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鬼かヒトか、妖か  作者: 雪鞠至
第一章 
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第九話 誕生日ケーキ


 学校帰り、私は日菜子ちゃんとの話が気になり伊澄のいる屋敷まで来た。

 御影さんに聞くより伊澄に直接聞いた方がいいと思い、御影さんの所には行かずそのままここまで来た。

 しかし、何度呼びかけても、門を叩いても誰も出て来なかった。


「もしかして、今日はいないのかな……」


 あまり時間もないので、しばらく待ってから諦めて帰路についた。



「はぁ……。遠いな、三好山」


 車の後部座席に制服を着た伊澄が寝そべり、ぼやいていた。


「まだ二時間はかかりますよ。これでも急いでいるので我慢してください」


 運転席で運転している翠は前を向いたまま伊澄に言い聞かせている。


「あー……早く着いて欲しいが、あのジジイには会いたくない……」

「シキ様は昔あの山に修行で預けられて以来、道山のことが苦手ですね」

「お前、あいつがどれだけ厳しかったか知らないだろ。地獄のような日々だったんだからな……」


 伊澄のうんざりした様子に翠は笑っている。


「ふふ、あの頃のシキ様は泣き虫でひ弱でいらっしゃいましたからね。見かねた父上様が、まさか人間の元に修行に出すとは思いませんでしたが」

「……修行っていっても一週間くらいしか行ってない」

「でも、あの修行の後のシキ様は見違えるように勇ましくなられました。それまでは逃げてばかりだった修行も積極的に参加するようになりましたし」

「…………」


 伊澄は不本意そうに黙り込んでしまうが、翠は気にすることなく話しかける。


「そういえば、宇城様には会われなかったんですか? 彼女もあの山に住んでいたはずでは?」

「……会った覚えはないな。妖怪の変なガキにバカにされたことは覚えてるが、あれは男だったし」

「それが気に障って強くなったとはいえませんよねぇ」


 翠は愉快そうに笑うが、伊澄は不機嫌になり、そのまま横になる。


「黙って運転しろ。俺は寝る。着いたら起こせ」

「かしこまりました」


 翠は運転しながら笑いをこらえているが、伊澄は気づかないふりをしてそのまま目を閉じた。



 家に帰ってきてすぐに、私と瑞樹さんはケーキ作りを始めた。

 手作りで作るなら簡単なショートケーキ風のフルーツケーキを作ろうと、大量のフルーツ缶詰と苺を用意した。


「うん、うまく焼けたね〜! スポンジは冷ましておこうか」


 スポンジケーキが焼けた後は、生クリームを泡立てていく。その間に瑞樹さんが盛り付けるフルーツの用意をした。


「結構上手に焼けましたね。あとは盛り付けをするだけです」

「そうだね! 案外簡単に作れるもんだね〜」


 スポンジが冷めた頃合いで生クリームを塗り、フルーツをトッピングしていく。しかし、ケーキ上の中心部分だけ不自然に空いていた。


「瑞樹さん、ここには何も飾らないんですか?」

「ん、ああ! そこにはね……」


 瑞樹さんは冷蔵庫の中から、小さな箱を取り出した。


「実はね、ケーキ屋をしている友達がいて、特別に作ってもらったの!」


 瑞樹さんはその小さな箱の中から黒い板のようなものを取り出し、それをケーキの真ん中に傾けて置いた。


「‼ これ……‼」


 その黒い板はよく見るとチョコレートだった。そして、その小さい板状のチョコレートには「ハッピーバースデーいずもちゃん‼ 18歳おめでとう‼」と書いてある。


「上のトッピングだけ作ってもらったの! 結構この色合いが可愛いよね」


 瑞樹さんは上手にできたと言いながらスマホで写真を撮っている。私は嬉しくてしばらくそのケーキを眺めていた。

 するとその時、瑞樹さんのスマホが鳴った。


「あれ、会社から電話? ごめん、ちょっと出てくるね!」

「はい、行ってらっしゃい」


 瑞樹さんは廊下に出てから電話に出た。

 何を話しているかはわからないが、会社からと言っていたので仕事の連絡だろう。

 私はしばらくケーキを眺めてから、皿とフォークを用意する。しかし、このまま食べてなくなってしまうのは勿体無いと思い、私もスマホで写真を撮る。


 明日伊澄に自慢しよう。


 そんなことをふと考えたが、なぜ伊澄のことを考えているのかわからず、内心慌てる。

 あたふたしていると、瑞樹さんが電話を終えて戻ってきた。しかし、その表情は何故か暗い。


「瑞樹さん、どうしたんですか? なんか元気ないですけど……」


 尋ねると、瑞樹さんは床に膝をついて崩れ落ちた。

 体調でも悪いのかと思い、慌てて瑞樹さんに駆け寄る。


「大丈夫ですか⁉ 気分が悪いんですか⁉」


 しかし、瑞樹さんは首を左右に振る。気分が悪いわけではないようだ。


「違うの……。ごめん、出雲ちゃん……」


 急に謝られ、何があったのかわからず瑞樹さんが話すのを待つ。


「実は……今日の仕事で後輩がヘマやらかしたみたいで……今から、会社に戻らないと行けなくなっちゃったの……」

「え、今からですか?」

「うん、しかもかなりやばくて……今日は泊まり込みで仕事しに行かないといけない……」


 瑞樹さんは半泣きで謝っているが、瑞樹さんが悪いわけではない。


「そんな、謝らないでください。それより大変ですね、こんな夜にまた仕事なんて……」

「本当に……。せっかくケーキ作ったのにごめんね。先に食べてていいからね?」

「いえ、明日食べましょう! せっかくですから、やっぱり一緒に食べたいです!」


 そう言うと、瑞樹さんは私に抱きついた。


「ありがとう、出雲ちゃん〜! もう後輩しばいてさっさと仕事終わらせてくるから! ごめんね、夜一人にしちゃって……」

「いえ、私のことは心配はしなくて大丈夫です。仕事だから仕方ないですけど、無理はしないでくださいね」


 瑞樹さんはまた泣きそうになりながらお礼を言い、仕事に行く準備を始める。

 私は瑞樹さんが仕事で食べられるような軽食をお弁当に詰め込んだ。


「んもう、本当にごめんね〜。せっかくケーキ作ったのに、すぐ食べられないなんて……」

「私より、瑞樹さんの体調の方が心配です。はい、これお腹空いたら食べてください。軽いものしか用意できませんでしたが……」


 瑞樹さんに先ほど用意したお弁当を渡すと、瑞樹さんはまた泣きそうになっていた。


「出雲ちゃん、なんて優しいの〜! 大事に食べるね! あと、私が出た後しっかり戸締りしてね! 帰るのは明日の昼になりそうだから、その時は連絡するから!」

「わかりました! 瑞樹さんも気をつけてください」


 瑞樹さんは行ってきますと言って家を出る。私は瑞樹さんに言われた通りに戸締りの確認をする。


 今は二十時……、私が誕生日を迎えるまであと四時間。

 瑞樹さんが仕事に行ってしまったのは寂しいが、これなら瑞樹さんが危険な目に遭うことはないはずだ。

 ある意味これで良かったのかもしれない。

 十八歳を迎えた時……私は、多くの妖怪から狙われるようになるから。


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