表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼かヒトか、妖か  作者: 雪鞠至
第一章 
15/23

第十四話 御影と伊澄


 いったいどれくらいの間泣いていたのだろう。


「ごめん伊澄。もう大丈夫だから」


 落ち着いた私はゆっくり伊澄から離れる。恥ずかしくて顔を上げられない。

 しかし伊澄に顎を掴まれ、顔をあげさせられてしまう。


「ふっ……ひどい顔」


 伊澄に笑われ、恥ずかしくなって顔を背ける。


「わ、悪かったわね……」


 私の様子を見て、伊澄が私の腕を掴み、引き寄せる。そのまま伊澄の腕の中に閉じ込められ、逃げられなくなる。


「なんだ、拗ねたのか? ひどい顔だが、俺は嫌いじゃないぞ」


 伊澄に耳元で囁かれ、恥ずかしくなり伊澄を押し返そうとするがビクともしない。


「も、もうわかったから‼ 離して‼」


 しかし伊澄が私の願いを聞き入れるはずもなく、伊澄は私を抱きしめたままゆっくり口を開いた。


「お前の呪いは俺がどうにかする。だからお前は何も心配しなくていい」

「え? でも、おじいちゃんが調べて見つからなかったのに、どうするの?」

「お前、俺は鬼の一族のトップなんだぞ。道山よりも顔が広いからまだ手立てはある。だから、もう諦めたりすんな」

「う、うん……」


 絶対に大丈夫だという根拠はないはずなのに、伊澄がそう言うなら本当に大丈夫なように感じるから不思議だ。


「そういえばお前、どうやって家から抜け出したんだ? 従姉妹と暮らしてるんだろ?」

「そうなんだけど……瑞樹さんは急に仕事が入っちゃって、今は私しか家にいなかったから」

 

 それを聞くと伊澄は「は⁉」と言いながら私の体を引き離し、顔を覗き込んだ。


「お前、家に帰っても一人なのか⁉」

「え、うん。仕事が忙しいみたいで、昼には帰って来るって……」


 伊澄は深いため息をついてから、私を抱き上げた。いわゆる、お姫様抱っこだ。


「な、なに⁉ 下ろして‼」


 私は驚き、足をジタバタさせるが伊澄は下ろしてはくれない。


「おい、危ないだろ! お前貧血でフラフラしてんだから大人しくしてろ!」

 

 伊澄はそれだけ言うと、私の言うことなど聞かずに私の家とは反対方向に歩き出した。


「伊澄、私の家は反対だよ?」


 単純に間違えたものと思い、伊澄に声をかけるが伊澄は全く方向を変えようとしない。


「ねぇ、伊澄。そっちは伊澄の家がある方だよ」

「だから、俺の家に行くんだよ」

「え⁉」


 驚いて伊澄の顔を覗き込むが、飄々としている。


「お前今日はうちに泊まれ。家に一人だとこっちも心配で休めないんだよ」

「……私、もうあんなことしないよ?」


 伊澄はまたため息をつくが、私を見る目は優しい。


「わかってるよ。それでもまた妖怪が襲ってきたら困るだろ。あいつら自分の欲望でしか動かないからな。お前が襲われないように色々準備してやるから、今日は諦めろ」


 伊澄が私の身を心配して言ってくれているため、今日はお言葉に甘えて家にお邪魔した方が良さそうだ。


「何から何まで、ごめん」

「別に、俺が好きでしてるから気にするな。そこは礼を言え、礼を」

「……ありがとう」


 伊澄は「それでいい」とだけ言って、歩き続ける。伊澄にこれ以上負担をかけまいと大人しくするが、この状態で黙っていると恥ずかしいため、話題を探す。


「そ、そういえば、どうして学校の制服着てるの? それ、御影さんの?」

 

 問いかけると、伊澄は何を言っているんだと言わんばかりの顔で私を見る。


「お前……まだ気づいてないのか?」

「え? 気づいてないって?」


 伊澄は深いため息をついてから呆れ顔で答える。


「お前、頭良さそうなのにな……。御影紫季は俺が人間として生活している時の仮の姿だ。双子っていうのは嘘」

「え、えぇ⁉」


 突然のことで状況がうまく飲み込めず、伊澄の言ったことを整理する。


「え、み、御影さんは伊澄で、えっと、双子じゃない……?」

「そうだよ」

「で、でも、性格が……」

 

 伊澄はばつが悪そうに苦笑いする。


「それは……学校だとあんな風に振る舞ったほうが楽だからだ」

 

 私は未だ御影さんの正体が伊澄であることに納得できず、じっと伊澄の顔を見る。

 今の伊澄は髪と目以外はどこからどう見ても御影さんだ。それは二人が双子だからだと信じていたが、学校で初めて会った時も妖怪を倒した時も、それは伊澄本人だったのだ。


「そっか……じゃぁ、御影さんはいないんだね……」


 私は御影さんがいた学校生活が懐かしいような感覚になり、ポツリとつぶやく。

 伊澄は私のその姿が落ち込んでいるように見えたのか、少し焦ったような口調になる。


「な、なんだよ。御影は俺なんだから、別に落ち込むことないだろ?」

「うん……。でも、まだ実感がないっていうか……」

「…………」


 伊澄は黙り込んでしまい、どうしたのだろうかと顔を上げると、拗ねたような顔をしていた。

 小さい子供のような反応に、私は心の中で「しまった」と思った。


「い、伊澄! 御影さんだった伊澄がいいとかじゃなくて! ただまだ伊澄の言っている事が整理できていないだけだから! 私は、今こうして一緒にいてくれる伊澄がいいと思ってるから!」


 伊澄は私の言葉に足を止め、驚いたような顔で私を見つめる。

 私も勢いに任せてかなり恥ずかしいことを言った事に今更気づき、顔が熱くなる。


「お前……」

「い、伊澄……?」


 伊澄は私をまっすぐ見つめ、私も伊澄の澄んだ瞳から目が離せないでいると、伊澄が急に吹き出した。


「くっ……くく……お前、顔真っ赤……」

「……‼」

 

 伊澄が私の顔を見て笑いを堪えている。これ以上真っ赤な顔を見られたくなくて私は顔を伏せる。


「もう、焦って損した!」


 私がむくれると、伊澄はニヤリとしながらいたずらっぽく言う。


「ま、御影にはまた学校で会えるから楽しみにしてろよ」

「……その意地悪な性格、バレちゃえばいいのに」


 伊澄は「お前も言うようになったな」と笑う。

 私はずっとこの笑顔を見ていたいと感じながら、伊澄に寄りかかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ