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R童話-やんわり-情景童話

【仮】あなたに贈る最後の言葉-荒野の中で別れと出会いと発見を。

作者: RYUITI

 晴れ晴れとした青空の下、広大な荒野の中に。

腕半分の大きさを持つ血濡れた短刀を片手に持って、

短刀についた血を服の袖で拭きながら、

褐色蒼眼の女は笑う。

柔らかく笑いながら、

眼の前で寝息を立てる朱色の髪の相棒の額を撫でる。

相棒の肌に触れている褐色蒼眼の女の表情は穏やかで有りながら、どこか悲しげで、せつない。

額から頬へと撫でる場所を移した褐色蒼眼の女は、

その手に感じるぬくもりと優しい感覚を惜しむように何度も何度もゆっくりとゆっくりと撫でていて。


相棒の柔らかな肌に触れる度、

今まで旅をしてきた事がゆらゆらとふわふわと、

小さな灯りのように浮かんでは消えていく。


同じ食べ物の量の違いで喧嘩し、

同じ大きさの寝床で一緒に寝た。

同じ感覚で笑い、互いを抱きしめながら泣いた。


広大な大地や、

通常とされる生き物の寿命であったなら、

この数年の出来事は、

色々な意味で刹那の瞬きだったのかもしれない。


けれど、私はそうじゃない。

多く混在する命の代用品として生まれた私には、

他と同じように笑いながら、

生きる路、歩き進めてきた場所を、

刹那の瞬きと言い切ることなんて出来なかった。


私の命は、本当に刹那に瞬くように短かったから。


嗚呼、其れでも――貴女と会えてよかった。


貴女が眼を覚ました時、

きっと驚くことだろうと思う。

あんなに辺りに散らばっていた愚かしいモノ達を、

一つ残らず殲滅しているんだから。



なんだか、眼が霞んできちゃったな。


そういえば、もうすこし、もう少ししたら。

私たちが初めて顔を合わせたあの日がまたやってくるよ。

次、あの日を迎えた時には、願い事を言い合う約束だったね。


間に合いそうにないから、もういうね。


「次また会えたら、また一緒に旅をしようね、

また一緒にお宿に泊まろうね――。 」



私に、笑顔を教えてくれて、ありがとう。


褐色蒼眼の女に灯っていた感覚が、

穏やかな風に導かれるようにしてゆるりと消えていった。



「ん……っ」――柔らかい風が、

眠っていた朱色の髪の女の子を起こす様に撫で流れていく中で、

ぼんやりとした思考、視界がだんだんと鮮明になっていくのを感じた女の子は、

旅の相棒である褐色肌で蒼色をした女の子の姿が見えない事に気が付いた。


いつもならどんなに暑苦しくても、

寄り添うようにして近くにいるはずなのに。


そう思った女の子が相棒を探す目的で辺りを見回すと、

少しばかり離れたところに愚かしいモノの残骸が散らばっていた。

風に吹かれて鮮明になっていくのは、多くある砂粒と、

広大な荒野に点々とある愚かしいモノ達の赤い体液。


この残骸はすべて、あの子が成し遂げたモノなのだろうか。

辺りを見回しながらそう考えていると。


少しばかり離れた場所にキラキラと陽に当たって光を返す物体が見えた。


遠すぎるほどでもないので、

キラキラと反射するその光を頼りながらもそもそと歩いていった。

ゆっくりと荒野を進むにつれて、

キラキラとしていた其れが昔、旅をするときに私が彼女に贈った一本の短剣だという事を理解した。


ここ最近は刃が摩耗してきたという彼女の言葉にその姿を見ることは無かったけれど、

あれからもう何年も過ぎているというのに、

その刃は錆や摩耗を感じさせることなく、彼女の眼と同じように一つの曇りもない蒼色に輝いていた。


まるで彼女が宿っているかのようなそんな感じがする。


ああ、そうか。


あの子は、私と同じ人間によって作られながら、失敗作や呪いを帯びた道具としてしか見られることのなかったあの娘は、やっと自由になれたのかもしれない。


彼女を作り出した人間と同じ種の私には、

眼の前にある、蒼色に輝く短刀を引き抜く資格なんて――きっと無いんだ。


彼女は、憎むべき種と、やっと別れられたんだから。


「私も、そろそろ潮時かな 」

そう呟いて腰にさして置いた細剣を胸に突き立てて眼を閉じる。


後は、力を入れるだけ。

そうしたら私はきっと、拭えない罰の世界へと逝くんだろうな。

「馬鹿だなあ――私、あの娘と一緒に居ても何もしてあげられなかったよ…… 」

悲しくなんかないのに、泣きたくなんてないのに。

静かに頬を伝う雫の熱さが、よりいっそう自身に怒りを募らせた。


少しだけ息を吸ってはいて。

細剣を持つ手に力を入れる。

「ごめんね。 」

剣を持つ手を思い切り前に、動かした。



――――。

――――――。


あれ、痛くない……?


そう思って閉じていた眼を恐る恐る開くと、

細剣は女の子の胸を貫いてはおらず、黒色の腕が、細剣をしっかりと掴んでいて。

「まったく。 赤ん坊の次は少女を見つけてしまうなんて。オレもついてないねえ。 」

そう呟いた男性は、肌に汗をかきながらも穏やかに笑って、

強い力で女の子胸元から地に細剣を降ろしたのでした。

「あ、あの! 」

朱色の髪の女の子が、言葉を発しようとした時、

黒色の男性は其れを静かに制して、

「びっくりさせてしまったね。オレはただのお節介焼きの旅人だ。

こんなにかわいらしいお嬢さんが、

荒野の真ん中で死ぬなんてもったいない。と思って勝手ながらに止めさせてもらったよ。

旅をしてもなお自分が小さいと、哀れだというなら、あの子と同様、もっと広い世界を見せてやる。

さあ、虚しさを拭い、眼に力を灯して旅に出るとしよう。

このウォンダーメルーと共に。 」


そう言って黒色の男性に差し伸べられた手を、

勢いで、困惑気味に掴んでしまった朱色の髪の女の子は、

眼前にある蒼色短刀をゆっくりと引き抜くと、

これまた困惑した顔で前を向いて黒色の男性の手を取った。


出会いの妖精すらも困惑するであろう二人の旅は、

別れを経た今、この何もない荒野から始まった。


この二人の旅はどんなモノになっていくのか、

其れは誰にもわからない。


唯、わかることがあるとするならば、

親愛の相棒と同じ色をした短刀は、これから先、

彼女の路を、折れることも欠ける事もなく輝き続けていくことだろう。








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