混沌とする食事会
「ハァハァハァ、ハァハァ」
黒く細い路地裏、闇が後ろからまとわりつくように広がっていて、夜空の光が嫌らしく、走る少年を見つめている。
―――――――――――どうして、こんな
少年は今、ある男達に追われていた。その男達は全員銃を持っていて、少年を殺そうと殺意を向けてくる。
何の武器も持たない彼は、ただ、逃げることしか出来なかった。
「いたか? 早くしないと」
「いや、こっちにはいなかった。ここを探してみよう」
「!」
男達の声が近くから聞こえてくる。
―――――――そんな、もうこんな近くに
少年はどこか隠れられそうな場所を探す。が、そんな場所どころか、隙間すら見つからない。
「おい、こっち探したか?」
「まだだ」
「よし、行くぞ」
「!?」
逆方向からも声が聞こえてくる。このままでは挟み撃ちだ。
―――――――どうする? どうする!?
少年は、その場で狼狽えることしか出来なかった。
なぜ、少年がこのような状況に陥っているのか?
それは、今日の朝7時まで遡る。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『え~、最近、発症する確率がどんどんと増加している強肉症、これは一体どういう病気なのか? 専門家の八つ橋さんに来てもらっています』
今日は土曜、つまり祝日だった。
この日は、少年は家でゆっくりしているつもりだった。親は朝から外出中だし、毎日世話してくれる幼馴染みがいるわけでもなし。誰にも邪魔されずに過ごせるハズだった。
『どうも、それではご説明します。
強肉症、これは発症した人が強く肉を求めるというところからきています』
『肉を求める?』
特に興味の無いテレビ番組をつけながら、少年は畳の部屋で寝転がっていた。
(やることが思い当たらない)
少年は何をするわけでもなく、時間を浪費していた。
『ええ、感染者はどんな種族の肉も平等に食べようとしてしまうんです』
『え、えっと、それはどういう?』
『分かりやすく言うとですね、見境なく動物の肉を食べようとしてしまうんですよ』
いざ、こうやって何でも出来る時間を持ってしまうと、人はこんなにもやることが思い当たらないものなのか。
少年は、とりあえず携帯を取り出して、何か面白いアプリでも無いかと探し始める。
『他の動物の、ですか?』
『いえ、同族でも求めてしまうのです。強肉症の怖いところはここにあります。人がかかってしまえば、その者は同じ人だって食べようとしてくるんです』
『そ、そんなに怖い病気なんですか?』
アプリを探したところ、これといって何かあるわけでは無かった。
(あぁ、本当に暇だ)
少年は大の字になり、天井を見つめ出す。
(……………あんなとこに染みができてる)
暇すぎて、そんなどうでもいいことを考えたりも。
『はい、感染者の半分の者は理性でそれを抑えることが出来ると言いますが、ようは二分の一の確率で狂暴になると言うことです。しかも、感染者は筋力が強化され、中々死ににくくなります。例え心臓を撃ち抜こうとも、一時間は生き残るそうです』
『一時間もですか!?』
『驚きですよね? 私も、初めはこれに驚きました』
『なるほど、それであの法律ですか?』
『はい、その通りです。
死滅令、響きは悪いですが、他の沢山の一般人を守るには適した法律だと私は思います』
『そうですね。初めはやりすぎだと思っていた私も、今の話を聞いた後だと仕方ないと思ってきてしまいますね。
今日は有難うございました、八つ橋さん』
そうして、テレビ画面が切り替わった。
特にそのことについて関心が無かった少年は、携帯で面白いスレを探している最中だった。
そんな中で、あることに思い出す。
「ご飯、食ってないや」
まだ朝食をとっていない。
そのことを思い出した少年は、台所へと向かい出す。起き上がる時の様から、本当に気だるいのかと思うぼど、少年はだらけていた。
この時の少年は、まだ分かっていなかったのだ。いや、分かるハズも無かった。
今、テレビでやっていた内容が、自分に降りかかってくるなんて。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
昼の十二時頃、家には何も無かったため、少年はコンビニに昼食を買いに外出していた。
太陽の光が眩しく、今にも溶けてしまいそうだ。夏でもないのに、そんなことさえ思わせるほどの惰弱な雰囲気を醸しながら、彼は道を歩いている。
(あー、しんどい)
ゆっくりと、まるで重りでもついてるかの如く、一歩一歩進む少年。
まだ十七だと言うのに、なぜそんなにも情けないのか?
少年がコンビニまで歩いていると、道で気になる物を見つけた。物と言うよりは建物だ。大きな屋敷が木と木に囲まれるようにそびえ立っている。
(こんなの、あったっけ?)
少年は訝しげにその建物を眺める。
いや、建物自体は前から存在していた。それでも彼が疑問を抱いたのは、そこから溢れている負のオーラとでも言うべき禍々《まがまが》しい空気が漂っていたからだ。
これは一体、何なのか?
そうやって、興味深く眺めていたからこそ、彼は気付かなかった。すぐ横から、真っ黒い影が近寄ってきてることに。
何が起きた?
少年は顔を上げて状況を確認しようとする。が、
「っつ!」
激しい頭痛が彼を襲う。まるで、何か鈍器で叩きつけられたみたいだ。いや、実際そうなんだろう。
少年は、今の今まで気絶していた。自分の家でではなく、どこかも分からない場所で。
このことから、まず間違いなく第三者から手を加えられてることは明らかだった。
少年はゆっくりと体を起こし、目を少しずつ開けていく。
「……………………何だよ、これ?」
目の前の非現実に目を疑う。
目に入ってくるものは、平等に、赤、赤、赤、赤、赤――――――。
自分の姿でさえ赤く染まって、一面真っ赤となっている。
そして、口に広がるのは、美味しいと思う反面、気持ち悪いと思う柔らかい感触。
訳が分からない…………。
「何だよ、何なんだよ! これは一体!!」
思考が安定しない
何を考えれば、どう動けばいいか、全く分からなくなっいる。
グチュ グチュグチュ グチュ
「……………え?」
パニックになっていて気付くのが少し遅れたが、近くから嫌な咀嚼音が聞こえてくる。まるで、液体に浸した肉を食べる時のような、怪奇的な音だ。
「……………こっちの方から……?」
少年は恐る恐る、音が聞こえてくる方向の曲がり角から覗いてみた。
「っ!?!?」
言葉を失った。
あまりにも非人道的、あまりにも歪。
そこでは、複数の人間が、複数の人間を食べていた。
まるで、集まって食事会でもしているような、いや、その表現は適切ではないな。獣が、獲物を貪り尽くすかの如く、人が人を喰らっている。
(何なんだ!? 何なんだよ?!!)
とりあえず、少年はその場から離れようとする。
このままここにいたら、自分までおかしくなってしまいそうな、そんな感じがしたからだ。
「だ、誰かに言って、警察に連絡して貰って」
食事をしているヤツらとは反対側の道を歩き出す。
でも、ここで少年は深く考えるべきだった。
どうして自分がここにいるのか? どうして自分には血がついているのか? そして、どうして口の中に広がる味を美味しいと思ってしまったのかを。
少年もまた、ヤツらと同類になっていたと言うことだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
それで現在へと至る。
誰かに警察へと思い路地に出たはいいものの、服が赤く、口に血がついた人間など明らかに怪しまれるに決まっている。そんなことも分かっていなかったのだ、今の少年は。
逆に通報され、すぐに黒いスーツ姿の男達が現れ、そこからずっと追い掛け回されていた。
「どうする? どうする!?」
このままだとほぼ百パーセント挟み撃ちにされて終わりだ。
(何か無いか!? この状況を打破できるような何か!)
少年は必死で周りを確認していく。いくら確認しても、無いものは無いのに。
それでも、諦めることなんて出来はしない。出来る訳がないんだ。
人に生まれた以上、最後まで生き残ろうとするのは当たり前の感情だ。例え、病気に蝕まれようともそれは変わらない。
少年が追い掛けられている理由、それは、死滅令という新しい法律のせいだ。
この法律を簡単に言ってしまうと、強肉症に侵された患者を殺害せよというものだった。
で、あの黒服達が、それを執行するための特別な役人と言ったところだ。
殺害理由、それは、強肉症患者による一般人の被害をこれ以上増やさないためだ。
これは、正義のための殺害と言える。
辺りを見回す少年、何も無い路地裏、迫ってくる殺人官。
この状況が、どんどんと少年を極限状態へと追いやっていく。
「……………この壁、登ることは出来ないか」
本当に馬鹿な思い付きだった。
特に手をかけるような窪みも無い絶壁。普通の人間なら、まず登ることなと不可能な壁。
だと言うのに、常人を遥かに越えた指圧で壁を登っていけてしまう。最早、人間技ではない。
「いた! あんなところに」
少年が壁の半分以上登ったところで男達に気付かれた。
――――――――――マズイ! 早く、早くしないと!
さらに登るスピードを加速させる少年。それを撃ち落とそうと男達が発砲してくる。
いつ弾が当たるかもしれない恐怖。少年の心臓は、かつてないほど荒ぶっていた。
「ハァ、ハァ、ハァ、」
幸い、弾は一つも当たらずに登りきることが出来た。けれど、追い詰められてるのには変わりはない。
まず思いだそう。何で、こんなことになったのか。
確か、昼ごはん用の食材が何も無かったから、コンビニに買いに行こうと思って………………
そしたら、怪しげな雰囲気になっていた屋敷を見つけ…………
そうだ、屋敷だ! 屋敷を見てからの記憶が無い。多分、屋敷には何かあるんだ。そうに違いない!
少年は、ない頭で必死に頭を回した。
特に確証があるわけでもないし、もしかしたら、気絶させられたのがたまたまあの屋敷の近くだったってだけかもしれない。
それでも、すがらずにはいられなかった。やっと見つけた、希望なのだから。
少年は、人通りの激しい大通りを歩いていた。
こんなに人がいれば、無闇に発砲出来ないだろうと考えたからだ。見つけるのも困難だと思う。
「おい、反応があった。この近くにいるぞ」
「!?」
聞き覚えのある声がして後ろを振り返ると、さっきの黒服共がニ、三人集まっていた。
(な、何でこんな早く? てか、反応って何だよ!? そんな嘘発見器みたいなのあんのかよ?!!)
だが、ハッキリと見つかった訳ではない。
少年はこっそりとヤツらから距離を取ろうとする。
が、
パァン パァン
「え?」
鳴り響く発砲音。
後ろから数発の弾が射出される音がした。
―――――――まさか、まさか!!
少年は後ろを振り返る。すると、何人かの人が倒れるのを目にした。
「あ、あぁ、あ、」
数秒の混乱の後、一斉に沸き起こる悲鳴。人が雪崩のようにそこから離れだした。少年もそれに同調するように走り出す。
―――――――何を考えているんだ、アイツらは!?
とにかく、捕まったらヤバい。
少年は姿勢を低くし、人と人の間を物凄い早さで駆け抜けていく。自分でもどうしてこんな速さが出るのかは分からなかったかが、今は本当に有り難い。
少年は黒服の方を見てみる。相変わらず発砲しまくってはいるが、どんどん距離は離れていっている。
まだ安心するには早いが、少しずつ心に落ちつきが出てきた。
けれど、それもすぐにかき消されることとなる。
ドッ
―――――――――――――――――え?
少年の丁度、左膝辺りに穴が空けられた。血が溢れてくる。
―――――――何で? どうして!?
スナイパーがいたのだ。
ソイツは、少年が尋常ではないスピードで駆けるのを見つけ、撃ち抜いたのだ。
「ぐっ、う、うぅぅ」
痛みが、脚を侵食してくる。火でも近付けてるかの如く熱い。少年はそれにただ悶えることしか出来なかった。
「大丈夫か坊主!」
そこに中年ぐらいのおじさんが手を差し伸べてくれた。
少年はその手を握る。
「ひどい傷だな。ヤツらの流れ弾が当たったのか?」
おじさんは少年を肩にかけ、引きずりながら一緒に逃げてくれる。
その時、丁度少年の目におじさんの首が目に入った。
「っ!」
沸き上がる食欲。
食べたい。この人を堪らなく食い千切りたい。
「!?」
少年はすぐに正気に戻り、今の考えを頭から追い払う。
(何を考えているんだ!? この人は今、リスクを承知で俺を助けてくれてるんだぞ!!)
少年は気をまぎらわすためにもおじさんに質問を投げ掛ける。
「おじさん、何で?」
「あ? そんなの、可哀想だからだよ。あんたみたいな年の兄ちゃんがこんなとこで死ぬなんて、あっちゃならねぇ」
とても優しい答えだった。
今まで散々追い回されていたからか、目から涙が零れそうになる。
「にしても、何者なんだヤツらは?」
おじさんが後ろを見ながら聞いてくる。
「…………多分、死滅令っていうのの執行官かと」
「はぁ? 死滅令? それって強肉症っつう病気の奴のみに適用される法律だろ? それが何でこんなことになる?」
「これは俺の推測なんですが、死滅令が発令されたって言うことは、ここは危険指定区域、つまりは立ち入り禁止区域になったってことじゃないんですかね?
アイツらからしたら、そんなとこにまだいるお前らの方が悪い、みたいな理屈なんじゃないかと」
「んな滅茶苦茶な!」
おじさんは悲痛を叫ぶ。
当然だ。こんなことになっている理由が理不尽なものだと知ったんだ。少年も立場が逆なら同じように叫んでいただろう。
「……………おじさん、下ろしてくれ」
少年はおじさんに手を離すよう要求する。
「何言ってんだよ! こんなとこで下ろしたりなんかしたら」
「このままじゃいずれ二人共追い付かれて終わりだ! だから、おじさんだけでも逃げて」
「だ、だが、お前さんは」
「大丈夫だよ。一か八かだけど、そこの路地裏に逃げ込んでみる。もしかしたら、おじさんより安全かも」
ニッコリと笑っておじさんを説得する少年。
彼がこんなことを言うのには理由が二つ。
一つは、自分のせいでこの人まで巻き込んでしまった罪悪感。
もう一つは―――――――――。
「おじさん!」
「っ! ………分かった」
そうしておじさんはゆっくりと少年を下ろしてくれる。
「必ず生き残れよ」
それだけ言っておじさんは去っていった。
「有り難うおじさん」
少しして、おじさんが見えなくなってから、少年は立ち上がった。痛みはある。けど、歩けない程ではない。
強肉症の影響だろうか? 傷の治りが早い。
少年はさっき言ったように路地裏へと入ってった。
「ハァ、ハァ、ハァ、」
屋敷の方に向かって走っている。
さっき大通りに出たおかげで、ある程度場所の把握は出来た。
屋敷まではもう少しだ。
ドッ
「ぐっ!?」
再び射撃される。またしてもスナイパーだ。
「……………そこか」
「ふふ、逃がさないよぉ」
スナイパーは、大通り近くの一際高い建物の屋上にいた。
「これなら無駄な一般人を殺すことも無しに君を殺せる。路地裏に入ったのは愚作だったね」
そうして彼は、再び少年に座標を合わせた。
「!?」
そこで、少年が明らかにこちらを見ていることに気付いた。
(ま、まさか、そこから見えているのか!? そんなこと、ありえるのか!?)
動揺。それは射撃時において一番あってはならないことだ。
指の震えが止まらない。
だ、だが、
(頭を撃ち抜けばそれで終わり。これぐらいの震えなら、問題なく撃ち抜ける)
彼は少年を狙って射撃した。
ダン
が、弾は少年に当たらず地面に直撃した。
少年が、首を曲げている。
(避けた!? そんな馬鹿な!? どれ程の速さで飛んでいってると思っているんだ!?)
さらなる動揺、さらなる震え、これでは射撃は不可能。
彼は圧倒的敗北感と共に射撃を断念した。
「もう少し、もう少しだ」
屋敷はもう視界に入っている。もう後、数メートル。
少年は、辿り着いたという達成感と、ここまで長かったという今までの苦悩を思いながら感動に浸りつつあった。
まだ着いたわけでもなく、着いても何か変わるのかも分からずに。
そうして、少年は屋敷に辿り着いた。
幸いにも門は開いていて、中へ入る。
いやに静かな空気が、カラスの鳴き声をより際立たせる。
酷く不気味な雰囲気だ。
少年は扉を開け、屋敷へと入っていった。
中は真っ暗だった。窓から挿す月明かりのおかげで、かろうじて中は把握出来るが、細かいところは見えない。
とりあえず少年は、中央にある大階段を上って二階へ。
二階には廊下が長く続いてはいるが、部屋らしい部屋は一つしかない。
少年はその部屋に入っていく。
ガチャという音が鳴り、静かに扉が開いていく。
「これは……………」
観たことのない薬品、何かの爬虫類と思いしき剥製、そこは研究室のようだった。
「一体、これは何の研究をしているんだ?」
机の上に置いてあるものが一番気になり、近寄ってみる。
そこにはこう書かれ、二つの錠剤が置かれていた。
『強肉症:発症剤・沈下剤』
「!!!」
探し求めていた物があっさりと見つかった。
少年はすぐに沈下剤と書かれた方を、何の考えも無しに飲む。
「……………?」
特に変わった様子は無い。
しいて言えば、薬品が異常に美味しかったぐらいだ。
「とりあえず、ここから出よう。長居は無用だ」
少年はすぐにここから出ようとした。この屋敷から感じる独特な不穏感、それが少年にとっては酷く苦痛だった。
階段を下り、玄関まで一直線に進む少年。
そして、扉に手をかけた。ところで、
ギギギィィ………
何かの鳴き声が聞こえてきた。
よく見ると、階段の横に下へと続く違う階段がある。
(いや、何してるんだよ? 早く帰るんだよ)
そう思いつつも脚が動かない。
どうしても気になる。そこに行ってみたい。
その思考が、どんどんと理性を崩壊させてくる。
少年は階段を下りていった。
「これは……………何だ?」
階段を下りると、そこは高台のようになっており、その下には大空間が広がっている。そこまではまだいい。問題は…………、
ギギギィィ
クチュグチャ
グオォォォ
壁を這いずり回る毛むくじゃらの大蜘蛛。
人のようで、人ではない腐敗者。
床を覆い尽くす程の大量の触手のような蛆虫。
そこにいるものどれもが、異質、異質、異質―――――――
「うっ」
少年を口を抑え、その場から出ていった。
耐えられなかった。この、異質な空間に。
どれ程走っただろうか? もう屋敷は見えない。
「ハァハァ、ハァ、ハァ、」
少年は膝に手をつき、息を切らしている。
「いたか?」
「いや、もう見つからない」
「!?」
またこの声。これは、黒服のヤツらの声だ。
「ん? この子は…………」
距離にして数メートル。そこまで接近されるまで、気付けなかった。
「おい、コイツって」
「……………違うな。見ろ、光らない」
そう言って片方が腕輪を見せている。
どうやら、あれが発見器らしい。
「本当だな。何だ、ハズレか」
そう言ってもう片方が少年の頭に手を乗せる。
「ほら、早く帰んな。親御さんが心配するぞ」
その優しい一言だけ言って、二人は去っていった。
今ので確信した。
強肉症が、なくなったのだ。
あれから少年は、また普通の生活に戻っている。
あの屋敷のことは誰にも言ってない。
格好いい人なら、あそこのことを全部警察やら政府やらに話し、一緒に協力してあの生物達を駆逐するのかもしれない。が、
(俺は主人公じゃない)
少年は関わらないことを選んだ。
そうすることこそが、最善だと本能が告げたのだ。
だから、今日も少年は日常を歩む。
時折思い出す、あの食事の風景に苦しめられながら。
少しでも楽しんで貰えたのなら嬉しいです。
現在、『失った後の世界とは』『雪花霊招』という作品を連載しております。興味があればぜひ!
まだまだ至らない点ばかりですが、何かアドバイスなどがあればtwitterなどでコメントくださると嬉しいです。
ここまで、有り難うございました。