表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/46

火蓋を落とせ。―雪乃

とりあえず私は、二時ちょっと前に体育館の前で新入生を待つ。………………そうね、無理してでも来る子は居そうだし、そういう子には悪いけど今日のところは帰ってもらわないと。

で、結局新入生13人のうち体育館に時間通りに来たのはなんと10人。ここまでとは思わず私が面食らうと、

「む、無理しなくてもいいのよ………………?」

と、声をかけるけど、

「いえ、疲れは取れたので。」

と、言い張って休もうとしない。………………………………もしかして、採用方針間違えたかしら?

「………………ふぅん、疲れてない、ね。」

もちろん、ウソをついてる子は一目でわかる。とりあえず私は、一番前に居た子の膝をちょんと叩くと、その子は床に尻もちをつく。同じことを何度か繰り返すうちに、残りは6人にまで減った。

「………………………………全く………………今座らされた人はもっと休憩、そこで座って見てなさい。あと文化、全員に麦茶。」

「ほーい。」

文化達がてきぱきと座り込む新入生を片付ける。さて、残った6人は

「離せって!!あたしはまだやれるから!!」

「はいはいこっち来ようね?そんな産まれたての子鹿みたいなあんよじゃ練習にならないよー?」

「うっせぇ!!6人残したってことはよ………………練習試合、やるんだろ?だったらあたしも混ぜろ。」

「それはもうちょい休んでから―――」

「それにっ!!あたしよかバレーのうまいやつがこの中に居るわきゃねぇだろ。だったら模擬戦で力量を図る必要なんかねぇ、とにかくやらせろっ」

「………………何を騒いでるのよ。」

「雪乃、こいつが言う事聞かない。」

文化に首根っこ掴まれてる子を見れば、度々気にしてた茶髪ロン毛っ子。あ、こっち向いた。

「あんたここの部長だろ?だったらあたしを使ってよ。見た感じこの中にゃあたしよか上手いのなんて」

「夢は寝てから見るものって幼稚園で教わらなかったの?茶色猿。」

私がさらりと言い放った言葉に、その場の空気がしぃんとする。 当の茶髪猿ですら、目をぱちぱちさせて困惑している。………………………………あ、怒った。

「アンタ、今あたしのこと何つった!?」

「一人前の口聞くんじゃないわよ茶髪猿。………………『自分より上手いやつは居ない?』どこ見て夢吐いてるの?」

猿は完全にブチ切れたらしい。

「………………あぁもう我慢ならねぇ!!おいアンタ、さっさと模擬戦しろ!!おいそこのヒョロいやつ以外あたしに付いてこい!!」

私の指示すら待たずに、新入生達を顎で使う。心配そうに私の方を見た新入生には、目線で『付き合ってやんなさい。』と伝える。

………………さて、私達もやりましょっか。いい加減、後ろの部員達もこのまま止めとくことは出来なそうだし。

私は、反対側のコートに一人で立つ。それを見て向こう側からは困惑した声と怒鳴り声が帰ってくる。

「………………………………一人で充分とか最強気取りか?」

「雪乃、流石に一人じゃ無理だろ。セッターとレシーバーどうすんだよ。」

「………………確かにそれもそうね。それじゃ、黒木先輩とジュリ入って。」

「ハッ、出番かよ。」

「かほっちやっちゃえー!!」

「かほっち言うなっ、ムードが冷める。」

かほっち―――黒木 果歩先輩が舌なめずりすれば、

「ユキノ、あと3人どうするノー?」

みんなより頭一個抜けた壁――そう、壁役のジュリ―――田村ジュリアス・キリが首を傾げる。

「ハッ、この3人で用は足りんだろ。」

「ダメですヨー。半分の人数に負けたなんて思い知らされたらー、この子達逃げ帰ってママのお膝で泣き叫ぶネ。やるならテッテイテキに、ですよ?」

「ふむ………………それもそうね。なら残りの3人は――」

「あたし達がやるよっ。」

懐かしい声に顔を向ければ、

「………………鷹城先輩に、経堂先輩………………」

「よっ。なんか面白そうだから来てみたわ。」

「全く………………………………そんな様子じゃまだまだ部長の器じゃないぞ?エース。」

一歩足を踏み入れると、新入生達の中からざわめきが生まれる。………………でしょうね、鷹城先輩は中学の時から名前が売れてたし、実際あとを追いかけてた子も多かったしね。………………………………って、サイン貰いに行く子まで………………

「おっし、とりあえずは5人揃ったな。さて、あと一人は………………」

「文化、お願い。」

迷わずに私は文化を、残りの一人に指名する。

「………………へ?あたし?」

「贔屓目抜きに文化のリベロは敵に回したく無いから。………………………………そのことを、向こうに身をもって知ってもらいましょ?」

「確かにこいつのリベロはな………………」

みんなして天を仰ぐ。………………うん、良くはないけど悪くも無い。そんな平凡な性能だけど、絶対敵に回したくない理由はいくつかある。それは………………………………

「………………お前ら落ち着けよっ!!どれだけ名前が売れてようと『死んだエース』にビビっても」

「………………………………何か言ったか貴様?よく聞こえなかったんだが?」

鷹城先輩が目を細める。同時に向こうの6人のうち、気弱そうな2人がその場にへたりこむ。

「………………ひ、久しぶりに出たな。カケルの視線………………」

誰かがゴクリとつばを飲む。………………………………そう、鷹城先輩の感情が昂ると、鋭利なナイフよりも鋭い視線に襲われる。………………これが、『鷹』の二つ名のもう一つの意味。

「へへっ、やっぱカケルはこうじゃねーとなっ。最近のカケルは大人しくて張り合いなくてなー。」

「………………………………アズミうっさい。」

スッと視線が和らいで、雰囲気が一瞬で丸くなる。

「………………………………あんたのせいじゃん。こんなんになったの。」

「………………………………キレたナイフの方も好きだけど、今の飄々とした方も好きだぞ?」

「………………………………先輩達、そう言うのは部屋でお願いします………………」

………………ほらぁ、新入生達ぽかーんっとしてるし………………………………あ、向こうの猿がもうそろそろ暴発しそう。

「あ、せっかくなんで鷹城先輩、一発打ち込んであげてください。」

と、鷹城先輩に最初のサーバーを任せる。

「勝手で悪いが………………行かせてもらうぞ。」

初球が高く上がって、相手のコートへと刺さった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ