しろって言ってるの!!………………………………………………………………あと、『飼い慣らした』って何よ、もう………………………………。」
体育館の中はもう、驚きと呆れに包まれてるみたいで。
「あ、あの雪乃を飼い慣らした、だと………………?」
「ってことは、あの望乃夏って子は雪乃よりめちゃくちゃ強いってことだよな………………………………面白ぇ、一発勝負を」
「コラコラ、体育館を壊す気か。………………それにしても、雪乃の恋人ねぇ………………」
「ああ見えて雪乃は墨森ちゃんにデレデレなんすよ?告白した翌日にはデートするぐらいだし」
「ちょっ、文化!?あんまり雪乃とボクとのことばらさないでよ!?………………………………そ、それよりも事の顛末を………………」
ボクの呟きは、体育館のざわめきに押しつぶされた。
結局この後、ボクと雪乃への質問会になってしまった………………。




