2.婚約者?!
「今、何と? 陛下」
「いや、だから。もうソフィアーネも十七なのだし、婚約者を決めた方が良いと……」
「今、何と仰いましたか! 父上?!」
「だーかーらー! 婚約者を決めろって言ってるの!!」
「はぁああああああ?!」
「こっちがはぁああああああ?! だよ! 嫁ぎ遅れになったらどうするの?!」
家臣が見ているにも関わらず、しかも王族であるにも関わらず幼稚な闘いを繰り広げているのは、ソフィアーネと現国王のベリアル。
因みにベリアルは阿呆ではない。……筈だ。少し頭のねじが緩いだけで(家臣談)。
「もう候補は決めてあるからねー! まぁ最終的にはソフィアーネが好きになった男で」
その時、アレクのこめかみにハッキリと青筋が浮かんだ。
この国王、ゲーム感覚で楽しんでやがる……!
今にもベリアルにつかみかかりそうなアレクを慌て止める騎士団の面々。
その間も、二人の口論は続く。
「そもそも、魔物を倒し切れていないのに身を固める訳にはいきません!」
「婚約だけ何だからいいじゃない?」
「私と婚約して嬉しい者などいません!」
「無自覚ぅぅうううう!!!」
「五月蝿い! お兄様、助けてください!!」
ソフィアーネが、壁際にいた兄・ルキアに助けを求めた。
「いや、お前の視力が失われたのは俺のせいだからな。人並みの幸せくらい、つかんでほしい」
「私は現状が一番幸せです!」
両者とも一向に引かず、公務が迫っているので一旦ソフィアーネは自室に戻った。
「全く! 信じられないわ! ねえ、アレク?」
ああ、今すぐ闇討ちに行ってくると言うのを抑えて、なるべく控えめにコメントする。
「まあ、そうだな」
「私が聖属性ではなかったら、直ぐに倒していたわよ! アレクは炎属性よね!? 嗚呼、羨ましい限りだわ!」
この世界では、得意不得意はあるものの、誰でも一人一つの属性の魔法を使えた。ソフィアーネは特に珍しい聖属性を使えるからこそ、国の魔物討伐を一任されているのだ。
剣の腕はすこぶる立つが頭は単純なアレクは、その手が合ったかと考えていた。詰まるところは単純馬鹿なのである。
「はは、言葉が悪いよ。ソフィアーネ」
「……リアンお兄様っ! お久しぶりですわ」
突然角から現れ、アレクからすれば馴れ馴れしく声を掛けたのは──ソフィアーネの従兄にあたる、リアン・ヨルクである。
アレクはゲ、と顔をしかめた。