大穴の中で
彼が生まれたのはいつだったか、覚えているものはもう無い。
彼はただ苦しみ哀願し、亡くした友人を探していた。
どこかでもう会えないと分かっているのだろうが、それでも探し続ける。
海の底に落とした砂粒ほどのダイアモンドを水中眼鏡もせずに探し続ける。
地中に潜っては探し潜っては探し、時々休み、そして探す。
彼に友人が出来るまで彼は人間が大嫌いだった。同胞は皆殺され生き残った者らは皆兵器か、実験と称し空の上に放り出されるばかりであった。
彼もまた人間に捕まり兵器とされた。彼が滅ぼし殺した人間の数は計り知れず、挙句に自らを兵器とした人間にも怖れられた。
それでも彼に友人が出来た。彼女は彼の最後の友人である。彼が兵器になってしばらくしたある日、彼が訓練をさせられていると、石畳の道をとある戦車が走ってきた。やがて彼に指図する人間の前で止まると中から顔を出したのは一人の人間だった。
彼女はとても優しく、そして彼と話すことが出来た。よくご飯をくれたし、よく傍に居てくれた。
寄り添ってくれた。彼女は他の人間と比べると小さく幼かったが彼を怖れず、彼の最後の安らぎであった。
しかしそれは唐突に失われた。
彼を狙って敵の国が攻撃をかけてきたのだ。彼を生み出した人間も、彼を怖れてきた人間も沢山死んだ。
彼も戦った。戦い、戦い、戦い続け、そして戦った。
気がつけば周りには残骸と死体と他の機械ばかりだ。
彼は疲れ果てていたので友人に癒されようと思い、友人を探した。だが彼女はもういなかった。
代わりに見つけたのは石畳の道だった。
彼は思った。
彼女はこの先に居るのではないか・・・と。
そして彼は彼の中の戦争を終わらせる為に旅に出た。
目を覚ますと闇の中である。
体中が痛み全身の打撲を物語る
うめき声を出しながら体を起こしぼうっとした脳内と現在の状況整理を行う。
どうやらここは大穴の中らしい。シュレディンガーがこちらの安否を確認する。それに返事をして、明かりを点けるように促した。
戦車のヘッドライトが穴の奥を照らすが決して先は見えなかった。戦車のエンジン及び駆動音、履帯が車輪に噛み合い出すキュラキュラという音が反響しまるで深海にある工事現場のようだとシュレディンガーが言う。
私は打撲の痛みによって戦車の中で座ることが出来ずにいた。辺りはひんやりとして最初の砂漠と比べるとさむすぎるほどであった。
シュレディンガーに暖房の有無を問うと、エンジンにくっついたらどうだと返ってきた。
少し憤慨するとシュレディンガーは言い訳がましく戦車の性能の低さとここは洞窟にしてはむしろ暖かい方だと語った。どうやらこの大穴が出来たのはつい最近のことらしい。
私はあまりの寒さに堪らず車内へ逃げ込み早々に寝ることにした。




