1.盲目の姫君
本日二話投稿しております。
「では、魔物が増えてきているのね?」
「はい。──失礼ながら、先王陛下が魔物討伐を怠ったせいかと」
サズディア王国先王、リチャーズは決して暴君ではなかった。ただ、外交を優先する余りに国内に目がいき通っていなかったのも事実だ。
話を聞いていた金髪に空の瞳の少女──サズディア王国第一王女ソフィアーネは、静かに溜め息をついた。
「承知しています。聖魔法を使える者を育てなければなりませんね。今現在使えるものは即座に各地の教会に配置、その地で聖魔法の使い手を育てなさい」
「はっ」
文官が敬礼したのを気配だけで感じ取り、ソフィアーネは微笑んだ。
──目が見えていなくても、こうして私は王族としての義務を全うできている。幸せなことだわ。
ただ、現状はそう気楽にしていられなかったのだが。やはり、年頃の娘であるソフィアーネも愉しいことは大好きだったのだ。
「アレク、いるのでしょう? 出てきて頂戴」
「姫、申し訳ありません」
隠れていたことについてか、わざと大袈裟に誤る彼は、銀の髪に青の混じった紫の瞳を持つ美しい青年だった。
「二人きりよ、アレク」
「分かってるよ、ソフィ。全くソフィの洞察力には舌を巻くね。驚かせてやろうと思っていたのに」
淡く微笑むソフィアーネは、触覚や聴覚と嗅覚、洞察力を総動員し、更に魔力の気配を探って生活している。
「アレク、今日もお話を聞かせて。本当に私、この時間楽しみにしいるのよ」
足音が響き、座っている椅子に彼が近づいてきたのが分かる。
「城下町では、三日後に祭りが開催されるよ。他国からも沢山人が来るみたいで、賑やかになるだろうね」
「へぇえ……私も行きたかったわ。後でまた祭りの話も聞かせてね」
「……ああ」
アレクの顔が微かに歪む。見えないはずなのに、ソフィアーネは間からそれを読み取った。
「あら、気にしないで。貴方のせいではないから。あの時、まだ十歳だったでしょう?」
「でも、七歳の君はとっさにリューバを庇った」
「もう! そもそも、城を抜け出した私が悪いのよ」
ソフィアーネ七歳の誕生日、城では盛大なパーティーが開かれていた。退屈したソフィアーネは、リューバと共に森に出かけた。
捜索隊が二人を見つけた一瞬早く、魔物はソフィアーネに噛みついていた。
そして、最初の発見者がアレクだったというわけだ。それ以来、アレクは自分からソフィアーネ専属の騎士として守っていてくれる。
美しく聡明さを失わない、盲目にも関わらず明るい彼女に恋心が芽生えたのは、いつ頃だったか──。